4 良いですよね、決め技バンク
少し前まで追い詰めていたはずのゴチソウが、突然元気になって逆に襲いかかってんだ、ゴブさんもオークさんもちょっとびっくりした顔をしているな。
「どっせい!」
「グギャー!」
アカリちゃんのプリンセスパンチ! ゴブリンは眩い光りに包まれてドロップアイテムになった! ……なんか宝石見てえなやつに。
うっわー……まじか、パァン! って言ったぞ、パァンって。ワンパンで落ちるにしろ、もっとこう何かいいSEねーのかよ。あれじゃミンチになったみてえじゃねえか。
見ろよ、アカリのヤツすっげー嫌そうな顔してやがる。流石のアカリちゃんもグロ耐性はねーだろうからなあ……いくらファンシーなエフェクトで消えたとは言っても倒したのは人型モンスだ。吐くのかな? 吐いちゃうのかな? それはそれで俺の守備範――
「うっわ、なんだこれ。ゲーム見てえでキモチワルっ」
「……あれれ、アカリさん平気なの?」
「ん? ただゲームみてえに消えただけじゃねえか。普段から家の手伝いで魚捌いたり、爺ちゃんの手伝いでシカ解体したりニワトリシメたりしてたからさあ、なんつーのかな……あんな風に消えられると逆に違和感凄くて気持ち悪いくらいだ。あれってほんとに生き物なんだよなあ?」
「へ、へえー……あ、アカリちゃん後ろから2ゴブだよ」
「おう」
パァン、パァン。
いやいやいやいや……おかしいだろ、アカリちゃん。お魚さんやシカさん解体してるってのはまあ、びっくりしたけどさあ。そっち? そっちの反応しちゃうの? つーか消し飛ばしたゴブさん、さっき話しかけてたゴブだよ? 人型だよ、人型! 普通少しは躊躇するでしょうに!
「うっし! 残りはゴブ1、オーク1だな!」
「アカリさん、人型のモンスターなのによく平気ですね?」
「人型だろうがなんだろうがモンスターなんだろ? こっちの世界じゃ狩りの対象になってるってんだろーし、そんなら動物狩るのといっしょじゃねー……のっ!」
パァン
やべーな、女子中学生ってこういう生き物なの? 切り替え早すぎねえ? もすこしこう、グズグズしたりしねえの? 風船割るみたいにサクサクゴブリン滅してるよ……いや、きっとアカリちゃんがおかしーんだろうな……。
「さあ、残るはお前だけだ。先に仕掛けていいぞ、おら、来いよ!」
「グルルゥ……」
うわー、オークさん、すっげえ嫌そうな顔してるよ。もう帰っていいかな、だめかな? みたいな顔で俺を見てる。いや俺に訴えかけんなよ、アカリに言えよ。まあ許しちゃくんねーだろうけどな。
どうにもならぬと悟ったのか、決死の特攻をかけるオークさん。ごめんな、陵辱モンスター。俺がアカリのやつに変身なんてさせてなけりゃあ……!
棍棒をブンブンと振り回し、アカリに連撃を加えていく。ゴブリンの攻撃よりも数段速く、範囲も広いその攻撃は変身前のアカリならば避けることは難しかっただろう……多分。
だが、シャイナープリンセスと化したアカリは無敵だ。退屈そうな顔でヒョイヒョイとそれらをすべて躱し、やけっぱちとばかりにオークが放った強烈な一撃を脚で受け止めて――
バキャ
――棍棒をへし折りやがった。
オークのやつ、びっくりした顔してる! うんうん、わかるぜ、俺もびっくりした! おいアカリてめえ変身ヒロインだろ! 脛で受けて武器破壊とかするんじゃありません!
あーあ、見ろよ。オークさん、得物を失って『くっ! 殺せ!』みたいな感じになってんじゃん、お前がやんのかよ! はー、そのシチュ、逆の配役で見たかったっつーの。
まあいいや。オークもすっかり戦意消失したみてえだし、せっかくだからアレやってもらお。
「なんだ? もうおしまいか? じゃあ、今度はこっちから――」
「シャイナープリンセス! ストップだ! ステイステイ!」
「おいこら! あたしを恥ずかしい名前で呼ぶな! 砕くぞ!」
「怖いこと言うのはやめろ! つーかよく聞けアカリ。相手にはもう戦う意志はねえ。そんな相手をお前は消し飛ばせるのか?」
「うーん、確かに近所の犬みてえなツラになってっけどよお、こいつら害獣だろ? ほっといたらまた悪さすんじゃねえの?」
「そこでこれだ、これをつかえアカリ!」
俺の秘密ポケットからひょいっとステッキを取り出してアカリに手渡してやる。ああ、そうさ。必殺技を放てるアレだ。おもちゃ屋さんで娘がパパに強請るアレな。
「おー、いい感じの鈍器だな。こいつで殴って楽にしてやれってことか?」
「おいこら、殴る道具じゃねえよこれは! オークさんブルってるじゃねえか! まあ楽にすんのはあってるけどな、物理じゃなくてマジカルなアレで浄化すんだよ。悪い子もすっかりいい子になるってわけだな、たぶん」
こいつには邪を祓い清浄化する能力が込められている。モンスターに使ってどうなるかは……まあ、知らねーけど、パァンされるよりはきっといい結果が訪れる……はず。全く効かないような気もするけど、それはそれでアカリのおもしれえリアクションが見られそうだからオッケーだ!
