第49話 後日談1

 あれから一週間が経って、森の混乱が収まったことを冒険者たちが確認した。

 俺たちにはやることが残っていた。


 というか、ルビーにはやることが残っていた。

 彼女はまだ家族を連れず森を抜けたことがなかった。


「お兄様、お願いします。ついてきてください」

「甘えない」


 ローザはグレンを通してそういった。


 混合魔法が使えるようになったことをアルコラーダのヴィネットに報告する必要があったし、それにミックたちがその後どうなったか知りたかったから、ついでだしいいかと思っていたけど。


「そのままトラウマになって本当に森を越えられなくなるよりはいい」


 ボルドリー伯爵がそう言って、俺が同行することに許しが出た。

 ローザはため息を吐くと俺に言った。


「ちょっと二人で話したい事があるの」


 なんだろう。俺は了承して彼女にしたがって部屋を出た。

 城の中庭を歩きながら、彼女は自分の声で言った。


「ニコラ、私達の街を守ってくれてありがとう。本当に感謝してる」


 それを言うためにここに呼んだのではないことはわかっていた。

 彼女は続けた。


「私は何も出来なかった」

「そんなことない。《探知》したことを教えてもらえなきゃ、俺は何もできなかった」

「それでも、私はただ見てるだけだった。……強くならなきゃと思った。だって、ここはまた危険にさらされるかもしれない」


 危険にさらされるかも。それは確かにそうだった。

 ホムンクルスを倒したとはいえ、ここがアルコラーダに近いということに変わりはない。別のホムンクルスがすでに近くにいて、ラルヴァやボルドリーを襲う可能性だって十分ある。


「だから、訓練しようと思うの。グレンと一緒に」


 俺は驚いた。


「運動できるの?」

「バカにしてるの?」


 ローザは眉を潜めて俺を見た。


「私はアビリティを使える。なのに今回はずっとニコラを待ってることしか出来なかった。私は力を使えない今の状況に、自分に腹がたったの」


 彼女は俺の手をとった。


「絶対強くなって、隣に立つ。……そこは私のだから」

「どういう意味?」


 ローザは俺を見ると少し微笑んだ。


「なんでもない。ねえ、アルコラーダに行った後、どうするの?」

「まだ決めてないけど、他の街とか見てみるつもり」


 ホムンクルスの戦闘でよくわかった。もっと魔法を訓練したい。それに他の属性についても知りたい。ヴィネットが何か知っていないだろうか。


「そう。私はデルヴィンってところに行く。アビリティの訓練施設があるんだって。実戦もそうだけどもっとサーバントについて知らないとと思って」


 ローザはそう言って微笑んだ。


 その後、俺はルビーの乗る馬車に一緒に乗り込んで森に向かった。

 ルビーは怖がってはいたが、一人で背筋をピンと伸ばしていた。

 彼女は森を抜けるまで緊張していたようだが、ラルヴァ側に着くとホッと息を吐き出した。


「やった! やりましたお兄様!」


 ルビーはそういって微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る