第33話 カタリナの提案
朝のうちに空を
「おお、昨日はすごかったな」
「助かったぞ」
バシバシ肩を叩かれて俺は顔をしかめた。
と、昨日トレントを風の弓で倒そうとしていた男の子の冒険者がやってきた。
俺より結構年下っぽい。ライリーと同い年くらいじゃないか?
なのにネックレスは銀でCランクらしい。
彼の隣には同じくらいの背の女の子が立っている。
二人とも目をキラキラさせて俺を見ていた。
「あの! 僕ミックっていいます。この子はシビル。昨日はありがとうございました!!」
「すごかったです!! トレントを凍らせたかと思ったら、今度は炎で焼いて倒すなんて!!」
両手を握りしめて彼らは言った。
こういう反応は初めてだったので、俺は少し怯んだ。
いままで『大罪人の生まれ変わり』だのアニミウムが体内にある間抜けだの言われてきたのでその差がでかすぎる。
「ああ、……どうも」
「サーバントはどんな方なんですか!?」
シビルの方が尋ねた。本当に聞きたそうに俺に顔を近づけた。
ミックも興味があるようで、シビルを止めるどころか一緒になって近づいてきた。
ああ、そうだよね。普通はサーバントを使ってアビリティを使うもんね。
いままで特に説明する必要がなかったから考えてこなかったけど、どうしよう。
サーバントはいないと言ってもいいが、どうやってこの体になったのか説明するのが面倒だった。
「無口でシャイなんだ。あんまり人に姿を表したくないみたいでね」
俺はそういうことにした。
「そうですか……残念」
シビルは本当に残念そうにうなだれた。
嘘ついてごめんよ。
ふと、俺は気になってミックに尋ねた。
「あの、スザンナって人、今日も来ないのか?」
スザンナという名前が出てきた瞬間に彼は顔をしかめた。
「ええ……僕らのパーティのリーダーなんですけど、全然来ません。パーティで彼女の次にランクが高いのが僕なので、いつも大変で。依頼もほとんど僕たちがやってるような感じなんです」
あはは、と彼は乾いた笑い声をだした。
と、ギルドマスターが俺を呼んだので、彼らにじゃあ、と告げて受付に向かった。
「やあ、来たな」
ギルドマスターは微笑んだ。俺は顔をしかめた。
「これが昨日の分の報酬だ。トレント1体、グリーンウルフ1頭の討伐。それとトレント1体の討伐補助。あわせて37万ルナだな」
ちゃんとライリーと一緒にいたときに適当に燃やして倒したグリーンウルフの分も入っている。入ってなかったらまた文句を言うつもりだったので、これは安心。
ギルドマスターは小さくため息をつくと言った。
「本当に任せられないのか?」
「ええ。お断りします」
俺が言うと、ギルドマスターは眉間にシワを寄せた。
「しかたがない、な」
「ええ。そうですね」
俺は頷いた。
俺たちは昨日と同じように森に出発した。走って向かっても良かったが、あの後ずっとミックとシビルがベッタリとついてきて、
「一緒に馬車に乗りましょう」
と言われて乗せられた。馬車の中ではミックとシビルに色んなことを聞かれた。今までどこにいたのか、どこへ行くのか、他に何が出来るのか、などなど。
俺は適当に答えていたがあまりにはしゃぐので周りの冒険者に注意されていた。
で、森につくとすでに騎士やら貴族やらが待機していた。どうやら騎士の何人かは夜を通してここで監視していたらしい。松明の跡がある。
馬車を降りた後もぴょこぴょことミックとシビルはついてきた。
「なんでついてくるんだ?」
「「サーバントが見たいんです」」
二人は口を揃えてそういった。
こう張り付かれるのは困る。俺は真実を言うことにした。
「実はね、俺はサーバントを持ってないんだ。だから……」
「いえ。持ってますよ、ニコラ」
そう、声をかけられた。俺は眉をひそめて彼女の方をみた。
カタリナが立っていた。昨日と同じような光景だ。
「この人がニコラさんのサーバントなんですか?」
シビルがニコニコ笑ったままそういった。
「そうですよ。こんにちは」
カタリナはニッコリと微笑んで、シビルに手を振った。
何考えてんだこいつ。
気味が悪かった。
俺は最大限の警戒をした。いつでも《闘気》やら《身体強化》やらを使えるように準備した。
カタリナは俺に近づくとあろうことか俺の腕を抱いた。
俺はすぐに振り払った。
「痛いですよ、ニコラ」
「何してんだ、お前」
「何って……ええ、たしかに順番が違いましたね」
ミックとシビルは様子がおかしいと悟ったのか苦笑した後、居心地が悪そうに目をさまよわせた。
俺は頭を掻いて、二人に言った。
「後で説明するから、ごめん、しばらく離れててもらえる?」
「あ、……はい」
二人は顔をあわせて、心配そうに俺を見ながら離れていった。
「なんなんだ、お前」
俺はカタリナを睨んだ。
この時点でだいぶ苛ついていた。ただでさえギルドマスターのことでイライラしてるんだ。
触られるだけでおぞましいのに、猫なで声までついていて鳥肌が立つ。まだ知り合って間もないミックとシビルに気を遣わせたのが怒りに拍車をかけた。
「ニコラ、私はあなたを認めてるんですよ。本当にダメだったあなたは私のために頑張りました。健康になって、アビリティも使えるようになって、しかも属性を二つも手に入れて戻ってきました。頑張りましたね、ニコラ」
カタリナは微笑みを浮かべた。
私のために?
どの口でそれを言ってるんだ?
カタリナは続けた。
「昨日まではサーバントを持っていたようですが、さっきの話を聞くと、今は持っていないんでしょう? それって私とまた契約するためですよね? やっぱり私が必要なんですね」
カタリナはまた俺の腕を抱いてきた。
「契約してあげましょう。特別ですよ」
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