第73話 学外で気球を飛ばす
気球を革の袋にしまったあと、俺達は建物内に連行された。俺がいないと気球は飛ばないので、集会もお開きになった。
会議室のような場所で俺とクロード、それからブリジットは並んで座らされた。向かいには教授らしき人物と数人の職員らしき人々。
「クロードは知っている。私の研究室の学生だからな。君も授業で見たことがある」
教授はブリジットを見た。で、その後、俺をみた。
「君は見たことがない。生徒なのか?」
「いや……ええと、でも、ここに入ることは許可されてる」
俺は例のカードをみせて、どうしてここにいるのかを話した。
「なるほど、ダレン教授の……」
「あの、あれを飛ばすのって何か問題があったんですか?」
ブリジットが尋ねると、その教授は腕を組んだ。
「突然あんなでかいものが空を飛んだら慌てるだろ? しかも学校内だ。こっちは危険なものかもわからないんだぞ?」
まあ確かに伝えていなかったのは悪いけれど、こういう物を実験するときに何処に申請するべきか全くわからない。
それから俺たちは気球に描いてあるものはなにか、どうして作ることになったのかを聞かれて、全部隠さずに話した。
「なるほど。危険がないとわかっただけいい。次からは上げるときに許可を取るように」
「あの……それなんですけど」
ブリジットが手を上げた。
「学外でも上げたいんです。話を通してもらうことってできますか?」
「場所にもよるが決まり次第言うように」
どうやらこの教授は学生が主体的に動くことについて協力的らしい。イイやつだなと思った。
話が終わって会議室から出るところで、教授はクロードに声をかけた。
「属性魔法が使えずに苦戦してたみたいだが、ちゃんとしたものができたじゃないか。今までの努力が報われたな」
クロードは教授の顔をみて、頷いた。
「ありがとうございマス。手伝ってくれた二人のおかげデス」
教授は俺たち二人に微笑むと自分の研究室へと戻っていった。
◇◇◇
ブリジットが許可をとってくれて、学校から少しだけはなれた広場を借りた。気球を上げると人が集まってくるとわかったので、そこに出資してくれた店の人々を集めて出店を立て品物を売る計画だ。
気球を膨らましている間も子どもたちはきゃあきゃあいって見上げていたし、大人も興味深そうに様子を眺めていた。
気球が膨らんで空を飛ぶ。人がどんどん集まって来るのが下を見るとよく分かる。
今日はかなり長いロープを準備して地面との間に留めていたので高く高く気球を上げることができた。街の端から端までが見渡せる。
「あとはロープ無しでどうやってコントロールするかだな」
俺が言うとクロードは頷いた。
「改良が必要ダ。ニコラの風魔法で動かせないカ?」
「それもいいけど、魔導具で動かしたい。集中して風魔法を使い続けるのは疲れる。長距離移動するのには向かないだろ」
とか、そんな話を気球に乗りながらしていた。クロードは楽しそうにアイディアを出していて気球はもっと良くなるんじゃないかと思った。
気球を下ろすと、人だかりはかなり大きくなっていてブリジットは大変そうだった。けれどその顔には笑顔が浮かんでいた。
「すごいよ! 品物は全部売れたし、店のことも色んな人に知ってもらえた! 前に上げたときも広告をみて店に行ったって人がいたみたいだから、今回もたくさん店の方に人が行ってるはず! 大成功だよ!!」
「それはよかった」
俺とクロードは微笑んだ。
気球に乗せてくれ、という人がたくさんいたが絶対全員乗せることはできない。安全性を担保してから、という理由をつけて断った。
クロードが叫んだ。
「これは試作機なんダ! 金が集まってもっとちゃんとしたのを作らないト!」
「いくら出せばいい?」
よく通る声でそう聞こえた。俺たちのまわりに集まっていた人々が道を開けてその人物を通す。彼は騎士を連れていた。身なりがしっかりとしていて、貴族のように見えた。体格が良くて頭はつるりと禿げ上がっていた。
「領主様だ」
とまわりの人がつぶやくのが聞こえた。許可をとったときに話がいったのだろうか?
というか、学校を牛耳っているのがレガス家だと言われていたから、てっきりあのハーフエルフたちが街ごと牛耳っているのだと思っていたけれど、そんなことはないみたいだった。領主は人間だったし。
「あればあるだけ、デス。乗っても安全なように研究する必要があるかラ……」
「そうか…。これは昇るときに体に影響はないんだな?」
その後、領主と呼ばれた彼はいくつか俺たちに質問をした。その内容はほとんどが気球に乗ったときに体に起きることについてだった。何も起きず問題ないことを確認すると彼は頷いた。
「よし、わかった。金を出そう。こんなゆっくり飛べるなんてな。ルフだと揺れてしまうだろ? 娘は乗れないんだ。体が弱くてね。前にもこれを上げていただろ? そのときに窓から見ていたようなんだ。調べても誰が上げていたのかわからなかったが申請が来てね。是非にと見に来たんだよ」
クロードは目を見開いて俺たちをみた。俺たちが頷くと、クロードは言った。
「よろしくおねがいしマス」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます