シーズン1 サウザンの魔法少女
第1話 はじめての変身!
1 接敵
「後はねえ……か。こうなったら猫さんだけでも崖下に投げ捨ててあたしは特攻するしかねえな」
「待て待て待て! まだあるでしょ! 形勢逆転のアレが! 俺を逃さなくても平気っつーか、流石にこっから投げられたらデスペナ貰うから! 頼むからやれよ! やってくれよお!」
「やだああああああああああ!」
「死ぬよりマシだろがよおおおおお!」
追い詰められ絶叫する一人と一匹。
……俺たちは今、こっちに来てから最大の危機に陥っていた。
――時を遡る事三〇分前の事。俺たちはこちらの世界に降り立ってはじめて、知的生命体っぽいのと遭遇した。
体長138cm、アカリよりもやや小柄なその体躯はそれでいてやや筋肉質で。ワイルドな笑みを浮かべたその生命体は生意気にもボロ布のようなものを身にまとっている。
右手に握る棒きれ……おそらくは武器なのであろうそれには、獲物を撲殺してついたと思われる血らしき赤黒い液体がこびりついていた。そして、左手に握っているのはその獲物と思われる小型哺乳類だ。地球の動物で例えるならばウサギが近いであろうその生物は、額に角を生やし、如何にもそれで突き刺すぞという物騒な姿をしている。
程度は低くても武器を持ち衣服に身を包んでいる以上、言葉の概念を持ち、簡単な社会を形成する程度には文明を築いていそうだ。
「ねえ、アカリちゃん。持ち前の明るさでちょっとあの人とコンタクト取ってみてよ」
「うるせえぞ猫さん。気持ちわりい口調で無茶振りしやがるんじゃねえよ。あれってどうみてもやべえヤツじゃねえか!」
ちっ! マスコットキャラらしく言えば乗ってくれると思ったが、流石のアカリでもだめだったか。
にしても……あれってどう見てもゴブリンだよなあ……? 手に持ってんのはホーンラビットってとこか? こっちの宇宙も似たようなもんなんだなあ。創作が先か発生が先かはわからねーけどな。
俺たちの宇宙における管理者達が参考にしてるネタっていやあ、やっぱ『地球の創作物』だね。特に俺が世話になってる日本のラノベやアニメ、ゲームなどのオタク文化が受けに受けててな、レベルやスキルが存在する世界などを作っては観察する管理者が跡を絶たねーのよ。
辺境の星系って小馬鹿にはしてたけどさ、勇者とか魔王とかがいる世界って俺的に結構遊びやすかったりしたんで、行く前から地球の事をリスペクトはしてたんだぜ? マジでマジで。
モンスターの姿が偶然丸かぶりするってのも中々ありえねー話だから、もしかするとこちらの宇宙にも俺たちが居た地球そっくりなとこが存在しているのかもしれねーな。似たような宇宙だと生成されるユリカゴも似通う傾向にあるし、こっちのどっかにも地球があって、日本があって、愛すべきオタ文化が発展しているのかもしれない。
ここの管理神もそれにどっぷりハマってここを創造したに違いないぜ。
って、そんなどうでもいい裏設定は捨て置いて、だ。
なんとかしてアカリをゴブリンとこに行かせてーんだよなあ。いやまあ、あれと対話ができねーだろうなってのは見りゃわかる。どう見てもあれは人類の敵だ。おともだちになりましょーって向ったところで、ニチャった笑顔で撲殺されるのは目に見えてるわ。
うん? いやいや違うよ? ゴブリンにボコられたあげく、陵辱されるアカリを見たいってわけじゃないよ? ちょっとだけ思ったけど、流石の俺でもそんなド外道な事は考えないって。ちゃーんとした理由があんだよ。
ちゃーんとしたな。
「まあ聞けよ。アレはおそらくゴブリンってやつだと思うんだ」
「そんくらいあたしだってわかってるっつーの! なにがコンタクト取ってみろだよ、ばっかじゃねえの! モンスターじゃねえか!」
「だから聞けって! 世界設定によってはな、あいつらも友好的な種として友好的に暮らしてたりすんだよ。大体のゲームやノベルだと人類の敵だったりするけど、たまにあんだよな『子鬼族』とか呼ばれる『妖精種』とやらで、オークやゴブリンがきちんと人権もってるような世界がさ」
そう言ってやったらアカリのヤツ、改めてゴブリンをじっと見つめやがった。単純な奴だ。
ゴブリンの体を上から下までじーっくり舐め回すように眺めてやがる。まったくスケベなやつだな。ああ、だんだんと表情が訝しげなもんになってきたぞ。まあ、そうだろうな。あんなヤバげなファッションしてる小柄なオッサンとか日本なら即通報案件だもん。
「なあ、猫さんほんとうかあ? あたしには話が通じる種族にみえねえぞー?」
「まあまあ、物は試しだ、声をかけてみようぜ、ほれっ!」
「わ、ちょ!」
しゃがんで様子を見ていたアカリの背中に乗ってドンっと蹴り出してやったら、まあ大変! そのまま草むらから飛び出ちゃった!
