第70話 蜘蛛に生えた赤いカビ

 地響きがだんだん大きくなって、音が近づいてくる。岩の柱が倒される大きな音がした。奥の方で岩の柱が倒れてなくなっていたのはこいつのせいだ。


 その姿がはっきりと見えてくる。


 それは巨大なクロススパイダーだった。以前倒したレッドグリズリーより一回り大きい。ただ、それだけじゃない。


 クロススパイダーは背に何かを乗せていた。もこもことした物体で、初めは糸かと思ったが、色が真っ赤だった。カビみたいだと俺は思った。


 奴は俺達の姿を視認すると、口を大きく開けた。そこに、炎の塊が現れた。

 魔法だ。


「嘘だろ!!」


 俺はとっさに水の塊を作り出して、ローザを引っ張りその影に隠れた。炎の球は水の塊にぶつかり、四散した。


 あの博物館の情報全然あてにならねえ!

 普通に魔法で攻撃してきたぞ!!


 クロススパイダーが突進してくる。俺は他の奴らにしたように、水をかけて、凍らせようとした。

 が、水は糸の盾ですぐに避けられてしまい、体ごと凍らせる事ができない。

 凍った部分もすぐに割られてしまう。 


「クソ」


 と、その時ローザが俺を呼んだ。


「あの魔物、魔力が集まってる場所がおかしい。身体の中にも集まってる場所はあるけど、外側……あのカビにも集まってるみたい。背中とか、脚の付け根とか」


 クロススパイダーの足元を凍らせながら俺はその体を注視した。彼女の言う背や腕の付け根には確かにふわふわとした赤いカビがついていたが、本当にそこにあるのだろうか?


 魔力がそこに集中しているのなら、それを破壊してやればいい。

 俺は剣撃のように鋭い炎を飛ばしたが、やつは糸の盾を使ってそれを弾いてしまう。何度かやったがすべて完全に防がれた。


 あれを使ってみるしかないか。

 ……あんまり使いたくないんだけど。

 

 俺は風と水の魔法を使って、霧を作った。かなり濃い霧で、向こう側が全く見えなくなる。それを、クロススパイダーの方へと流してやる。霧が通り過ぎた後、奴は糸の盾を構えていたが、体中が、水浸しになっていた。

 もちろん、カビも。


 その霧はただの水でできていない。火と水の混合魔法で作った例の燃えやすい水だ。


 そうとは知らず、クロススパイダーは火の魔法を発動する。

 瞬間、地面から身体から、炎が燃え移り、クロススパイダーの全身が燃え上がる。


 奴は悲鳴を上げて、暴れまわったが、追撃するように、俺は燃えやすい水をかけてやる。炎がさらに燃え上がる。


 カビだけ燃やせばよかったのだけど結局全身燃えてしまった。


 ダンジョンの中が煌々と明るくなる。俺はローザとともに炎から離れて様子を見守った。霧が通った俺たちの近くの地面にも火が一瞬伸びて慌てた。


 クロススパイダーが動かなくなったのを確認すると、水をかけて鎮火してやる。

 完全に絶命したらしい。真っ黒に焦げてしまっている。


 しかし、どうしてこいつは火の魔法なんか使えたんだろう。博物館の情報を更新して、文句を言ってやろう。


 ローザはまた自分が倒せなかったことを悔いているのか不機嫌な顔をしていた。


「どうしたの」

「なんでもない。それより、巣を取らないと」


 彼女は上空を見上げた。

 さっき、でかいクロススパイダーが燃えているとき、ダンジョン内が明るくなって、天井付近もよく見えていた。巨大な巣が張り巡らされていた。


 流石にこの距離だと、ローザもアビリティを伸ばせないようだったから、俺が鞘を使って跳び巣に乗ると、斬撃の魔法を何度も放って切り取り地面に落とした。


 巣はハンモックのような大きな布が重なったようになっていて、クロススパイダーはその間で生活していたから、同じくらいの大きさの布が二枚取れる。つまり、苦労も二倍だ。


 でかい巣だけでなく、小さなクロススパイダーの巣も回収して、ぐったりしてしまった。

 でもこれで、気球が作れる。


 巣とクロススパイダーたちの体をマジックバッグに入れると、俺たちはダンジョンから外に出た。

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