第166話 伝書鳩ウィンター
どうもウィンターはマヌエラからの伝言を渡しに来たらしい。
ちなみにあれから一年も経っていないのでドラゴンのウィンターは一歳ではない。そこら辺から間違っているあたり大丈夫なのだろうかと心配になるけれど、
「書いてもらったので大丈夫ですっ。ウィンターはウィンターは伝書鳩なのでっ」
そう言って首から提げていた袋から蝋で封のされた一枚の手紙を取り出した。
マヌエラはドラゴンを伝書鳩扱いしていた。
ウィンターももっと怒っていいと思う。
「というか、人間の姿になれるのか」
「はいっ。ニコラパパの魔力をもらったので簡単でしたっ。エルフにもなれますよっ」
そう言って耳を尖らせるウィンター。
それしか変わらん。
翼も尻尾も相変わらず生えているし。
「へえ、そういうものなんだ。じゃあ、ゴブリンに魔力をもらったらゴブリンの姿になれるのかな?」
「ゴブリンがドラゴンの卵に触れたら死にますっ」
まあ確かに、マヌエラでさえ死にかけてたからそうなんだろうな。
俺はふと卵を孵した直後の事を思い出して、
「あのあと――俺が魔力をあげて卵を孵したあと、ウィンターは親と一緒にいろんなところを巡ってたんだろ? それは終わったの?」
「えっと、終わってないんですけど、ちょっと事故があってそれで、ニコラパパのところに来たんですっ」
「事故?」
「ウィンターはウィンターはよくわかりませんっ。赤ちゃんなのでっ。文字も読めませんっ。手紙見てくださいっ」
「……じゃあ、そろそろ俺の上からどいてくれる?」
相変わらず馬乗りになっている彼女はようやく気づいたようで、「よいしょ」と立ち上がってどいてくれる。
手紙を受け取った俺が椅子に座るとウィンターが膝に載ってきて「あははー」と黄色い声をあげた。
まあいいんだけど。
蝋を剥がして封を開け、手紙を開いて最初の行に、
『ファーストとセカンドが
と書かれていて俺は眉根を寄せた。
それはつまり『ルベドの子供たち』やらハリーやキカたち大教会やら、マヌエラやらとは全く関係ないところで死んだことを意味している。
それも二人同時に。
俺がマヌエラと別れてからまだ数日しか経っていない――事の運びが性急すぎる。
確かマヌエラは大教会に行くと言っていたはずだ。そこで情報を得て、俺に手紙を送ってきたんだろう。
ウィンターを伝書鳩にして。
さらに続きを読み進める。
『以前話したがファーストはエルフ、そして、こっちは話してないがセカンドはドラゴンだった』
ファーストについては言われていたのでセカンドがドラゴンだろうと驚くには値しない。
そもそも、『七賢人』たちの目的からしてサーバントを排除し、純粋に魔法を使える者たちを残すことなのだから、『七賢人』の上位が生まれながらに魔法を使える者たちで占められているのは明らかだった。
問題は、エルフとドラゴンを殺したのが一体誰なのか。
『エルフとドラゴンをこうも簡単に殺してしまう存在を妾は知らない。現場には戦闘のあとすらほとんどなかったらしい。つまり、一方的な殺害だったわけだが――奴らと敵対している妾の知り合いでエルフとドラゴン相手にそんなことができるやつはいない』
つまり、おそらく、
『ファーストとセカンドが心を許した身内の犯行――殺したのはサードだ。ま、油断した時に殺したのだろう。仲間割れだろうな。すでに七賢人はほとんど瓦解したと言っていい――と言うのが大教会の考えだ』
そんな簡単な話か?
