第45話 思いつき

 冒険者たちがホムンクルスの背中に矢を放ち、動きを止めようとしているが、《身体強化》を使った巨大な体になすすべはない。

 地響きを上げてその体は進んでいく。


 俺は鞘を使って跳ぶと、なんとか追いついて、その足元に水を出現させて凍らせた。

 ホムンクルスは氷を踏み、バランスを崩して前のめりになったが、腕で体を支えるとすぐにまた前進を始めた。


 もっとたくさんの氷を。


 今度は完全に足を凍らせるつもりで魔法を放った。巨大な水玉をホムンクルスの脚にまとわせて、地面に着地した瞬間一気に凍らせた。ホムンクルスの両足が完全に凍りついて、地面に磔になった。


「よし、これで……」


 と思った瞬間、ホムンクルスは足元に炎を放った。

 辺りが明るくなる。

 食ったやつの中に火の属性持ちがいたのだろう、多分。


 契約は出来なくても魔力がつかえる。

 それがホムンクルスの怖いところだ。


 ドロドロと氷は溶けて、脚は元通りになった。


 どうしたら……。


「ニコラ!! 先にボルドリーに戻るっス!!」


 ハリーが《身体強化》を使ったのかかなりの速度でやってきて言った。

 彼の手にはサーバントらしきものが握られていたが、何の武器なのか、あるいは道具ちゃんと見えなかった。


「でも、ここで止めないと!!」

「ボルドリーに戻って、こいつの襲撃を知らせて、アニミウムをありったけ集めるっス!! アニミウムをパンくずみたいに使えば、こいつの進路をとりあえずは変えられるかもしれないっス」


 そうだ。こいつの狙いはボルドリーではなく、あくまでもアニミウムだ。


「わかりました!!」


 俺はそう叫んで、ホムンクルスより先にボルドリーへ向かうために全力で《身体強化》を使った。


 ホムンクルスからぐんぐん離れて、俺はボルドリーにたどり着いた。

 騎士たちの中にボルドリー伯爵の姿を見つけて近づくとローザとグレンが一緒に立っていた。


「なんでここに!?」

「食事を持ってきたの、とローザは言ってる」


 確かにいつ来るかわからなかったけどさ。

 伯爵は口を拭うと言った。 


「来たのか?」

「もうそこまで迫ってます! それとアニミウムを集めてください。ありったけ。ライリーは……新しいホムンクルスは『祝福』されていないアニミウムを欲しがってます」

「体を大きくしようとしてるのか? ……とにかく集めよう」


 伯爵はそう言って近くの騎士に指示を出した。


「ローザも早く戻って」


 俺は言ったが、ローザはグレンの肩に手を置いて、遠くの方を見ていた。ホムンクルスがやってくる方角だ。


「ローザ」

「ええ、すぐに戻る。けれど見ておきたいの。ホムンクルスがどんな姿なのか。それに、ライリーがどんな姿になったのか」

「見ないほうがいい」

「……ええ。そうみたい」


 ローザは顔をしかめた。

 彼女の視線を追うとホムンクルスの姿が見えてきた。

 体を揺らして歩を進める。

 

「戦闘準備!!」


 騎士の隊長らしき人物が叫んだ。

 そこにちょうど、アニミウムの入った箱を持った一人の騎士がやってきた。


「まだ少しですが、徐々に集まってくると思います」


 彼はそう言って箱を地面においた。

 箱の中にあったのは僅かなアニミウムだった。


 ダメだ。足りない。

 絶対あいつは満足しない。 


 やはり40以上ある心臓を一つずつ破壊してあたりを引く必要があるのか?

 攻城兵器ばりの魔法もダメ、氷で足止めすることも叶わない。

 そんな相手にどうやって戦えばいいんだ?

 

 と、まだ近くにいたローザが眉を潜めて何かを言った。

 が、その声は騎士の指示によってかき消されてしまった。


「構え!!」


 俺はローザに聞き返した。


「今なんて言った!?」

「****************」


 ローザは彼女の声であることを言った

 それはとても、とても重要な発見だった。

 俺は彼女の言葉を反芻して、一つの答えにたどり着いた。


「それだ! それだよ!!」


 俺はアニミウムの入った箱を持ち上げると、伯爵に言った。


「まだ撃たないでください!! 一つ考えがあります!! もし俺が失敗したら、その時はお願いします!! 後ろから冒険者たちも来てます。挟み撃ちにしてください」

「しかし……」

「失敗しても冒険者達と合流できそうならそうします」


 伯爵は唸ってから頷いた。


「わかった……。任せたぞ」


 ローザは彼女の声で俺の名前を呼んだ。

 俺はローザに言った。


「大丈夫、きっと。教えてくれてありがとう」


 俺はそう言うと、アニミウムを革の袋に突っ込んで、鞘を取り出すとホムンクルスの方へと走り出した。


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