第43話 すでに原型がないアレ

 森に着くとあらかた魔物は倒されていた。トレントも簡単に倒されていて、エントアとボルドリーの冒険者は優秀なのだと知った。というかラルヴァの方はギルドマスターのせいでランクが低く経験も浅かっただけなのだろうけど。

 この中にラルヴァから移って来た冒険者も少なからずいるだろう。


 いつ次の魔物たちの襲撃があるかわからない。

 なんなら、ライリーたちがすぐに現れるかもしれない。


 鎖を乗せた馬車にはハリーも一緒に乗っていた。彼は冒険者たちを集めると、遠距離攻撃ができる者、それも狙いが正確な人たちを5人選別した。


「この鎖を地面に敷くっス。君たちはこれを裸足で踏んで、いつもどおり攻撃してほしいっス」


 鎖を何本も地面に敷いていく。俺はそれを束ねた場所に触れ、魔力を送れば良いわけだ。


 準備をしていると、冒険者たちが警告した。


「おい! 次のが来るぞ!!」


 森がザワザワとうごめく。地響きのような足音が聞こえてくる。

 最初にグリーンウルフが、次にゴブリンがわらわらと飛び出してきた。

 そしてトレントも……。


 俺は鎖に魔力を送り込んだ。性別も年齢もバラバラな5人の冒険者が弓をかまえる。


 一人の冒険者は弓ごとアビリティで作り上げているために、いつもより何倍も大きい弓にぎょっとしている。

 他の冒険者たちも似たような感じで、矢だけがアビリティであっても、太さや長さが今までと違うのだろう、半ば困惑気味だった。

 

「撃ちます!!」


 前で戦っていた冒険者たちが慌てて逃げ出す。

 矢を放つ。


 放たれた矢の一つは鳥が羽を広げるように、刃のようなものを左右に伸ばして滑空していく。ゴブリンやグリーンウルフの首や体がそれに巻き込まれてスパンと分かれる。

 

 俺は魔力に属性を混ぜていなかったが、一本火の属性を持った矢があった。


 魔物のそばを通るたびに炎の手が伸びて全身を焼き焦がして進んでいく。

 最後にはトレントに突き刺さり爆発した。

 トレントの体には大きな穴が空いてバタリと倒れ込んだ。

 爆発したんじゃ生木かどうかなんて関係ないな。

 どうやってるんだろう。


 魔物を倒すための物というより、もう攻城兵器と言っても過言ではない威力の弓たちは、あっという間に第二波を討伐してしまった。


「……おっそろしいっスね」


 ハリーが、手でひさしを作ると遠くを見ながら言った。


「あんたすっごいな!!」

 

 爆発する矢を放っていた若い男が興奮気味に俺に言った。首には銀色のネックレスがキラリと光っていた。もしかしたら俺と同い年位かもしれない。

 なんとなく話しやすい気がして俺は尋ねた。


「あの爆発するやつどうやってんの? ええと、名前は……」

「俺、ロビンな! やり方はわかんねえ! けど、なんかぶつかったら発動するイメージでやってる。ハイケ……俺のサーバントもそのはずだ」

「そうだよ! 私もやり方わっかんない!」


 ぎゃははと二人は笑った。完全に感覚でアビリティを使ってるらしい。

 でもなんだか二人の反りはあっているようで少し羨ましかった。


 ぶつかったら発動するってことは、もしかしたら先端に感圧式魔法みたいなアビリティを使ってるのかもしれない。

 今度やってみよう。


 ともあれ、かなりの威力があることがわかった。

 これは本当に行けるんじゃないか?


 そう、思っていると、突然森の中から甲高い悲鳴が上がった。木々が倒れる音。アビリティらしき力の塊が木々を切り裂いて空に飛んでいくのが見えた。

 斬撃のようなアビリティはあまりにも巨大で、一瞬にして森の上の方が開けてしまった。


 その向こうに、一つの影が揺れている。

 影はゆっくりと森の中を木を避け、倒しながら進んで来る。


 ゾーイ……そして、ライリーだ。


 でかい。

 レッドグリズリーの倍以上、もしかしたら、ボルドリーを囲う壁と同じくらいの高さがあるんじゃなかろうか。

 

 ロビンは慌てた様子で俺から離れて、鎖の場所に戻っていった。

 俺も鎖の集まる場所にしゃがみこんで手を置く。


「下がるっス!! 食われるっスよ!!」


 ハリーは依然森の近くにいた冒険者たちにそういった。

 冒険者が逃げる間にも、ずんずんとゾーイは進んでくる。

 

 体の形がはっきりと見えてくる。

 

 俺たちは絶句した。


 人型ではあるものの、それを人間と呼ぶにはあまりにもいびつだった。もう、ゾーイなのか、ライリーなのか全くわからない。


 ボコボコとした皮膚に服なのか肉なのかわからない切れ端のようなものがくっついた姿だった。

 目はあるが、鼻はない。その癖、口は耳の辺りまで避けている。

 ボサボサの髪が肩まで伸びていて顔の一部は隠れている。 


「構えるっス!!」


 ハリーの声にハッとして、5人の冒険者は弓を構えた。

 ホムンクルスは最後の木をなぎ倒して森から完全に姿を表した。


「撃ちます!」


 矢が放たれる。

 ホムンクルスはそれに気づいて、何かをした。

 甲高い悲鳴が聞こえた。


 ホムンクルスの体の前に盾のようなものが出現する。矢はそれに突き刺さり、爆発。しかし、ホムンクルスの体には全く害がないようだった。


 どうして盾なんか使えるんだ?

 食った人間の中に盾のサーバントを使っていた人間がいたのだろうか?


 ホムンクルスは盾を消すと、俺達の方へ進んできた。

 冒険者たちは矢を放ったが、そのたびに、盾が出現して弾かれてしまう。


 どうすれば……。


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