3 タイトル詐欺返上
ノシノシとこちらに向かってくるのはエルフさんや女騎士さんと仲良しのオークさんだ。使い古されたネタだけどいいですよね、定番って。もうね、大好きだよ。スケベな男子高校生がコソコソスマホで読んでたエロ漫画を覗き見さしてもらいましたけどね、あれはほんと良い文化ですわ。一度は言われてみたいですもん『くっ! 殺せ!』ってね。
まあ、それはさておき嬉しいことにうちのヒロイン大ピンチですわ。相手の身長は212cm! 対するアカリちゃんは148cm! いやあ、体格差を考えるとコレは流石にきついんじゃないかね?
もしかすると、ほんとにもしかするとなんとかやっちまえるのかもしれねーけどさ、ゴブゴブも4匹残ってるとなりゃあ分がわりいだろうな。ほうれ、残りのゴブも『ラッキー今のうちだぜ』とばかりに動き始めたぞ。
流石のアカリちゃんも分が悪いと判断したようで、一時撤退とばかりにこちらに戻ってまいりました。おかえり! マイハニー!
「やっぱあれが相手だと厳しいか」
「いや、デカブツはやってやれなくもなさそうだが、手下のゴブリンが邪魔でなー。下手に手を出しゃゴブリン達の攻撃を捌ききれなくなりそうだ。も少し場所が良けりゃあよ、あの数でもやりようが無いわけじゃねーけど、これじゃお手上げだな」
やっぱやってやれなくもないんだ……オーク殺れるんだ、場所がよければあの数もなんとか出来るんだ……アカリちゃんパねえな、君んち、代々受け継ぐ国の秘密組織だったりしない? 現代に生きるニンジャみたいなさ。おじさん、君が普段どういう生活を送っているか興味深いよ……。
でもまあ、そんなアカリさんもこの状況はなんともし難いと。ほんとゴブリンが残ってたのは幸いだったな。おかげで当初の予定どおりの舞台が出来上がったってわけだ。
敵に囲まれピンチに陥るヒロイン! 力が、あたしにもっと強い力があればなんとか出来るのに! 悔しい! 負けたくないよ! そこでこの俺が囁くわけですよ。必殺のセリフをね。
も少しバトって息も絶え絶えくらいにやんのがドラマチックで効果的だとは思うんだが、流石になー、俺って悪魔じゃなくて神だし? 女の子がひどい目に会うシチュってそこまで好きじゃねーし。流石にオーク込みの5対1でボコられるのは可愛そうだしさ、ここらで揺さぶりをかけてみようじゃないの。きっと今ならホイっと乗るはずだからな!
「アカリよ……力が……ほしいか?」
「え、いらねえ」
「即答かよ! つーかなんでだよ! 拒否ってんじゃねえよ! この状況を打開するには俺に頼る他ねえだろうが!」
「だってお前、どうせあたしに『変身しろ』とかいうんだろ? やだよぜってー恥ずかしいかっこにされるもん!」
「ぐっ!」
アカリちゃん馬鹿なのに察しがいいから嫌い! ……『されるもん!』だって、かわゆ。あーやっぱ好き! 俺アカリちゃんと結婚する! 可愛いから! じゃなくてだな。なんてこった、まさか読まれてるとは思わなんだぜ。でもよ、アカリちゃん。相手はどんどんこちらに迫ってきているわけですよ。後ろはもちろん崖、既に退路はないわけですよ。わかるだろう? なあ、わかるだろう!?
ほら、今ちらっと後ろを見た! ね? ね? わかったでしょ? 後ろ崖! 前から陵辱モンスター! このままじゃクッコロになっちゃうの! 俺はちょっと見たいけど、アカリは嫌だろ? 苗床にされちゃうんだよ? 嫌でしょー? うーし、ここでもいっかい説得を――
「後はねえ……か。こうなったら猫さんだけでも崖下に投げ捨ててあたしは特攻するしかねえな……ふふ、今までありがとな、猫さん。短い間だったが、楽しか――」
「って、待て待て待て! なに自爆特攻しようとしてんだ! 男気溢れさせてんじゃねーぞマジで! ほら! まだあるでしょ! 形勢逆転のアレが! アレを使えば俺を下に逃さなくても平気っつーか、流石にこっから投げられたら死んじゃうから! 頼むからやれよ! やってくれよお!」
「やだああああああああああ!」
「死ぬよりマシだろがよおおおおお!」
揉めはじめた俺たちをみて足を止め、首を傾げて見るオークさん御一行。あ、すいませんね、今ちょっと立て込んでまして。もうちょっとだけ待っててもらえませんかね? いまこの子説得するんで。ほら、アカリ! オークくん達が迎えに来てるわよ! 魔法少女になろ? みんな待ってるよ! って、こらオークてめえ待ってろつってんだろ! なに駆け出してんだよ! こっち来んな馬鹿!
