第59話 魔力を見る
まずは魔力を見る《探知》を進めよう。
《感覚強化》で、ある程度遠くのものを見ることはできたから、それを発展させればなんとかなりそうな気がする。
俺はゴブリンの置物のレバーを最後まで倒して、魔力を外側に流してみた。この機能をつけてくれたクロードに感謝した。が、外側にある魔力を見たいので箱の中に入れることができず、ゴブリンの外観が邪魔くさかった。
視覚に集中して感覚を強化すると、置物のまわりに何やら陽炎のようなものが見えてくる。あれが魔力の流れだろうか。よくよく見ないとわからないけれど。
更に集中すると、突然目の前がぼやけた。ゴブリンの置物どころか建物や木々までがぼやけてみえる。
「うわ!」
俺は一瞬パニックになったが、《感覚強化》をやめるとすぐにもとに戻った。
なんだ今の。
俺はもう一度視覚に集中した。初めは置物の魔力がうすーく見える程度。さらに集中すると、やっぱりぼやけてしまう。
なぜだ。
俺は少し考えて、思い至った。
あ、これ自分の魔力がみえてるんだ。
俺は目ではなく手のまわりで《感覚強化》を行ってみた。その状態で、置物の魔力が見えるくらいの集中で視覚を強化する。で、手を見る。
手のまわりにぼやぼやとした空気の流れみたいなものが見える。
たぶん今までの感覚が抜けずに集中しすぎると体の外側に魔力を集めてしまっていて、それが目の前にあるから、目を覆い隠してしまって見えなくなっていたんだ。
体の外側に魔力を出さずに、視覚の強化をする必要がある。
思えば《感覚強化》で体の外側に魔力を流していたのは触覚のためだった。それにあの時は水の魔法を使いたくて練習として体の外に魔力をまとわせていた。
《感覚強化》とひとくくりにせず、視覚だけを強化することを意識する。触覚は無視して、体の内側、特に目の中に魔力を貯めるイメージをする。
俺は無意識に目を閉じていた。たぶん目の中で魔力をつかうというイメージをしていたから、外に魔力がもれないように、と考えていたんだと思う。
よし。
目を開く。
「おお!」
ゴブリンの置物のまわりにはっきりと魔力の流れがみえる。透明な帯のようなものがねじれながら、置物の脇から飛び出して、反対側の頭から体に入っている。ねじれは回転して動き続けている。
さっきまではただぼんやりと視界が揺らいでいるだけだったのに、今は形がはっきりと見えている。ここまでくれば俺もローザみたいに体の中の魔力が見えるじゃないか?
そう思って置物の背中のレバーを真ん中まで戻して、ゴブリンの中でだけ魔力が流れるようにしてみた。
……見えない。
もうこれはローザに聞いてみよう。あの生徒も教官もできないみたいだったし。
ともあれこれで、《探知》の見るという部分に関しては出来るようになった。
後は見えない場所にいる魔物を見つけるために、波を出す《探知》を使ってみよう。
と思ったけれど、そんなのわかるのか?
何を持って魔物がいると判断しているんだろう。
俺はとりあえず波を作ってみた。これは簡単で、いままで触覚のような感じで使っていた《探知》の魔力を自分と繋がりを保ったままにするのではなく、運動させて飛ばせばいいだけ。
体の近くで魔力を回転させたあと、円形に飛ばしてみる。見る《探知》でその円形の魔力がどう動くか観察する。
……全部素通りして跳ね返ってこないんだが。
疑似魔物のゴブリンの置物すら、起動しているにもかかわらず素通りした。
これじゃあダメだ。
うーんと思って、思い出した。
こういうときの『やさしい魔法』だ。
革の袋から取り出してパラパラめくるとやっぱり《探知》の話が載っていた。初めからこれを読めばよかった。
ちょうど感圧式魔法の次の章にのっている。
『《探知》で魔力を飛ばす時は、感圧式魔法の応用で、魔力に反応する魔力を飛ばす必要がある』
ややこしいな。
魔力に反応するように作れば良いのか。
俺はまず感圧式魔法と同じ要領で、回転させた魔力を空間に作り出してみた。今まではそれに触れればぱちんと反応していたが、今回は魔力を近づけてみる。体の外側に出した魔力が魔力の貯まった空間に触れると、感圧式魔法のときと同じくぱちんと反応した。
これを飛ばせば良いのか。
俺は魔力に反応する魔力をを円形に作り出して、飛ばしてみた。
と、体内で魔力が流れているゴブリンの置物にぶつかった瞬間、勢いよく跳ね返ってきた。俺は一瞬身構えたが、攻撃魔法ではないので体を素通りした。
おお! こういうことか!
ゴブリンの置物を木の陰、俺のいる場所から全く見えないところにおいて、同じように《探知》の波を使ってみる。見えてはいないが、木の後ろから魔力が跳ね返ってきた。
これで魔力を持つものの居場所がわかる!
《探知》が少し使えるようになったぞ!!
ローザほどじゃないけど!
翌日、クロードが小さい気球で試作をしながら飛ばしている横で、クロードに向かって《探知》の波を飛ばしてみると同じように跳ね返ってきた。
一定のペースで連続で波を作ると、魔力を持つ者が動いているのか近づいているのかがわかる。近づいてくると、自分が送っている波の間隔より速いペースで跳ね返って来るし、離れていると遅いペースで返ってくる。
戻ってきた魔力がいちいち体を透き通って行くのがいやなので、体の前で止める練習をしていると、クロードとは別の方向から《探知》の波が跳ね返ってきた。
誰かが近づいてくる。
俺はそちらを見た。
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