第64話 クロススパイダーの巣をつかう

 地面まるごと水でぐちゃぐちゃだったので、場所を変えつつ火で体を乾かしつつ俺は考えた。


 風の属性が気体を作る魔法であるなら、運動というより生成のイメージが強く、つまり、「風の属性で空を飛ぼうとする」というのは「水を作り出して空を飛ぼうとする」というのと変わらないのではないか。


 要するに運動や力ではないから風の属性では浮くことができない。

 結局、俺がもともとイメージしていた、「空に立つ」ような魔法というのは風属性では実現できそうにない。


 三つの属性を手に入れたが、マヌエラやヴィネットがやっていたような「空間に物を収納する」ということは出来るのだろうか。今までやってきた「空を跳ぶ」とかとは違って全くイメージできないことだし、まだ属性が必要なのかもしれないからウンウン唸ってもしょうがない。

 

 今ある属性で出来ることを考えよう。


 水の属性のときと同様、「燃える気体」というのを作れるはずだが、それをやるとここらへん一帯が焼け野原になりそうだったのでやめた。いつか何処か広い場所でやってみよう。


 じゃあ水の属性と混ぜると?

 と思ってやってみたら霧になって辺りが見えなくなった。

 ここらへんは予想通りだ。


 他になにかできるんだろうか。


 と考えているとブリジットが顔をしかめながらやってきた。


「なんでここらへん水浸しなの?」

「ニコラがやったんダ」


 俺が辺りを水浸しにしてからずっと遠くにいたクロードも一緒に近づいてきた。

 ブリジットは金を集めるために色々と駆け回っていたはずだ。俺は彼女に尋ねた。


「なにか進展はあった?」

「そうそう。その話をしにきた。話はしてみたけどね、物を見せてほしいって言われた。小さくてもいいからって」


 そりゃそうだ。

 俺はクロードと顔を見合わせた。


 クロードの試作機はかなり進んでいて、材質も前より変化していた。結局、布ではなくクロススパイダーの巣を使ったほうが軽くて丈夫だと言うことがわかってそれを使っていた。


 クロススパイダーはダンジョンによくいる蜘蛛の魔物で、独特な巣を作ることで有名だった。円網型の放射状に伸びる巣ではなく、ハンモックのような二層の巣を作り、その間に身を潜めている。ダンジョンでは上空にその巣をつくり、受信糸網を壁に這わせ、獲物がそれに触れた瞬間、上から降ってくる。


 小さいものでも体長が俺の膝くらいまである。でかいものなら、建物くらいの大きさになる。


 ハンモックの巣は布のようになっていて、他の魔物に攻撃されても簡単には壊れないように、火や水、雷に耐性がある。そして軽い。

 その特性から、冒険者たちは服の素材としてこの巣を選んだりする。


 つまり、結構高価だ。


「そんなもの使ってるの!?」


 ブリジットは目を剥いた。


「5階建ての建物くらいの大きさにするんでしょ!? 絶対お金足りないよ!!」

「でもたぶん一番現実的ダ」


 クロードは続けた。


「布の量を考えると集めるのが大変だシ、それに布の質もばらばらになル。重さだって馬鹿にならなイ。反面クロススパイダーの巣なら、でかいのを見つければ一つの巣で気球が作れるはずダ。巨大なものを作るという観点から見れば、最適なんダ」

「材質の話は良いけど、私だってお金集めるのに限界がある。どうやって全部その材質にするわけ?」

「他の材質じゃ大きくなんてできなイ」


 クロードとブリジットは侃々諤々、意見をぶつけていた。俺は考えていたことを言った。


「自分たちで取りに行けば元手はかからないんじゃないか?」

「それができたら苦労しなイ」

「私だってそれができたらそっちで収入を得てる」


 二人は俺を見てそういった。まあ確かに。


「どのくらい危険なんだろう」

「さあ、私専門じゃないからわからない。冒険者ギルドで聞いてみたら?」


 聞いてみるか。俺が取りに行けそうだったら取りに行こう。自分の気球を作るときにもきっと必要だろうし。


 俺はクロードが持っている試作機を指差して、ブリジットに尋ねた。


「小さい気球ってその試作機でも良いのか?」

「ええ。おそらくは。どんな動きをするのかみたいだけらしいから。それと本当に人を乗せられるのか知りたいみたい」

「クロードを連れていって話をしてくれ。俺は冒険者ギルドで話を聞いてみる」


 俺が言うとクロードは顔をしかめて言った。


「本当に自分たちでとりに行くつもりなのカ?」

「まあね。できそうだったら俺一人で行くし、難しそうなら他の冒険者もつれていく。危険度に依るけど」

「素人が手を出すものじゃないんじゃ?」


 ブリジットは心配そうな顔をしていた。俺は冒険者を示すネックレスを取り出した。これを取り出すのは久しぶりだ。


「あれ、言ってなかったっけ? 俺、冒険者なんだよ。魔物と戦って生計をたててた」


 二人は少し顔を見合わせてから言った。


「じゃあ、よろしく頼ム」


 俺はその足で冒険者ギルドに向かった。相変わらず色んな種族がいるけれど、学校でもそうだったからなれてきた。

 ここに来るのはデルヴィンにやってきて以来だから、そうだな一ヶ月ぶりくらいか。


 俺はクロススパイダーについて調べようと掲示板の前に向かおうとした。


 その時、奥の扉が開いて一人の女性とメイドらしき人が一人現れた。彼女は一人のサーバントを連れていた。

 そうか。もう一ヶ月経ったんだもんな。


 俺は彼女に近づいていった。

 ローザとグレンは俺の姿に気づいて手を振った。


「ローザ、転移装置で来たんだ」

「ええ。準備に時間がかかったけれど、二人分の魔力は集められたから先にここに来たの」


 そう、グレンがローザの言葉を話した。

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