第41話 膨張
(カタリナ視点続きです)
周りを見ましたが、冒険者や騎士たちはすでに森の方へ向かっていて、馬車のあるこの場所は静かなものでした。
「ライリー、このうるさいのを殺さない? 耳障りだよ」
ゾーイがそういうのを聞いて、私は目を見開きました。
痛みをこらえながら、顔をあげます。
が、私の体は剣に戻ってしまいました。
「なんで……」
「ライリーからあなたに流れる魔力は私が管理しているの。あなたを元の体にもどすことなんて簡単に出来るんだよ? だからこうやって、壊すことも出来る」
ゾーイは私の剣の体を持ち上げると力を入れました。
「嫌です! 殺さないでください! 死にたくない!!」
「呪いが解ければカタリナもきっと使えるようになる。連れていこう」
ライリーはそういいましたが、ゾーイはため息を吐きました。
「ならないと思うけど?」
「私は優秀です! 今は呪いがかかっているだけです! だからどうか……」
ゾーイは私を人型に戻しました。
私は荒く呼吸を繰り返しながら自分の体にふれました。
本当に私の体はゾーイの思うままのようで、背筋が凍りました。
「ライリーは連れて行くって言ってるけど私は反対だな。今まで私達のことバカにしてたでしょ? わかるんだよ?」
「そんなことしてません」
「わかるって言ってるの。……ねえ、謝ってよ。そしたら許してあげる」
私は歯を食いしばりました。どうして謝らなければならないのかわかりません。
彼女たちがおぞましいことをやっていたのは事実です。
それにライリーのアビリティの使い方が下手なのも。
私は渋々頭を下げました。
「すみませんでした」
「もっとちゃんと!!」
ゾーイはまたアビリティを使いました。
嫌悪感を伴う苦しみが襲ってきます。
私はひざまずいて体を抱え、呻きました。
「いいよ、その格好。さあ、謝って」
私は痛みに声を震わせて言いました。
「申し訳ありませんでした……」
「……まあ、いいか」
ゾーイはそうつぶやきました。
私はものすごい屈辱で顔が熱くなるのを感じました。
命乞いなんて……。
惨めで苦しくて、私はしばらく頭をあげることが出来ませんでした。
「あーあ、また遅れちゃった」
と、声が聞こえました。見ると女性がちょうど馬車から降りてきたところでした。確か、スザンナとか呼ばれていた冒険者です。領主の娘らしいですが、ライリーとはあまり関わりがなかった貴族です。
金のネックレスをつけた黒髪の女性で、ヒョロヒョロとしたサーバントを連れていました。
「あんたたちも遅れたくち? っていうかあんた、女性にしてはでかいね」
スザンナはゾーイに近づくとそういいました。
「もっと大きくなるよ」
「は?」
スザンナが首をかしげた瞬間、ゾーイの胸元がばくんと開いて、真っ赤な花が咲きました。
肉なのか、金属なのかわからない、薄気味悪い色をした空間が露わになって、そこから棘の生えた触手のようなものが伸びると、一瞬でスザンナの体を捕らえ、引き込みました。
悲鳴も聞こえず、スザンナの体はゾーイの中に飲み込まれてしまいました。
私はそれをただ呆然と見ていることしか出来ませんでした。
「スザンナ様!!」
サーバントの男が叫び、ゾーイに殴りかかろうとしましたが、彼の体は剣の形に変わってしまいました。
「くそ!! どうして……!!」
「この女の魔力は私のもの。あなたはこの女と契約が続いているけれど、アビリティを使うことは出来ないの。だからね、あなたはもうただの棒切れ」
ゾーイはそう言うと剣になったサーバントを掴んで力を入れました。
「やめろ!!」
彼は叫びましたが、それもすぐに消えてしまいました。
ゾーイは金属の剣をねじ切ると、地面に投げ捨てました。
「すごい! すごい力だ!!」
ライリーのはしゃぐ声が聞こえてきます。
ああ、もう彼の精神はゾーイに汚染されてしまったのだと、その時思いました。
「これなら兄さんを殺せる!! 僕をバカにしていた貴族も見返せる!!」
「うん、行こう!」
ゾーイはそう言って、私を剣の姿にして手に持つと、森の前でだらけていた貴族たちの方へと向かいました。
武力実力主義の貴族たちは、交流と言って試合をよく行っていました。
そこで子爵の息子に負け、たくさん醜態を晒してから、ライリーは見くびられるようになっていました。
ここにはその貴族の息子が一部参加していました。もちろん、ライリーを倒したアーガヴェニー子爵の息子も。
ゾーイ/ライリーはまっさきに彼のところに向かいました。
それからのことはよく覚えていません。
ただ苦しくて辛くて、痛かった。
真っ赤な風景。
ゾーイ/ライリーは地面を蹴るとその巨体のまま飛び上がり、岩の柱を見つけました。
「きっとあれが、混乱の元凶だ! 倒しちゃおう!! きっと皆認めてくれる!」
ライリーがそういったのを聞きました。
それからまた痛み、苦しみ。
私はニコラの名前を叫びました。
助けて下さい!
助けて、ニコラ!!
私の契約者でしょう!?
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