うっわ、見てくださいよ奥さん! あのぶっとい棍棒! どっからあんなの見っけてくんだろう? 自作? ねえ、オークのくせに自作とかしてんの? つーか、やべえ、流石にやべえ! やべえから頼む、頼むよ!
「マジで頼むって! アカリぃいいいいいいい!!! 死んじゃう! このままだとふたりとも死んじゃうからああああ! 大地の染みになっちゃうからあああ!」
「ちっくしょおおおおおお! しょうがっねえなああああああ! くそったれがあああ!」
アカリ先生、ああ言いつつもやっぱ死ぬのは嫌だったんだろうな。ほんとのほんとにピンチだってなったら、あっさり堕ちやがった! めっちゃ焦ったが作戦通りだ!
ああ、そうさ。魔法少女になる事を心から受け入れ、変身して敵を倒したいと願ったんだ。来たぜ来たぜ来たぜ! 契約を受け入れさせるためにピンチに陥れるっつー神らしからぬ真似をしちまったのは謝っても許してもらえねーと思うが、まあ、わざわざ言わなきゃバレねーだろうからセーフってことで。
けどよ、魔法少女になってくんねーと何も始まらねーんだ。俺とお前が元の宇宙に帰るために必要なことなんだ。どうか許してくれよな、アカリちゃん!
「うおおおおお! シャイナァアアアプリンセスッ! モォオオオオドチェエエエエンジ!」
……どうやら設定した通り、口が勝手に動いて変身キーワードを言ってくれたみたいだけど、やたらと気合充分なのはなんでかなあ……? もっとこう、可愛らしくセリフを言うように設定したつもりだったんだけど……なんでちょっと昭和の男の子向けっぽくなってんの。
ま、まあそれはいい! それより変身バンクだ! これがみたくって俺はがんばったんだ!
ウッヒョオオオオ! きましたぜえええ! 流石に全裸は上から叱られちゃうってんで神界コードギリッギリの線を攻めたが、これはこれでいいな! まだ幼さを残すボディをクッキリ見せちゃう銀色の光! うーん、エッチですね! ミディアムボブくらいだった赤髪も、サラリと伸びて長めのサイドテールに! 色はもちろん淫乱ピンクだぜ! ヒュー! 白☓ピンクな衣装と相まってとってもけしからん感じになっていて最高だ!
アカリのやつが照れて頬を染めているのもまたグッド! 見ろよ、アカリちゃん。君の美しい変身バンクにオークさんたちもうっとりだ。
まあ、変身バンクは俺以外にはまずみえねーようになってんだけどね。苦労したぜ? 変身中に時の流れを止めるってのはまともにやるとすっげえリソース喰うからな。それをうまいこと抜け道使って節約してるんだ。完全に時間止めたら俺も見えねーし!
この事は暫く秘密にしとくけどな! 変身しなきゃねーって時に、恥ずかしさとピンチを天秤にかけて顔を真赤にしながら仕方なく変身を選ぶアカリちゃん! すっげーいいじゃん? あああ! あたしを見ないでええええ! みたいな感じでさ!
ああ、畜生もう終わりか! 気張れよ作画スタッフ! 5分くらいの長尺でやってくれてもいいんだぜ? ってコード書いたの俺だった! くっそ、リソースがもっとあれば!
「煌めく輝力はあたしのハート! シャイナープリンセス、ここに見参! ……って、ちくしょうめ! 口と体が勝手に動いて恥ずかしい事しやがった! おい、猫さんてめえ、後で覚えてろよ!」
「へいへい、苦情は後から聞いてやっから、まずはモンスターをなんとかしてやんな」
「ちっ! しゃーねえ……なあっ!」
光の戦士、シャイナープリンセス。ペリチュアにシャインカイザーとかいうロボットアニメをかけ合わせたデザインのパチもんみてえな変身ヒロインだが、思った以上にハマったね。
ペリチュアもシャインカイザーも登場人物女の子ばっかのくせに、やたらと格闘技使いやがるからな。アカリが武闘派だとは知らなかったが、結果オーライって感じじゃねーか? 俺としちゃあ、普通のJCがわけも分からず必殺パンチを放って『うそ!? わたしのパンチつよすぎ!?』て動揺するのを見たかったんだが……。
「すっげえなこれ、めっちゃくちゃ体が軽いわ! いいねいいね! これならいけるわ!」
そうだろう、そうだろう。なんたって身体能力超向上のバフが常時かかってるようなもんだからな! 普通の女子中学生を戦闘種族にしちまうほどのバフなんだ、普通じゃないアカリちゃんにはめっちゃ効くだろうよ!
さあ、アカリさん。やってしまいなさい! そして力に溺れて依存するが良い!
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