第69話 『アラクネの機織り部屋』七階層
翌日はローザと一緒に買物をしてまわった。彼女はとても楽しそうだった。なんとしてでもおそろいのものを買いたがるので、アクセサリを買って冒険者のネックレスに付けた。
ローザも同じようにしてニコニコしていた。
ローザと別れた後、クロード達のところに向かって話を聞くと、店と話をつけたようだったが、やはり、気球自体を作れるほど金は集まらないようだった。部品は買えそうなのでそちらに使って、クロススパイダーの巣は俺がとってこよう。
一週間後、準備を整えた俺達はまた、ダンジョンに向かった。と言って荷物類は全部俺のマジックバッグに入っていたから一見すると前回とそんなに変わりはないのだけど。
三階層どころか五階層までは簡単に進んだ。魔物の大きさが一回り大きくなるだけでなく、今まで出てこなかったトカゲやコウモリの魔物が出てきたが、ローザはまったく動揺すること無く倒していった。本当に俺の出る幕がない。
六階層まで来た。ここから先はBランクの以上推奨で、本来なら、俺やローザが入るべき場所ではない。そもそも人がほとんど入ってこないのだろう、上の階層に壁や地面は苔むしているし頭上には破れたクロススパイダーの巣が見える。
破れすぎて、気球には使えなそうだ。もしかしたら他の冒険者がとった跡かもしれない。
ローザは常に《探知》を使って辺りを見回していた。壁には受信糸網がたくさんあったが、そのどれが今もまだ使われているのかわからなかった。
「この糸、全然、使われてないみたい。たぶん上にもいない」
「魔力が流れてないの?」
ローザは頷いた。
俺も一応頭上に《探知》を使ってみたが、よくわからなかった。波を飛ばしてみて、反応を見たが、地上の魔物にも反射してしまって、正確な場所がわからない。何かはいるのだろう、たぶん。
魔物を処理しつつ先にすすみ、七階層に入る。
そこはかなり広い場所だった。いくつもの岩の柱が頭上高くまで伸びている。見上げると巨大な蜘蛛の巣がその間に張っているのが見えた。おそらくは複数のクロススパイダーだろう
「10体くらいいる……まって」
ローザはそう言って柱が並ぶ奥の方をじっと見た。
「なに?」
「ものすごく大きいのが、奥にいる」
壁や地面はほのかに光っているが、こう広いとすべてを照らせるわけじゃない。俺は目を細めたが何がいるのかわからなかった。ただ、岩の柱は奥に進むにつれてなくなっていて、地面には倒されたような跡があった。
「もどろう」
俺はローザにそう言ったが、彼女は首を横に振った。
「もう見つかってる。魔力の波を感じない?」
彼女に言われて《探知》を使うと、ふおんふおんと魔力の波が向かってきて、俺達に当たり、跳ね返って行くのが見えた。
こんなの、博物館の資料に載ってなかったんですけど!
魔力の波が一瞬大きくなった。波は柱を透過して、頭上にいるクロススパイダー達にまで到達した。その瞬間、わらわらと奴らは巣から飛び出して、地面に降りてきた。
「信号を送ってるみたい……」
ローザはそうつぶやいた。
この階層のクロススパイダーはでかい。俺の身長くらい、つまり、今までの倍くらいの大きさだ。前足に糸で作った盾を貼り付けていて、俺たちの方に向けながら警戒している。
一体が飛び出す。ローザはアビリティの手を作り出して、殴りつけた。メキっと音がして、クロススパイダーが地面に転がった。が、足をバタバタさせてまた起き上がる。
「硬い。今までならこれでやれたのに」
ローザは手のアビリティを伸ばして、クロススパイダーを掴んだが、奴は足の力だけでそこから逃げ出した。拘束するのも難しい。
俺は水の塊を作り出して、奴らに落とした。キイキイと鳴いて前足につけた糸の盾を振り上げて傘のようにしたが、俺はそれを凍らせた。
まるで何かの儀式のように前足を振り上げたクロススパイダー十体が完全に凍りついて像のようになった。
やっぱり燃やすより凍らせるほうが安全だな。寒いけど。
雷を流せたらもっと楽なんだけどな。
俺が凍らせたクロススパイダーを見ながらそう思っていると、ローザは不満そうな顔をしていた。
「どうしたの」
「やっぱり、もっとアビリティ練習しないと……」
「今のままでも十分すごいと思うけど」
「だめなの」
ローザは唇を尖らせた。
と、奥から甲高い悲鳴のような音が聞こえてきて、俺達は顔をしかめた。土煙が上がって、地鳴りがする。何かが動いている。
「ものすごく大きな魔物が動き出した。こっちに近づいてきてる」
ローザはグレンをギュッと抱きしめながらそういった。
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