第58話 《探知》の練習をする
翌日から俺は午前中は調べ物、昼から午後にかけて魔法の練習をするようになった。図書館は例の裏門から入るカードを使えば入れた。ネックレスより有用だ。
俺が魔法の練習をしている間、クロードは気球の試作をしていた。空気を暖める部分はどんな形が良いのか、もっと小さいサイズで浮かべられないかを考えているみたいだった。
俺はゴブリンの置物を箱に入れて少し離れた場所に置き、《感覚強化》のときより更に遠くに魔力を伸ばしてみる。徐々に魔力の範囲を広げるが、途中でやめた。
できないわけじゃない。俺の魔力量なら結構遠くまで《探知》出来るだろう。
ただ、情報量が多すぎる。
まるで一度に複数人から別々のことを言われたときのように、たくさんの感覚が同時にやってきて雑音のように混ざり合ってしまう。
土の下で虫がうごめく感じ、草がそよめく感じ、空気があっちこっちに揺らいでいる。これでは何がなんだかわからない。
しかし、遠くの情報を得るには魔物が触手や感覚器官を伸ばすように、魔力を外側に伸ばす必要があるはずだ。
……そうだよな?
何か考え違いをしているのか?
クロードに意見を求めたが、
「俺はそういう魔法はからっきしだかラ」
そう言われてしまった。
「じゃあどうやってゴブリンの置物作ったの? 魔力流れてること調べたんでしょ?」
「それは魔力探知機があるかラ」
そんな物があるのか。
仕方ない。昨日の生徒たちに聞いてみよう。
で、午後、俺はまた授業が終わるのを待って盾の女性に声をかけた。
「ああ、いつかのサーバントを持ってない君。やってみるって言ってたけどどうやってやるつもり?」
「特殊な方法で。ねえ、
と盾の女性は「ああ」とつぶやいた。
「君がやってるのは《探知》の一部に過ぎないんだよ。しかもやりすぎね。うーん」
彼女は自分のサーバントにどう説明したら良いかを尋ねた。
盾のサーバントの男は言った。
「湖に石を投げると水面に波が出来るだろ? 落ちた場所を中心として円形に。その波を作り出すのが《探知》の1つ目だ。で、波が何かにぶつかると、跳ね返ってくる。それを感知するのが《探知》の2つ目。つまり、《探知》というアビリティは二つに分解できる」
俺はその様子をイメージしたがよくわからなかった。
「それで、魔力の薄い場所がわかるの?」
俺がそう尋ねると、女性は少し考えて言った。
「さっきの説明は本質だけれどイメージはつかみにくいわね。ええと、そうだな。例えば壁に柔らかい部分があったとして、見かけだと全然わからないとするね。触ればわかるけど遠くにあって直接触れない。その時どうしたら柔らかい部分を見つけられると思う?」
「何か槍みたいな長い棒を伸ばしてつつく?」
「それはあなたが今やろうとしていること。魔力を伸ばして、触ろうとしている。別の方法がある」
俺は考えたが首を横に振った。
「わからない」
「ボールをたくさん投げてみるの。すると柔らかい壁にあたったボールは他のボールより跳ね返りが弱いはずよね? で、それは『見る』ことで判別できる」
そういうことか。
「ボールを投げるのが《探知》の1つ目で、ボールの跳ね返りを見るのが《探知》の2つ目ってこと?」
「そうそう。で、そのボールってのが魔力なの。実際につかう時はさっき私のサーバントが説明した波の形でつかうけれど」
俺はある魔物を思い出していた。ダーク・バットというコウモリの魔物だ。
真っ暗な場所に生息する奴らは目が見えない。代わりに口から音を出して、その反響でものの場所を正確に「見て」いる。
それを魔力でやれば良いのか。
「相手のアビリティの弱い部分を見つけるだけなら魔力を見る方の《探知》を使えばいいだけだから、どちらかと言うと《感覚強化》の部類だけどね。ボール――魔力を飛ばすほうの《探知》は魔物の体の柔らかい部分を見つけたりとか、魔物が視界に入らない森の中とかで見つけるときにつかうことが多いかな」
「それで、人の体内にある魔力の流れもみえる?」
俺はローザがやっていたのを思い出した。あれは見る方の《探知》だったんだ。
が、盾の女性は苦笑した。
「できる……とは思うけれど、相当訓練が必要よ。私は無理。教官でも出来る人は少ないんじゃないかな。私が出来るのはあくまで、アビリティとして使われた外側の魔力を見ることくらい」
ローザはやっぱりすげーやつなんだと思った。
「練習するなら、まずは魔力を外に伸ばしたり飛ばしたりする《探知》じゃなくて、見る方の《探知》から始めると良いよ」
「ありがとう」
盾の女性に感謝をすると、俺は早速広場に戻って練習を開始した。
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