第74話 領主の城に行った後、行き倒れに出会う
気球をあげる祭りは大成功のままに終わり、ブリジットもクロードも満足していた。
店はその後もたくさんの人が来たようで忙しくて大変らしい。
「いままで出資を見送ってた店からもお願いって言われるようになったよ」
ブリジットは嬉しそうにそういった。
「で、結局いくら稼げたんだ?」
「あ、それ聞いちゃう?」
ブリジットはいたずらがバレたような顔をした。彼女が俺たちと行動をしたのは金が稼げるからだ。
彼女はニマニマと笑って言った。
「いままで一日で稼げた最高記録の10倍くらい稼げた。もうびっくりだよ。もし人が乗せられるようになったらそれだけ人を集められるし、乗せるときにお金とったら更に稼げる。夢みたいだよ」
うまく行けば、だろうけれど、でも具体的に何をすれば金が手に入るのかがブリジットやクロードに示されたのはいいことだと思う。
気球を上げた数日後、気球のことについて話したいと俺たちは領主の城に呼び出された。
領主の城は街の中心にあって、学校からも近かった。ここからならたしかに気球が見えただろう。
応接間に入ると領主と一人の少女が座っていた。歳は俺より一つ二つ下だろうか。少女はひどいクマで座っているのも大変そうだった。なんだかいつかの俺を思い出してしまって、同情した。
領主は俺たちが座るのを確認すると言った。
「来てくれてありがとう。これは娘のイーニッドだ。ずっと体調が悪いんだが、今日は無理してでも君たちに会いたいと言っていてね」
イーニッドは微笑んだがやはり少しやつれている感じだった。
領主は気球について尋ねるとき体への負担について事細かに聞いていた。俺は頷いて、尋ねた。
「じゃあ、気球は彼女のために?」
「そういうことだ。ゆっくりと昇るあの気球であれば、ルフと違って体への負担なく遠くが見渡せるだろう?」
俺は昔の自分を思い出した。部屋の窓からよく外の景色をみていた。気球を見つけたら乗りたいと思うのは当然だ。その気持ちは痛いほどよくわかった。
「失礼ですけど、病気の内容って伺ってもいいですか?」
「ええ……私は呪いにかかってしまったようなのです」
「呪い?」
イーニッドは頷いた。魔力中毒症なら、なにか手助けできたかも知れないが、呪いとなると全く知識がない。ライリーは自分が水属性の魔法が使えないのを俺の呪いのせいだと文句を言ったが、それともべつだしな。
「何者かに呪いをかけられたのです。どうしてなのかはわかりません。ある日突然襲われて、それで。それからはレガス様にお世話になっています。聖魔法で呪いは和らぐので」
ここでもレガス家か。聖魔法というのはここでは本当に偉大らしい。
彼らを持ってしても呪いは解けないようだが。
「この呪いのせいであまり外出できないんです。私は世界を見てみたい。気球を見たときにこれだと思ったんです」
領主がどうして気球に興味を示したのかがよくわかった。俺たちは城を出るとあるきながら問題点を話し合った。以前の領主からの話で人を乗せるという合意は俺たちの間でできていた。問題は……
「安全性だナ」
「ゆくゆくは人を乗せて商売をしたいからなおさらね」
ブリジットが付け加えた。
「それに今は俺が気球の動力源になってる。俺がいつも飛ばせるとは限らないから別の動力源を探さないと」
「そうだナ。魔石を使って火をだす装置をつくらないとナ」
安全性……安全性ねえ。
そんなことを話していたらいつの間にか、数日前に気球をあげた広場まで来ていた。学校の外にある空き地を使って行い大盛況だったが、今はもう何も残っていない。
何も?
俺は目を眇めた。
一人の少女が地面に横たわっている。着ている服はボロボロだったし髪もボサボサだ。土の地面に横たわっているので体中更に汚れている。
「行き倒れか?」
俺が言うとブリジットが慌てたように近づいていった。
「ねえ、大丈夫!?」
俺たちも彼女の後に続いて近づいていった。ここはそれほど貧困にあえいでいる街ではないとは感じていたが、人によってはやっぱり貧乏なんだろうな。
そう思っていると少女はごろりと転がって俺たちを見上げた。
「なんだあ? お前らあ」
「こっちのセリフだ。どうしてここで倒れてる?」
「たおれる? ああ、寝転がってただけ。空に浮かんでた丸いやつを見に来たんだけど来たらなかった。残念」
俺たちは顔を見合わせた。
「なんだ、お前、気球を見に来たのか」
「あれ気球っていうのか。覚えた」
ホントかよ。
「つうか話をするなら起き上がれ。いつまでダラダラしてるんだ?」
「起こして」
彼女は片手をあげてそういった。手を掴んで起こしてやると少女は「ふう」と息を吐いた。
「見たかったなあ。乗りたかったなあ」
「いつかまた飛ばすからその時見に来い」
「次飛ばすのは三日後だよ」
ブリジットがポケットから予定表を取り出して言った。
「そう。じゃあ、ここで待ってる。ゴロゴロして待ってる」
少女はそう言ってまた横になった。
「おまえ、まさかここで三日間寝転がってるわけじゃないよな」
「そのつもり。動きたくないし」
「家に帰れ。送ってやるから」
俺が言うと彼女は首を横に振った。
「家なんてない。逃げてきたから」
俺はクビを傾げた。逃げてきたという割に今追われているわけじゃなさそうだ。追われてたらこんな呑気に横たわってないだろう。ということは、
「逃げてきたって外国からか? それにしたって少しは金があるんじゃないか? 寝る場所くらいあるだろ」
「ない。金も寝る場所もない。というかここらへん詳しくないし。昨日はそこの木の陰で寝た」
まじかよ。
俺は深くため息をついたが、アリソンに初めて会ったとき冒険者ギルドを紹介してもらって今まで食いつなげていることを思い出すと、彼女に言った。
「冒険者ギルドにいって薬草集めとか簡単な仕事をもらえ。そしたら金が手に入るから安い宿に泊まれるはずだ」
「働きたくない」
クソこいつ!
それじゃあペイフォワードがつながらねえだろうが!
「私は私でなんとかするから~。お気になさらず~」
俺はブリジットを見たが彼女もこれ以上おせっかいする気はなさそうだった。
本当はこういうことはいけないんだろうが、俺は飯を食えるだけの金を出すと彼女のそばにおいた。
「これで飯でも食え。ここでのたれ死ぬのだけは勘弁してくれよ」
「わかった~」
俺たちはまたため息をついてその場を後にした。
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