第119話 地下室のおかしな穴【アリソン視点】

 もうグラットはみたくないと言うほどかき集めては袋に入れをメイドとともに繰り返す。終わったのは夕方も遅くなってからだった。

 

 ケイトが降りてきて、ランプをかざしている。アリソンは彼女と一緒に穴の方へと近づいた。どこまでつづいているんだろう。アリソンは「わっ」と声を出してみたが反響するばかりで長さはわからない。


『僕が行ってくる』


 ルナはそう言った。確かにルナくらいの体だったら通れそうだが、危険だ。


『大丈夫。危険ならすぐに戻ってくるから。具合悪くなるほど離れないし』


 それならとアリソンはうなずいた。


 ルナは口にランプをくわえて穴のなかに入っていった。十歩くらいの距離をルナが歩くにはそうそう時間がかからないはずだけれど、穴の中は進みにくいのか、それともおびえているのか、なかなかルナは言葉を返さない。アリソンは心配してかがみ込み、穴の中をのぞいた。


「ルナ、大丈夫?」

『大丈夫だけど、……何だろうこれ』


 ルナはそう言って、穴の中から戻ってきた。体には土がついていて払ってやる。ルナはアリソンを見上げて言った。


『なんか変なものがあったよ。なんて説明したらいいかわからないけど、大きな黒いものが穴をふさいでた。なんか時々表面が光ってたよ。中で何かが動くみたいに』

「なんだろう……」


 それが穴の出現に関係してるんだろうか。アリソンは考えてみたが思いつかない。


『穴はこの家から離れるように伸びてたから、ここはもう大丈夫だと思うけど』


 それは安心だったけど、いつまた穴が作られるかわからない。アリソンはそれをケイトに報告して穴を埋めた。


 ルナによればとりあえずのところ、グラットはすべて処理が完了したらしい。屋根裏や壁の近くでふんふんと鼻を鳴らしてグラットがいないことを確認するとルナはそう言った。


 食材の危機は免れたようだけど、あの穴がどこにつながっているのか、そしてルナが見たものがなんなのかが気になった。遅い夕食をもらいながらアリソンがその話をするとケイトは少し考え込んでから言った。


「この前何人か友人を招いてお食事をしたじゃない? あの中にも家にグラットがたくさんでたという人が何人かいるのよ。ものすごく困っているみたいだったわ。駆除してもどんどん出てくるって。もしかしたら同じように穴が開いてるのかもしれないわ」

「確かめてみる必要がありそうですね」


 もしルナがみた「光が中でうごめく大きな黒いもの」が穴をつくっているのだとしたら、ここら一帯が穴だらけになってしまう。ケイトにはかなりお世話になり過ぎているので、何か恩返しをしたい。


「その方たちのところでもグラット駆除をしてみます。もしかしたら穴が見つかるかもしれませんし」

「ほんと? 助かるわ。仕事ばかり頼んじゃってごめんなさい。何かできることがあったら言ってね」

「それはこちらの台詞せりふです。ほんと、お世話になってばかりなので」


 アリソンが言うとケイトはほほんだ。


 グラットの退治ができれば、ルナとの魔法も練習できる。一石二鳥だ。アリソンは翌日から忙しく働いた。テディとともに魔物の世話が終わると、すぐにケイトの友人のところに行く。テディはそんなアリソンを見て少し不満げに言った。


「何だ、もう行くのか。昼食は……」

「心配しなくてもそこにあるから食べてて」

「いや、そういうわけじゃなくてな」


 テディはほおいていたが、それから何も言わなかった。アリソンは少し首をかしげたが約束の時間が迫っていたので「じゃあ」と言って駆け出した。


 今日の家はケイトの家から歩いてすぐのところ。四階建ての四角いかなり大きな家だった。ノックをするとメイドが現れて、すぐに夫人が呼び出された。いつかケイトの家で夕食を手伝ったときに来ていた一人でアリソンを見ると「まあまあ」と破顔して中へと案内してくれる。


 早速ルナがキッチンの壁や地下室を探索して、すぐに穴を見つけ出した。グラットが大量に潜んでいて、例によって闇魔法で追い出しつつ雷魔法で駆除していく。駆除が完了した後、ルナがランプを口にして穴に潜っていく。


『アリソン! アリソン!』


 今日はいつもと違い、ルナがびっくりしている。


「何どうしたの?」

『あの黒いやつがまたあったよ。しかも枝分かれしてる。根っこみたいに!』

「根っこ?」


 ってことはその大本がどこかにあるんだろうか。ますます謎が深まるばかりだった。



――――――――――――――――――

次回は火曜日更新です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る