無防備な姿を晒した彼女をゴブリンの目が捉える! アレはどう見ても『いいえものが現れたぜgff」って顔ですわ。 少女をゴブに向かって押し出すなんて……なんて酷いやつなんだ俺は!
はい。
アカリはギロリと俺を恨みがましい眼差しでにらみつけると、こうなったらやるしかねーな、しゃーねえって感じで胸を張って堂々とゴブリンに向かって歩き出していった! ヒュー! ナイスガッツだ、アカリちゃん! そういうさっぱりした性格、嫌いじゃないぞ!
そんなアカリを見て少しビビった様子を見せるゴブリンだったが、ノシノシやってくる少女をどうしてやろうか決めたのか、力強く棒切れを握りしめ、近寄るアカリをじっと見つめている。
そして接触。
「よう! おっちゃん? 兄ちゃん? もしかしたら姉ちゃんやおばちゃんかもしんねえが、なんか顔色悪くねえか? 大丈夫か? マメック星人みてえになってるじゃねえか」
軽く笑顔を浮かべ、元気よく話しかけるアカリ。何いってんの、アカリちゃん! くっそ噴いたんだけど! マ、マメック星人て! 確かに緑色してっけどよお! お前それ心配してんのか馬鹿にしてんのかわかんねーだろ! ゴブリンの奴も『何いってんのコイツ』って顔で困惑してるじゃねえか! ヤッベ、マジうける。
「グ……グギャ?」
「お、なんだ? もしかして通じてんのかこれ。マジか、ほんとにコイツら友好種てわけかよ。なあなあ、あたしら迷子なんだけどさあ、ここが何処か知ってるか? 近くに街とかそういうのねえの?」
「グギャギャ」
一見すると話が通じているかのように見えるな……アカリの奴はすっかりイケてると思い込んでるが……けど多分、俺の予想が当たっていればそう優しいオハナシにはならねーと思う……そらきた!
「グギャー!」
「わ、なんだよいきなりデケエ声だしやがっ……げ、げえ!」
ゴブリンが腕を振り上げ、大声を出した瞬間、周囲の藪から1匹、2匹、3匹、4匹と、次々にゴブリンが現れた。ゲームでおなじみ『仲間を呼んだ』ってやつだな! いや知ってたけど。何匹かの気配がそこらにいんの感知してたけど。
おーおー、それぞれ棒切れを力強く握りしめながらじりじりとアカリを取り囲むように動いてんぞ。
顔を見れば、何処かニヤついていて、口から涎を垂らしてる。これはどう見てもお友達を見る目じゃあなくって、ごちそうを見る目だね。ヒュー! アカリちゃん大ピンチ!
「なあ、猫さんよ。これってお友達になれるような感じじゃ……」
「そうだね、モンスターだね。ゴブがフレの世界じゃなかったね! ゴブはスレの世界だわここ! だから俺は先に……逃げるぜ!」
「ちょ、お前! こら! ひとりで先に逃げるなんてずるいぞ!」
アカリも慌てて逃げ出すが、当然ゴブリンたちもソレに続くわけだ。草の海を走り、跳び、潜ってまた跳んで。俺とアカリは懸命に足を動かしゴブリンたちからひたすらに逃げる。
幸いなことにアカリには素晴らしい行動体力が備わっていた。筋トレとランニングを日課としている他、両親に混じって浜仕事の手伝いをしているらしいのも良かったな。
はたから見れば華奢で可愛らしい少女に見えるが、その中身は身も心もしっかりと引き締まってるっつーわけだ。
よーし! 今度うまいこと騙して中身をじっくり見せてもらお!
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