第111話 『箱』とホムンクルス
トモアキから頭の中で声をかけられたのは、彼と分かれてから一週間後、クロードの魔道具耐性がついて、ようやく気球の改善に取りかかれそうだと方針が立った午後のことだった。俺はちょうど食事中で突然頭に声が響き渡ってぎょっとし、パンをテーブルに落とした。クロードが
「どうしタ?」
「何でもない」
と言いつつ動揺しながらパンを手に取る。
〝突然すまないな。予定が大分早まってしまい急いでるんだ〟
〝なにか問題が起きたんですか?〟
俺がスープを飲みながら頭の中で尋ねると、トモアキは
〝そうだ。もしかしたら『箱』があるかもしれないという情報を手に入れた。調査する必要がある。なければないでいいのだがもしもあれば破壊しなければならない〟
何か嫌な予感がした。
〝それはどこです? どこにあるかもしれないんですか?〟
〝ノルデアだ〟
やっぱりそうだ。クロードの双眼鏡で島を見たときからおかしいとは思っていたんだ。ただ、それが直接どんな風に『箱』に関わるのかというのはまったく想像がつかなかった。
〝島が崩れているのとも関係してるんですよね〟
〝ああ。それが疑念の始まりだ。それにあの島は数年前から徐々に落ちてきている。高度が下がってるのだ。そしてここ
〝それがどうして『箱』に関係してくるんです?〟
〝……ついてくるのなら教えよう。ノルデアの秘密にも関わることだ〟
上にはアリソンがいる。危険を知らせないと。落ちてくればこの街も危ない。気球の改良は遠のくし、それに何より俺はノルデアに行きたい。落ちる前に行っときたい。最後の方、俺の欲望だな。
〝ついて行きます〟
〝わかった。合流したら話そう。前と同じ店にいる〟
そこでトモアキからの言葉が切れた。どうせ合流しても頭の中で話すんだろ。じゃあ今話してもいいじゃんか、とは思ったが黙っておく。
例の店にいたトモアキと合流した。向かいに座って、店員に注文するとすぐにトモアキが頭のなかで話しかけてきた。
〝『箱』とノルデアが崩れていることの関係性を伝えておこう。ニコラ殿はデルヴィンで『箱』が根を張っているのを見たか?〟
つい先日の話だ。しっかりとこの目に焼き付いている。キカの指示に従って破壊したのも覚えている。俺が
〝あの根は『箱』の影響力――すなわち『箱』が発動したときにサーバントを破壊できる範囲を広げているのもあるが、もう一つ重要な役割があるのだ。……ニコラ殿、『七賢人』がホムンクルスを作っているのは知っているな?〟
〝ええ、もちろん〟
今日は隣に座っているジェナは、まさに『七賢人』に作られたホムンクルスで、その被害者だ。
〝実はホムンクルスをつくりだすのも『箱』の役目の一つなのだ。拙者は詳しくないのだが、ホムンクルスには他のサーバントとは違う核が使われていると聞く。その核を作り出すのが『箱』の役目であり、それには膨大な魔力を必要とする。そして、ノルデアは魔力で浮かび、その形を保っている。この意味がわかるか?〟
『箱』がホムンクルスを作る原因と言うだけで頭がいっぱいだったが、そこまで導かれれば俺にもわかる。
〝ノルデアの魔力を使って、ホムンクルスを作ろうとしてるってことですか? だから、魔力を吸い取られたノルデアが今、崩れそうになっている〟
トモアキはこっくりと
〝以前まではただノルデアの力が弱まっているだけだろうと考えていたが、ここ
俺は口を覆った。確かにノルデアの秘密に関わる話だ。おいそれと伝えることはできない。
〝じゃあつまり、それって、城の誰かが……ノルデアの中心にいる誰かがホムンクルスの製造を指示してるってことですか?〟
〝ああ。最悪の場合、それは、ノルデアのトップ――つまり王かもしれない〟
俺はそこで気がついた。
〝俺たちが調べなければいけないのは、じゃあ〟
〝そう。ノルデアの中心、根幹、城の中だ〟
面倒なことになってきた。
〝でも、城なんてどうやって入るんです?〟
俺たちはただの庶民だ。多分ノルデアじゃなくても、普通のそこらへんの城だってそう簡単に入れないだろう。……俺は最近いろんなところの領主にお世話になることしばしだが。
そこで珍しくトモアキは口を開いた。
「そのためにはジェナの協力が必要だ。光属性をもつのであろう?」
「最初から口開いてしゃべってよ。全然話の内容わかんない」
その指摘はごもっともです。もっと言ってやってくれ。俺がトモアキとの会話を説明してやる。二度手間だ。ジェナは驚きつつ聞いていたが「うーん」と
「確かに私は人を隠せるけど二人以上隠したことない。それにヒルデが基本やってたし……」
「ニコラ殿一人隠すだけで構わない。拙者は気にしなくてよい」
その格好の方が目立つだろうと思ったが、彼は口角を上げた。
「拙者も光属性を持つのだ。隠れることはたやすい」
本当に光属性を持つ人を初めて見た。ゴドフリーはヒルデを使ってた偽物だったし、そもそも光属性を持つ人間は数が少ないはず。ヴィネットにとっては
トモアキは少し考え込んだ。
「といって、すぐにできるわけではないか。問題は音だ。拙者は音を立てずに歩けるが、ニコラ殿はそのような訓練を受けていないだろう」
それは確かにその通りだった。セブンスと戦ったときは、部屋の隅の方にうずくまって隠れていたから動く必要がなく、息を潜めていれば音なんて立てずに済んだけれど、今回はそうもいかない。
トモアキはその対処法を知っているようだった。
「風属性が使えれば音を消すことができる。……キカの話ではいくつか属性が使えるようだが、どうだ?」
「使えますけど……、試してみないとわからないです」
風属性だけじゃなくて他の属性だって
「それほどむずかしい魔法じゃない。拙者の故郷では基本だったからな。教えてやろう。ノルデアにむかうまでまだ時間がある。……ノルデアに向かうためにどの船に忍び込むか考えなければならないからな」
船にも忍び込まなきゃならないのか。
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次回は火曜日更新です。
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