「使い方はもうわかるよな?」
「ああ、イラつく事に持った瞬間全部理解した。言いたくねえセリフを言わされて妙なポーズ取らされることもな……って、くそ! 来やがった!」
シャイナーステッキ(笑)をこれから使うのだとアカリが心から認めたんだろうな。変身バンクと同じく、必殺技バンクに移行してオートで体が動き出したようだ。
……こうなるって知ってたらさあ、すっげーエッグいヤツしこんだのになあ! パスが繋がらねえここなら神界コードガン無視してもバレねーじゃんね。南町のカズくんがやってたゲーム見てえにさ、感度256倍! とかそういう感じの房中術とかやらせることだってできたじゃねえか! あーあ、あーあだな!
「陽のあたる場所に還りたい……貴方が求めるなら、あたしの光で導いてあげる。シャイナァァアアアアアアプリズムシャワァアアアアア!!!」
おっと、少しエッチな妄想をしているうちに必殺技バンクが進んじまってたようだ。つーか、やっぱ少しだけだけどアカリのやつの干渉が見られるな。もっとこう、お淑やかな感じのはずなんだが……途中から気合が入りすぎてシャインカイザーのパイロットの女の子みてえになってやがる。
ロボットアニメと掛け合わせてパチったのが影響してんのか? まあいいや。とにかく今はどうなるか見守ろうじゃねえの。
ファンシーな感じの光の雨が降り注ぎオークを包み込んでいく。周りにはカラフルな星が飛び交い、これぞ魔法少女って感じの乙女アピールを欠かさない。
だが、その中心にいるのはむさっ苦しいオークさんだ。今にもエルフさんを襲いに行きそうなオッサン顔のオークさんが……何ということでしょう、うっとりとした顔で安らいでいるではないですか。正直キメェな。
「インパクトォオオオオオオ!!!」
そしてためにためて決めのセリフドーン! 同時に光の柱ドーン! 俺の予想では光に飲まれてそのまま消滅すると思うんだけどどうなるんだろう? 絵的にパァンより良いかなくらいの違いしかないけどさ。
まあ、もともと日本で悪霊退治に使わせるつもりで組んだコードだからなあ。事故物件浄化して回ってリソース稼ごうかなーって。だからこれが実体を持つモンスターにどう作用するかはわかんねーんだ。
光が止んでいく。オークさんは……果たして……?
「ナンテ、ナンテアタタカナヒカリ……セカイハコンナニモウツクシカッタノカ……」
健在だー! けど、なんか妙だな。綺麗なガキ大将みてえになってやがる。目ェきらっきらだし、なんか片言だけど喋ってるし……。
「おい! 猫さん、オークのやつ生きてるぞ! どうすんだあれ! やっぱ殴るか?」
「落ち着けアカリ。どうも様子が変だ。戦意がねーどころか友好的な感じになっちまってるぞ」
「マジだ……顔が穏やかになったせいかちょっとヨシオおじさんに似てるわ」
誰だよヨシオおじさん。つーかオークに似てるとかいってやんなよ可愛そうだろ。なるほどなー、実体がある奴を浄化すると邪悪な心が綺麗になるっつーことか? まんまペリチュアじゃんな、これ。いやあ、結果オーライってやつだね。
と、オークのやつ、何処から出したのかわかんねーが、でけえ宝石みてえなのを持ってこっちに歩いてきてるな。
「アリガトウ、ヒトノコヨ。コレヲウケトッテクレ」
「お、おう? なんかわりいな? ありがとよ」
「モウ、ワレニハ、フヨウダカラナ……サラバダ、ヒトノコヨ。イツカマタ、アオウ」
アカリにでけえ宝石みてえなのを手渡したオークはしっかりとした足取りでノシノシと立ち去っていってしまった……変身前にボコられてパァンを逃れたゴブを1匹担いで……ゴブも巻き込まれて浄化されてたみたいだし、まあどうでもいいか。
「ヨシオおじさんがくれたこれ……なんだろな?」
「だからヨシオ呼ばわりはやめろって! うーん……アカリがパァンしたゴブも小粒のやつを落としてんだよな。もしかして、定番の魔石とかいうやつかもしんねーな」
「ああ、換金アイテムか」
「言い方! ま、こっちで活動する以上、金は要るだろからな。預かっといてやるからよこしな」
「あいよ……って、謎ポケットにひょいっと入れやがった。あれだな、猫さん。未来からきたアイツみてえだ」
「あいつのポッケより性能はいいけど、まあ似たようなもんだわな、俺もアイツも猫だし」
しっかしオークのヨシオ化ね……。弱いモンスターがパンチで浄化されたのもびびったが、ビーム兵器浴びせるとああなんのはおもしれえな。
ヨシオをちらっとサーチしてみたが、オークのときより知能レベルが大幅に上がってたんだよな……データ不足で種族名なんかはわかんねーけど、多分アレ、上位種つーか、文明を築けるタイプの生命体に進化しちゃってるわ……。
この惑星の管理者がすげー怒りそうだけど俺知らねー。つーか、ビームで得られたリソースかなりエッグいわ。パァンでもまあまあ貰えたけど、20パァンくらいはあるぜ、これ。
これなら……思ったよりだいぶ早く帰れるかもしれねえなあ。
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