と、俺が思っているように、マヌエラもそう考えているようで、
『確かにファーストとセカンドの力は絶大だった。あの二人は政治まで動かして各地に箱を設置するほど権力もあった。それがなくなったとなれば、七賢人の力など恐れるに足らない――そう考えてしまうのも無理はないが、果たして本当にそうだろうか? 妾はトモアキと共にサードを探る』
母さん――ルベドが、サードを止めるように言っていたのも気になる。トモアキとはまだ念話できないが、すぐに話した方がいいだろう、
どこにいるか解らないけど。
「ウィンターに手紙を渡したら届けてくれるのか?」
「んーっとねえ、マヌエラママの居場所は解らないから無理ですっ」
「……ウィンターは手紙を渡すためだけに来たのか」
「可愛がってもらえって言われましたっ」
「そう」
ぽふぽふと頭を撫でてやると「わーいっ」と喜ぶウィンター。
局所的平和。
と、彼女は何かを思い出したように「あっ」と言って、
「あと何か言われたような気がしますけど――何でしたかっ?」
「俺に聞かれても」
「うーんうーん。ウィンターはウィンターは思い出せませんっ。赤ちゃんなのでっ!」
まあきっと重要な事じゃないだろう。
重要な事なら手紙に書いてたはずだから。
と、剣の姿のカタリナが、
「ニコラ、クソガキの相手なんてしてないで早くあのバカ女を捜しだして殺しましょうよ」
「お前、常に敵を作り出さないと生きていけないのか、マジで」
「クソガキばっかり可愛がってもらってずるいです。私のことも可愛がれ、跪け」
「お前の嗜好は異常だ」
とは言え、ごちゃごちゃと色々あって遅れたけれど、そろそろライリーを見つけ出さなければならないのは事実。
わざわざ嫌々カタリナを生き返らせたのだし。
「そろそろライリーを探しに行くけど――ウィンター」
「何ですかっ?」
「ウィンターって人載せて飛べたりする?」
「出来ますよっ。すんごく速いですっ」
それは好都合だった。
カタリナのことだからきっと正確な位置なんて導けない――つまり広範囲の捜索が必須で、それをドラゴンに乗って出来るなら万々歳。
俺が鞘を使って跳ぶ《空中鞘歩行》(キカにはださいと言われた。蚊だろそれ、とも)はそんなに速度が出ないからな。
「じゃあ、載せてくれ。人を探すんだ」
と言うことで外に出た瞬間、ウィンターはその姿をドラゴンに変えた。
ブルーの若い鱗が日の光にきらめいて、黄色い目がこちらを見下ろしている。大きさは馬四頭分くらいで、多分、これからまだまだ成長するんだろう。
ウィンターの身体にロープを巻いて、簡易的につかまる場所を作ると、俺はカタリナを腰に取り付けてウィンターの背中に乗った――なぜかアルベドまで俺の背に貼り付いていたけれど。
「ドラゴン乗るの久しぶりだから」
「乗ったことあるのかよ――まあいいけど。ウィンター重くないか?」
「大丈夫ですっ!」
「じゃあ、ちょっと探してくる」
ローザたちにそう言って、ウィンターに飛んでもらう。
あっという間に飛び上がって風が全身を叩いて、俺は風魔法を使ってなんとか息ができるようにすると、カタリナに方向を指示させた。
「あっちです! そっちじゃないクソガキ! 右です右! 次左です!」
カタリナはやっぱり下手くそだったが、なんとかここじゃないかという場所を見つけて降り立った。
そこは小さな村。
ウィンターが近くに降りると、きっと、村の人たちは「ドラゴンに襲われた」と勘違いするだろうから、遠くに着地してもらって人間の姿になってもらう。
ウィンターの手を引くとアルベドまで手を取ってきて何というか引率者みたいに連れ立ってその村に入ると、カタリナが、
「あのバカ女の気配がします。奥の建物です。間違いありません。私は優秀ですから!」
「お前ゾーイの事ばっかりだな。ライリーはどうした」
「あんなマザコン知りません」
まあ確かにそうだったけどさ。
「ここか」
そこは特段村の中で目立った建物でもなんでもない普通の民家で、なんとなく拍子抜けした。
まあ、身を隠すならこういうところがいいんだろうけれど――バカ親父は見つけられなかったのか?
ボルドリーからそう離れていないという事はレズリーからも離れていないって事だ。
ライリーは移動しまくってるのかな?
そんなことを思いつつ、俺はノックをして合図を待つ。
ガタン!
音がして、ゆっくりとドアが開き、ボサボサの髪をした二十代の女性が出てきた。かなりおどおどしていて、挙動不審に、
「あ、ああああ、あのあの、あの、何でしょう?」
「ええっと……ここにライリーっています?」
「ラ、ララ、ライリー? 誰ですそれ?」
と、俺の隣に立っていたアルベドが言った。
「あなたからルベドの気配がする」
俺がぎょっとして女を見ると彼女はますます挙動不審に、
「は……ははは、はは、ルベドってなんでしょう。いやあ、あたしにはわ、わわ、解らないですぅ」
「お前……『七賢人』か?」
「知りません知りません! あ、あああ、あたしは村の可愛い小娘ですぅ!」
自分で言うのか二十代。
そこで今度はウィンターが「あっ」と言って、
「マヌエラママからの伝言を思い出しましたっ! フォースが近くにいるから気をつけろって言ってましたっ! 赤ちゃんなので忘れてました!」
「あたしはフォースじゃありませんっ! ファーストが死んだこともセカンドが死んだことも知りませんっ! サードにこき使われているなんてことはありませんっ!」
全部言った。
っていうか、
マヌエラ! それこそ手紙に書けよ!
自分の年齢もあやふやな赤ちゃんに口頭で伝えるな!
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