第66話 ローザの実力

 翌日、俺はローザに会うために学校の正門前にやってきた。彼女はすでにそこにいたが学内側にいて、俺は立ち止まった。ローザは怪訝な顔をして、グレンが口を開いた。


「どうして中に入ってこないの?」

「いや、俺入れないんだ。裏門からだったら入れるけど」


 センサーに引っかかるという話をするとローザは笑っていた。


「それは不便だね」


 彼女は正門から出てくると、俺の隣に立った。


「昨日は冒険者ギルドにいたみたいだけど、また冒険者をやるつもりなの?」

「ほしい素材があるから、そのためにダンジョンに行くつもり」

「そう……」


 ローザはそうつぶやいてから言った。


「ねえ、私も一緒に行っちゃダメ?」

「危険だからなあ」

「じゃあ、今の時点でどのくらい戦えるか見せればいい?」


 そういわれてもな。

 ただ、たしかにローザが今どのくらいアビリティを使えるのかは気になった。


「この後授業があるからみててよ。今日会おうと思ったのは、今の時点で私がどのくらい出来るかを見てほしかったからなの」


 彼女はそう言って微笑んだ。


 俺は裏門から学内に入り、彼女と合流していつも見学している建物に向かった。

 俺はいつもの通り二階の観覧席に陣取った。

 ローザにとっては初授業だと思うが、彼女は全く緊張していないようだった。

 

 今日の授業も二人一組で防御と攻撃に別れて行うようだ。防御側の魔力の薄いところを見つけて、そこを突く。


 と言って、グレンは武器のサーバントじゃない。

 どうやって戦うんだろう?


 ローザの相手は女性で、グレンが話しかけると怪訝な顔をした。今まではグレンに耳打ちをするふりをして、それを伝えてもらっているという格好をしていたが、最近は直接グレンに言いたいことを言わせているからより奇妙に映るのだろう。

 話しかけられた女性は言った。


「それ、どうやってるの?」

「どうって……」


 ローザはグレンを見て首をかしげ、それから、彼に指示して、人型から道具の姿に戻らせた。


「グレンがこの姿だからじゃない?」


 そう言うと、女性は納得した。

 グレンは剣でも盾でもない。彼は人形だった。口がパクパクと動いて、腕や脚が自由に動かせる。

 ローザはグレンを抱いて、女性に言った。言葉を話したのはグレンだけれど。


「初めましょう」


 ローザの相手の女性は盾のサーバントだった。ここでは戦闘訓練をしているからだろう、サーバントの比率的には武器や防具が多い。俺がここで見学して見た中で、たぶんグレンが初めての武器以外のサーバントだ。


 女性はアビリティで盾を作り出した。

 俺は遠くから見るほうの《探知》を使って魔力の流れを観察した。ここで魔力を飛ばす方をつかうと授業妨害になってしまうからな。


 女性の盾はもちろん魔力の塊で、何処にもスキがないように見えた。薄い場所を見つけて攻撃するなんて言われたけれど、そんなの何処にあるんだ?

 ただよく見るとたしかにムラのようなものはあった。そんな小さな差を突くのか?


 ローザは人形の姿になったグレンを抱きしめたまま盾を見上げた。

 彼女のまわりに魔力の流れが見える。それは大きな針のような物を形作って、アビリティになる。


 針は5本。ローザは少し身じろぎをするとその五本の針をまっすぐ飛ばした。

 速い。針は一瞬で盾を貫いた。すべて弾かれること無く、しっかりと刺さっている。


 俺は盾を《探知》でしっかりと見ていたが、針が刺さったのは魔力の薄い厚いに関係がないように見えた。魔力のムラが濃い部分にも普通に刺さっている。


 相手の女性は驚いた顔をしてそれを見ていた。


「嘘でしょ!! 5本も!? 隠してたのに!!」


 まわりがざわついている。ローザは少し居心地が悪そうだった。


 二人一組の入れ替えがあって、ローザの相手は男性になった。ローザは今度は守備側に回っていた。攻守両方とも出来るらしい。


 彼女が作り出した盾は、盾の形をしていなかった。それは両手だった。

 両手を組んだ状態で開き、手のひら側を相手に向けたようなかんじ。指同士が隙間なく組まれている。


 相手の男性は弓のサーバントで、矢をつがえていない状態で構えると、ブン、と透明な矢が出現した。

 彼は狙いを定めたが、戸惑っているように見えた。


 それもそのはずだ。

 俺が《探知》で見ると、彼女の盾には魔力のムラがあるものの、その位置がものすごい速度で変わっていた。俺が魔力中毒症で寝込んで、ひどい頭痛に苦しんでいたときの視界に似ている。チラチラと目の前で瞬いて具合が悪くなってくる。


 弓を構えていた男性はなんとか矢を放ったが、すぐに目をそらした。矢は当然のように弾かれてしまった。


 ローザは両手の盾を消すと「ふう」とため息をついた。目を抑えている。あの視界はローザ自身にも効くらしい。

 相手の男性は再戦を諦めて、というよりあの盾を嫌って、隅の方で休憩していた。俺だってあれは嫌だ。


 授業が終わって、ローザは何人かに声をかけられていた。その中には最初に対戦した盾の女性がいた。


「どうやって見抜いたんだ? それにあの気味の悪い盾はなんだ!」

「そうそれ! 気になる!」


 ローザはグレンに話させていたが、まわりの人間は首をかしげるばかりだった。どうやら思いつくままにやっていたらしい。具体的な方法は本人もしらないみたいだった。


 それでもできているというのが彼女の恐ろしいところだ。


 外で待っていると、ローザが俺のところにやってきた。


「どうだった?」

「すごかった。いくつか聞きたいことがあるんだけど」


 俺は一戦目、盾をどうやって貫いたのかを聞いた。


「魔力のムラなんて関係なく貫いてた。どうやったの?」

「ああ、あれは、魔力のムラが隠されてたの。ニコラが見てたのはたぶん表面だけ。フェイクの部分。私は体内の魔力の流れが見えるでしょ? それを使ったら、裏側に別の盾が見えて、そっちが本物かなと思ったわけ」


 つまり、フェイクの弱点をわざと作っておいて、本物の弱点を隠していたわけか。

 あの女性はかなり優秀なんじゃないかと思った。完全に対人戦に特化している。


「勉強になったわ。あんな使い方があるのね。私は弱点を動かすことしかできないから」

「あの目がチカチカするやつ?」

「そうそう。あれ私も目が疲れて来て吐き気がしてくるから、他の方法を考えたい」


 でも、一つでも弱点をつかれない方法を持っているのはすごいことだと思った。現に矢を弾いていたし。


「それで、私がついていくの、まだ駄目だと思う?」


 俺は腕を組んだ。絶対ローザのほうが俺より出来る。魔力の《探知》に関しては言うまでもない。クロススパイダーは受信糸網に魔力を流しているはずだ。それを簡単に見つけることが彼女になら出来るんじゃないか?


 というか、何なら彼女にとってきてもらっても良いのではないかとさえ思ってきた。

 そう言ったら叩かれた。


「それじゃあ意味がないでしょ!?」


 何の意味がないのかわからない。ローザは戦闘訓練がしたいんじゃないのか?

 まあいい。


「じゃあ、冒険者登録からしないとね」


 俺が言うとローザは微笑んで頷いた。

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