第65話 クロススパイダーについて調べる

 ローザの荷物がここまで届くのが一ヶ月。ローザ自身は転移装置でくるというのは予め決まっていたことらしい。


「転移装置をつかうのには結構魔力がいるから反対したんだけど、お父様が聞かなくて」


 それを聞いて俺は苦笑した。娘と離れたくなかったんだな、伯爵。

 相変わらずローザの言葉をグレンが話した。

 

「ニコラはここでも冒険者をしてるの?」

「いや、そうしようかと思ってたとこ。必要な素材があって」

「それは実験で?」

「いや、ちょっといろいろやっててね」


 ローザは小さくうなずいた。メイドがローザに声をかけて今後の予定が詰まっていることを伝えた。見たことのないメイドだった。

 ローザは了承すると、俺に言った。


「私はこれから寮に行って手続きするから、明日、学校の正門前にきてほしい」


 彼女が時間の指定をして、俺はうなずいた。

 ローザはメイドとともに冒険者ギルドをでていった。


 ……まわりの目がローザを追いかけている。彼女に見惚れているのだろうかと思ったらちがった。


「何だあの会話の仕方」

「あんなことできんのか?」


 ああ、グレンを通して話すのは確かに普通じゃない。いつもそうやって話すから、俺は完全に慣れてしまっていて忘れていた。

 サーバントの授業を何度か見学したが、たしかにあんなわけのわからない話し方をしている人間は見たことがない。


 あれはやっぱりすごいことなんだろうなと思いつつ、俺は当初の目的であったクロススパイダーについて調べることにした。


 掲示板にいくつか「クロススパイダーの巣の採取」という素材の依頼がでていた。小さな巣をいくつか集めれば達成できるような難易度のものはCランクだが、大きいものになるとBランクじゃないとダメらしい。


 ただこれは依頼の話なので、一人で勝手に取りにいくぶんには禁止などされていない。危険度は高いけれど。


 というか俺はまだDランクだ。あのでかいホムンクルスを倒したのだからランクを上げてもらえばよかった。失念していた。


 ともあれ、以前Bランクがパーティで倒すレッドグリズリーを倒したのだから行けるんじゃないかと思って受付に情報を貰いに行った。


「Cランクにランクアップしてますね。おめでとうございます」


 名前と冒険者証を見せると、受付の女性はそう言った。どうやらハリーはしっかりと俺の功績をランクに反映してくれていたらしい。

 でもどうやって連絡をとってるんだろう?


「転移装置で週に一度、データを共有しているんです。小さい町のデータは月に一度くらいの頻度でしか共有できませんが」


 それで納得した。以前ハリーは森が混乱して通れなかったときに、「森の向こうと連絡が取れない」と言っていた。ギルド間で情報の共有ができるなら連絡くらい取れたんじゃないかと思ったが、ボルドリー側には転移装置がないのだった。


 俺は銀のネックレスを貰って、アリソンと同じCランクになった。


「本日はどのようなご用件で?」


 受付の女性がいうので俺はクロススパイダーについて尋ねた。


「魔物について詳しくは資料室にありますよ。あちらの部屋です」


 受付の女性は身を乗り出して、俺から見て左手、突き当たりにある部屋を指差した。


「もし学校に入れるのであれば博物館が併設されているのでそちらに行ったほうが良いですね」


 あの学校、博物館もあるのか。

 俺は彼女に礼を言って、まずはギルド内にあるその部屋に入った。


 本棚が四つ並んでいるだけの狭い部屋だった。ここを利用する人は少ないようで、床にホコリが貯まっていた。

 クロススパイダーに関する文献はすぐに見つかって、生息場所と殺し方が書いてあった。


 近くのダンジョンに生息しているみたいだ。大きいものもいるようだが、階層を進まないとダメらしい。

 殺し方については「首を切り落とす」としか書いていなくて全く参考にならない。


 博物館の方にはもっと詳しい情報があるだろうか?

 情報は多いに越したことはない。


 資料室を出ると、学校に向かった。いつものように裏門から入ると、すぐ近くに博物館はあった。かなり大きい建物だ。


 中に入ると魔物の剥製がずらりと並んでいた。鎧を身にまとった冒険者らしい格好をした人がちらほら見える。学生なんだろうか。

 

 クロススパイダーの剥製は俺の腰くらいの大きさのものだった。体が平たく、黒い背中には白い斑点がある。糸を吐き出してそれを足にからませて盾のような物を作っているポーズをしている。


 標本の前には説明書きの看板があるがそれの他に本とペンがおいてあった。中を見ると、色んな人の字で苦戦したことやら、どうやって倒したかが書かれていた。


 すげえ。どおりでギルドの資料室に誰も入らないはずだ。


 他の魔物の標本の前にも本とペンはおいてあって、それぞれの魔物の倒し方や素材のとり方が書かれている。研究者達にとっても貴重なデータだろう。自分たちが危険を冒さなくても、冒険者たちが勝手にやってくれるんだから。


 俺はクロススパイダーの情報を読み込んだ。大きいものの倒し方はあまり載っていなかったが、基本は一緒で、生息地に来たら上に注意すること、受信糸網には魔力が通っているので《探知》でしっかり確認して触れないようにすること、などなど。


 魔法を使った攻撃はしてこないので、糸の盾にだけ注意すればいい。


 やれそうな気がしてきた。

 

 俺は本を閉じると、博物館を後にした。

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