第83話 レガスを呼び出す【改稿済】

 教会?

 じゃあ、教会はヒルデがホムンクルスだとわかっていながら、レガス家に渡したのか?

 

「その前は? 教会の前だ」

「んー?」


 ヒルデは少し考え込んでから、首を横に振った。

「そこで生まれたから」


 ああ、やっぱりそうなんだ。そういうことだ。

 教会がホムンクルスを生み出している。

『祝福』によってサーバントを生み出す事が出来る教会だ。ホムンクルスだって作れるだろう。


 ライリーをらい、ボルドリーを襲ったゾーイも教会で作られたに違いない。そして、ホムンクルスの製造は今に始まったことじゃない。100年も前からずっと作られていたはずだ。


 ……どうして今になって、人を襲わせたんだろう。

 わからない。聞き出すしかない。

 俺は領主に言った。


「教会はレガス家と組んでいたんです。レガス家は元々聖魔法――光魔法なんてものを持っていなかった。教会はヒルデをレガス家にわたす代わりに何かをもらっていたはずです。おそらくは金でしょう」

「ああ、そうだろうな」


 領主は目をつぶって深くため息をついた。


 領主の家は代々呪われていた。そして、呪いをかけられる人間には心当たりがある。もしかしたらこれはただの仮定の話にすぎないのかも知れない。けれど、十分考えられる話ではある。教会が呪いをかけ、レガス家が解く。見返りにいくらかの金をもらう。


 教会は何をしようとしてるんだ?

 いまホムンクルスを放ったのには何かを理由があるのか?


 一番の疑問点は次に何をしようとしているかだ。今まではホムンクルスを放った人間が誰なのかまったくわからなかった。教会がその元凶なら彼らに注意して行動すればいい。


 ただ……、


「教会について調べるにせよ、なんにせよ、あのシスターをなんとかしないと……。何人仲間がいるかもわかりませんし、それに外でいきなり襲われるのも危険です」

「呪いをかけたというシスターか。教会の人間が全員その仲間かもわからないからな」


 領主はそう言って少し考えた後言った。


「教会に直接調べに行く必要はまだないんじゃないか?」

「というと?」

「まずはレガスから話を聞こう。なに、私も聞きたいことが山ほどある」


 彼はそう言ってほほんだが、目には怒りのほのおが見えた。こええ。


「『レガス家から逃げている女の子を捕まえた』と話せばここに来るだろう。100年も教会と仲良くしていたんだ。いろんなことを知っているだろうさ」


 領主はそう言うと書斎の机から紙とペンを引っ張ってきて、短く手紙を書くと、ろうで封をした。ろうにはこの家の印だろうか、装飾が入っていた。


「もしそれをレガス家に渡してここに呼んだとして、一緒にシスターが来たらどうするんです?」

「これは私の予想だが、おそらく来ないだろう」


 彼はベルを鳴らして執事を呼んだ。執事がやってくるまでの間、領主は深く椅子に腰掛けていた。


「なぜです?」

「光属性の魔法は貴重だ。ハーフエルフが持っているというだけでレガス家がでかい顔をしていたことからわかるだろ? それを使えるこの子を教会が簡単に渡したわけがない。教会にとっても貴重なはずだ。それをなくした。人の重要なものを借り受けていてそれをなくしたとき、君ならどうする?」


 そりゃ、もちろん、


「血眼になって探しますよ。レガスみたいに」

「ああ。そうだろうな。そしてそれだけじゃない。たぶんレガスは教会に知られたくなかったはずだ。管理不足が知られたら、二度と彼女を預けてもらえなくなるかもしれない。シスターが出てきたということは既に教会側に話しているはずだが、それでも、レガスは自分の手で捕まえたいはずだ。自分で捕まえられると証明すれば不測の事態にも対応できると証明できて、またチャンスをもらえるかもしれないからな」


 そうか。おそらくあのタイミングでシスターがやってきたのはそれまでレガスが教会に話していなかったからだろう。もっと早く話していれば、シスターに出会うのは早まっていたはずだ。俺は結構こいつを連れ回していたから。

 執事がノックして部屋に入ってきた。領主は彼に近づくと、


「大至急届けてくれ」


 そういって手紙を渡した。執事はうなずいて部屋を出ていった。


「ニコラ。君はここで過ごすといい。シスターがうろついていたんじゃ外になんて出れないだろう」


 確かに、また攻撃されたらたまったものではない。あのシスターは平気で呪いをかけて来たからな。情報を聞き出すためなら何でもしそうだった。


「お世話になります」


 俺は領主に礼を言った。

 



◇◇◇




 ひどく慌てた様子でレガス家の当主、ゴドフリー・レガスがやってきたのはすぐのことだった。馬車が領主の城についてまだ動いているのにドアがあいてほとんど転げ落ちるようにゴドフリーは出てきた。


 名前だけは聞いていたが見るのは初めてだ。ハーフエルフで一応美しい部類には入るのだろうが、いかんせん私腹も腹も肥やしたせいか、でっぷりと太りすぎていて、アンバランスな感があった。


 彼はよたよたとバランスを崩しながらも転ぶことはせず立ち上がると、ずしずしと領主のそばまでやってきてつばを飛ばしながら言った。


「私のものを盗んだという少女はどこだ!!」

「話は中でしよう。……それと、ああ、息子もちゃんと連れてきたんだな」


 領主の視線を追うと馬車からアルベルトが出てくるところだった。彼は包帯こそ巻いていなかったが、ずっと顎を抑えるような姿勢をしていた。まるでそうしていないと外れてしまうとでも言うように。


 アルベルトは俺の姿を見るとぎょっとして、それからにらみつけたが怒鳴ることはしなかった。やっぱり外れてしまうのかな。


 領主は満足そうにうなずくと彼らを連れて中に入っていった。俺はあたりを見回して、あのシスターがいないことを確認すると彼らに続いて応接間へと向かった。


 やっぱり、ゴドフリーはシスターに話さずに来たようだった。

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