第93話 ジェナ【改稿済】
翌日には外を出歩けるくらいには回復していた。ホムンクルスであるヒルデはマジで十年休む勢いでだらだらしている。俺は彼女を背負って、学校に向かった。気球は俺がマジックバッグに入れていたのでクロードたちの作業が滞ってしまっているはずだ。
「おい、お前に聞きたいことがたくさんあるんだが」
歩きながらそう言ったがグースカ眠っている。ガンガン揺らしてみたが全く起きる気配がない。
「じゃあ私が答えるね」
と、突然声が聞こえて俺の背中が軽くなる。だれかがヒルデを下ろしたのだろうか、そう思って振り向くが、そうではない。ヒルデの姿が消え、代わりに一人の少女がそこにたっていた。ウェーブがかった長髪、ゆったりとしたワンピースは深緑色、腰には太いベルトをしている。俺はあたりを見回した。
「あれ!? ヒルデは!?」
「私の中にいる。と言うより私が中にいたのかな」
意味がわからない。
彼女は
「ヒルデを守ってくれてありがとう。私はジェナ。ヒルデと契約して、そしてヒルデに食べられた人間だよ。まあそれもセブンスに
ジェナはそう言って苦笑した。
ヒルデの契約者。食われてもその体を保てるのか、と思ったが、ライリーだってある程度は保っていた。それにしたってどうして体が大きくなっていないのか、そう尋ねるとジェナは苦笑した。
「ヒルデが私しか食べてないからだよ。だからこの子には心臓が一つしかない。私の小さな心臓だけね」
「どうして今まで出てこなかったんだ?」
「出てきたかったんだけどね、長いことヒルデに隠れすぎて、出てこれなくなってたの。普通のホムンクルスは契約者を食べるとその体を完全に乗っ取るんだけど、ヒルデは私を乗っ取るなんてしなかった。それでも私がずっと外に出てなかったから、多分魔力の流れがヒルデよりになって、乗っ取りに近い状態になってたんじゃないかな」
詳しいことはよくわからなかったが、長いことヒルデの中に隠れすぎて出られなくなったのはわかった。
「それでどうして今になって出られるようになったんだ?」
「それは、ニコラのおかげだよ」
俺は首をかしげた。何かをした覚えはないが。
ジェナはその様子を見て「ええと」と考え込んだ。
「ヒルデにたくさん魔力を流したでしょ? それで私たちの体の中でヒルデの主導権が揺らいだんだよ。それで私が出てこれるようになったってわけ」
そういうことか。なんとなくだが理解できた。
ジェナは自分の足で歩いてくれる。時々ふらつくのは久しぶりに自分の足で歩くからだろう。俺は肩を貸して彼女が歩くのを補佐してやる。背負うよりこの方がずっといい。ジェナは礼をいって俺の肩に手を置いた。
「それで、聞きたいことってなに?」
「その前にまずどうしてヒルデの中に隠れてたんだ?」
ジェナは「ああ」とつぶやいてつづけた。
「嫌だったの。呪いを解かずに苦しむ人たちを見続けるのが。本当は解けるのに。それで
ジェナはため息をついた。
「ヒルデには感謝してる。それに申し訳ない気持ちもたくさんある。今までずっと私を守ってくれたから」
ヒルデはあんな風にだらけているけれどそれでも、ジェナを守って生きてきたんだな。本人にその自覚があるかはわからないけれど。
「ほかには?」
「光の属性は、じゃあ、ジェナが持っていたんだな。それでヒルデが光の魔法をつかえたんだ」
「ええと、実はそうじゃない。光の属性を持ってたのはヒルデなんだ」
俺は首をかしげた。それはおかしくないか?
サーバントは属性を持てない。それは周知の事実のはずだ。俺がそう尋ねるとジェナはうなった。
「私も詳しいことはわからないんだけどね、ホムンクルスは普通のサーバントとちがって属性を持てるの。というよりすべてのホムンクルスが属性を持ってるんだよ。失敗作じゃなければね」
ゾーイは……どうだっただろう。属性魔法を使っていたかもしれないが、それが食った人間の魔力によるものなのかそれともゾーイ自身のものだったのか判然としない。
「それでも光属性は貴重だけどね。そして、闇属性も。セブンスが闇属性を持っていた訳じゃない。あの本のサーバントが――ホムンクルスが闇属性を持ってたの。セブンスは食われてなかったけどね」
「じゃあ、あのサーバントを処分しないと……」
「大丈夫、領主様にはもう言ってある。実を言えば今初めて出てきたわけじゃないんだ。領主様の前では姿を現してる」
安心してため息をついた。もし七賢人の誰かが回収して行ったらと思うとぞっとする。
そこで七賢人について聞こうと思っていたのを思い出した。がジェナもよくわからないということだった。彼らは
「ジェナは――というよりヒルデもだけど――これからどうするの?」
そう尋ねると、ジェナは即答して
「まずは気球に乗りたい!」
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