2 ゴブリンvs魔法少女

 アカリの身体能力のおかげでここまでゴブリンに捕まらずに逃げられてたんだが……どうやらそれもおしまいのようだな! どうしてこう、俺が思い描いたとおりにことが進んじゃうんだろうな、怖くなっちまうぜ! ま、こうなるようにアカリを誘導したんだけどね、うふふ!


「ちくしょう! サスペンスドラマ見てえな展開してんじゃねえぞ!」

「逃げた先が崖とかほんとアカリはもってるよな! さっさと罪を告白しちまいなよ」

「あたしはなにもやってねえ! つーか猫さんが悪いんだろうが!」

「うける、それっぽくてうける。追い詰められて逆ギレする犯人まんまじゃん」

「うるさいぞ!」


 アカリ弄るのおもすれ。いやまあ、地味にホントのピンチではあるんだよな。崖の下はどうやら森のようだが、下の地面まで15mは軽くあるわけだ。上手く木の上に飛び降りてそいつをクッションに出来たとしても、良くて大怪我、悪けりゃお陀仏ってとこか。


 となれば、息を切らしながらにじり寄る5体のゴブリンをなんとかしなければならねーってわけで。このピンチな状況こそが俺が待ち望んだ展開なんだが、さて、アカリちゃんは俺が思ったとおりに動いてくれるかな?


「うーん……なあ、猫さん。あたしにアイツラが殺れると思うか?」

「えっ!? メンタルつよっ! ここでその発想が出んのホントスゲーよ」

「しょうがねえだろ、こうなったらぶん殴ってどうにかするしかねえだろがよ。崖から落ちるか、アイツラに喰われるかってんなら、あたしはアイツラをぶん殴って黙らせる方を選ぶ」

「選択肢の意味よ」


 気が強いアカリであっても、ゴブリンに追い詰められたら怯えた姿をみせるんじゃないかなあ、死んじゃう死んじゃう、助けてママァって泣くんじゃねーかなー、そうなったらいよいよ満を持してアレの出番だよなあ……gffって企んでたんだが、出てきた言葉は『殺れるか』か……。


 おもしれーけど参ったな、そう来たかぁ……まあ、今の俺でも多少の怪我なら手当出来るし、まずはアカリの奴に『現実』ってもんを味あわせたほうがいいかもな。


 アカリはゴブリンをザコ敵と舐め腐ってるが、甘いね。いくらトレーニングをしていたところでアカリは一般人、それも女子中学生だ。角が生えたウサギを撲殺出来るような存在に敵うはずがねーだろ。


 普段からトレーニングしてるつってもさ、どうせマラソンに腕立てとかだろ? 実戦経験なんて無いだろうに、そんな素人が放ったパンチやキックなんてゴブリンにゃ屁にも感じられないだろうさ。


 調子こいたアカリはきっとゴブリンに通らねえ拳を見て愕然とするだろうね。逆に一撃貰って吹っ飛ばされるかもしんねーな。

 そうやっていいくらいピンチになったところで俺が颯爽と声をかけりゃよ、アレを使ってピンチを乗り越えるって気にもなるってもんさ。なーに、一度やっちまえばこっちのもんだ、後はズルズルと既成事実で良いように出来るってわけだなぐふふ!


「ま、どうせ逃げ道なんてねえし、相手はどうやら邪悪なモンスターのようだかんな、うっし、アカリさん、少し懲らしめてやりなさい」

「急に御老公になんじゃねえよ……」


 華奢な体で何やら構えのようなものを取ったアカリを見てゴブリン達がグギャグギャと笑い声を上げる。なにわろてんねん、かわいいやろがい。アカリはソレが気に入らないのか、舌打ちをして睨みつけ、挑発するように言葉の暴力という軽いジャブを入れた。


「どうした? かかってこいよ。それとも追いかけることしか出来ねえのか? おら、そこの顔色がわりいやつ! まったくゴブリンみてえなツラしやがって、おら、どうした! きやがれってんだ!」

「グギャギャッ!」


 くくく、アカリの煽りが面白すぎて腹筋がはち切れそうだぜ。まあ、挑発としては悪くなかったみてえだな。うまいこと1匹だけ釣り上げたようだ。


 棒切れを構えたゴブリンAがグギャギャーと雄叫びを上げながらアカリに向ってそれを放つ。


「ふうん、そんなもんか? お前らモンスターなのにそんなもんなの? 兄貴より遅えじゃねえかよ」


 ゴブリンが振るう木の棒を……ヒョイヒョイと躱して……る?


 あれ? なんか普通に戦えてない? アカリちゃんってああ見えて普通のJCだろ? おかしくね? つーかなに? 兄貴より遅い? もしかしてアカリちゃん、お兄ちゃんと日常的に殴り合いか何かしてらっしゃる? そういやあの子のおうち、家族のプロフィールが少し物騒だったような……。


「うーん、ま、こんなもんか? ちょっと飽きてきたから今度はこっちから行く……ぜ!」


 タッと地面を蹴ったかと思ったら、するりと懐に潜り込み。呆然とするゴブを置き去りにしてそのままフッと顎をめがけて掌底を放つ。カウンター気味に当たったそれは大層効いたらしく、グフッと息を吐きだしすっとんで、受け身も取れずにドサリと背中から落ち……たな。


 ねえねえ、アカリちゃーん、君、魔法少女なんだよ? 格闘マンガの主人公みたいなことしちゃだめじゃないのー。うわあ、ゴブリンAくん、ぴくぴくしてるーめっちゃ痛そう……。


「ふう……まずは1匹、と。なんだ、ゴブリンつってもこんなもんか。逃げて損したわ」

「……アカリさん、強かったんっすね」

「何だその喋り方。気持ちわりいからやめろ」

「へへっ、じゃあ残りのゴブリンもその勢いでたのんますぜ……って、おいアカリちゃん。なんかデケエの来てる! デケエの来てるよ!」

「ぬ? ぬおお!」


 およそ女子中学生らしからぬ声を上げて驚くアカリ。うっしゃあ! 天は俺を見放してなかったぜ! 本部からは放逐されたけどな! 予期せぬ援軍の到着だぜえ! 

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