第67話 ダンジョン『アラクネの機織り部屋』
ローザは冒険者登録を終え、鉄のネックレスをつけて戻ってきた。彼女は俺の首にあるネックレスと見比べた後、少し不満そうな顔をしていた。
「ローザのほうが出来るのはわかるけど、ここらへんはギルドの規則だから」
「そういうことじゃない」
ローザがグレンを通して言った。じゃあ何なんだ。
グレンは少しため息をついて俺を見た。
彼女をすぐにダンジョンの深部に連れて行くのはなんだか気が引けた。他の依頼を受けて慣れてもらおう。
確かに気球は完成させたいし、素材の調達は早いほうがいいから、他の冒険者を誘うべきだという考えもあるけど、でも学校の授業をみるに、ローザほど魔力の探知に優れている人はいなそうだし、もしいたとしても、この冒険者ギルドで探すのは大変そうだった。
ハーフエルフや獣人の授業はあれから参加してないけれど、サーバントの授業のほうがレベルが高そうだったし、結局ローザを連れて行ったほうが良い気がした。
二人で行くのが最適かどうかもわからないし、とりあえず適当な依頼を受けてみよう。
俺たちが受けたのは小さなクロススパイダーの巣をとってくる依頼だった。小さなと言っても服が作れるくらいには大きな巣を作るのだけど。
これのさらにでかいやつを後々狩るのだし、小さなやつならダンジョンの浅い場所にいると書いてある。俺達には最適な依頼だと思った。
受付でその依頼を受けると、俺達はダンジョンに向かった。一番近いダンジョンにもクロススパイダーはいるにはいるが、大きいやつは少し離れたダンジョンのほうが見つけやすいらしい。後々のことを考えてそちらのダンジョンに決めた。
そのダンジョンは「アラクネの機織り部屋」と呼ばれていて、ここらへんでは一番クロススパイダーが生息していると言われる場所だった。
第三階層までならDランクでも入れるが、第五階層まではCランク、更に先はBランク以上じゃなければ推奨されない。推奨されないというだけで入るなと言うわけではないところが冒険者ギルドらしいところだ。
馬車に揺られながら、そんな感じで今回行く場所の話をしていたが、ローザは俺の顔を見るばかりで話を聞いていないようだった。
「聞いてる?」
「聞いてる」
とグレンが答えた。それじゃあどっちが話を聞いてるかわからないだろ。
グレンはそのまま続けた。ローザの言葉だ。
「前までなら考えられなかったなあと思って」
「何を?」
「こうしてニコラと一緒に外を歩いたり何処かに行ったりすること。いつも会う時はあの部屋で、だったでしょ?」
ああ、確かにそのとおりだった。俺はずっと寝込んでいて屋敷からなんてほとんど外に出なかったから、一緒に外出するなんてことは今まで一度もできてなかった。そう思うと、やっぱり婚約者だった頃、ローザには悪いことをしてたなと思う。
馬車がダンジョンに着く。ダンジョンの入口付近には小さなテントがいくつかあって、ダンジョンに潜る人たちのために色々と売っている。エントアの近くにあった今までのダンジョンでは見なかった光景だ。
そう思って買い物をしている人を見てみると研究者らしき人が数人、冒険者を連れていた。このダンジョンには冒険者だけではなく研究者も来るのだろう。冒険者よりも金を持っている比率が高い研究者相手にダンジョンで必要なものだったり、研究に必要な物を売っているようだ。
入り口の目の前に立つとローザは「あ」と言って立ち止まった。
「どうしたの? 忘れ物?」
ローザは準備万端で来ているはずだった。馬車に乗る前にちょっとばかりの鎧(軽くて値段が張る)を買って身につけていたし、何かのときのために剣もぶら下げていた。汚れてもいい服装のはずだし何が問題なんだろう。
ローザは俺を見ると言った。彼女の口で言った
「これ、ニコラとの初めての外出になるんだよね」
「え? ああ、まあ、そうなんじゃないかな」
「初めての外出が、蜘蛛だらけのダンジョン……」
やっぱり蜘蛛だらけの場所は嫌だっただろうか。俺だって好き好んで来てるわけじゃないんだけど。
ローザは逡巡した後、何かを思いついたように言った。
「明日、一緒に買物に行ってほしい」
「明日?」
「そう、明日」
「別にいいけどなんで今……」
そこで俺はハッとした。これはあれだ。「この戦争が終わったら結婚するんだ」と言って死地に突撃する剣士たちに似ている。戦いに行く前に未来の話をするやつは大抵死ぬと何処かで聞いたことがある。
「ローザ、死にたいの?」
「え? なんでいきなり?」
俺がその話をするとローザは興味深そうに頷いた。
「へえ、そういう話があるの。冒険者のジンクスか何か?」
「どっかで聞いたことがあるだけだから、わかんないけど」
「ふうん。じゃあ、ここから出てきてからにする。行こう」
俺たちはダンジョン「アラクネの機織り部屋」に足を踏み入れた。
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