第32話 属性の混合魔法を使おう
凍らせることができたんだから蒸気も同じようにできそうな気がする。
俺は水の球を出した後、それを温めるイメージをしてみた。
うーん。出来ないな。
やはり、水の属性だけでは冷やすことしか出来ないらしい。
では、と、火の属性を同時に使おうとすると、体の中で魔力が衝突してしまうような感じがする。
『やさしい魔法 第五版』にも載っていたが魔法は循環だ。
体内に魔力が循環していなければ魔法は使えない。
運動も回転――輪を作ることで発動できる。
その循環が途中で止まってしまえば魔法は発動しない。
ということはうまく流してやれば良いはずだが、どうすれば良いんだ?
二つの円を体の中で作るイメージは……だめだな。
結局どこかで衝突してしまう。血管がエルフや獣人の魔力循環器官の代わりだからかもしれない。
う~んと考えているとふと思いついた。
革の袋に入っている剣は水の属性だろうが普通の属性だろうが魔力を流せば全部火の属性に変わってしまった。
それにアリソンに魔力を流したとき、俺が水の属性を流していてもコルネリアはそれを雷の属性に変換して使い分けていた。
思うに属性とはフィルターなんじゃないか?
魔力が属性のフィルターを通ると別のものに変換される。
俺はもともと水の属性のフィルターを、アリソンは雷の属性のフィルターを持っていて、俺が水属性の魔力を流そうが、アリソンの体の中でフィルターを通せば雷の属性に変わる。
そう考えると、もともと魔力の少ないアリソンが巨大な
要するに、人間が属性を持つということは「属性のある魔力を持つ」ではなくて、「属性のある魔力に変換できる」ということなのかもしれない。
それを踏まえると、今俺は、二つの属性を混ぜるために「二つのフィルターを連続して通す」ということをやってしまっている気がする。もしくは「別々のフィルターを通した魔力」を無理やり混ぜ合わせている。だから流れが異なり衝突する。
コルネリアが初め二つの属性を分けることが出来ず混合魔法を使えたのは、アリソンの雷のフィルターが俺の莫大な魔力を変換しきれず水と雷の属性が混ざった循環が出来てしまったからだ。この場合、流れは一つ。衝突はしない。
ということはつまり二つの属性が混ざった一つの循環を作ればいい。
「二つの属性を持ったフィルター」を通して、それを一つの循環に乗せる必要がある。
ふむ。
属性は合金で出来ている、というのがヴィネットの理論で実際そのとおりっぽい。俺の中には今、鉄との合金と水銀との合金があってそれぞれが火と水の属性のフィルターになってるはずだ。
じゃあ、それまぜればいいんじゃね?
別々の合金を体の中で混ぜ合わせて新しい合金モドキを作ればいい。
俺は体の中で火の属性に変換される部分を探してみた。手のひらで火の玉を作る瞬間、体のどんな部分に変化があるのか。水の属性でも同じように試してみる。
どうやら心臓の下らへんで反応している気がする。
俺はそこに集中して、合金を作るイメージをする。心臓の下がじわりとあたたまる感覚。
よし。
火と水の混ざりあった魔力で、水の玉を作る。
温度を上げる。上げる。
ボコボコと水の球の中に空気が浮かぶ。
水蒸気が現れる。
出来た!!
これを使って、思いっきり水蒸気を出せば!!
と思ったが突然、
「は?」
いや、おかしいだろ。なんで水が燃えるんだ?
油じゃないのに……。
そういえばと俺は思い出した。
アリソンと魔法を使ったとき水に電気が流れていた。
純粋な水はほとんど電気を流さない。
ではアリソンとコルネリアが使ったアビリティではどうして水が電気を流したのか。
何か空気中のものが混じったから、というより、おそらくあれは「電気を流しやすい水」だったのだろう。
そしていま、俺の目の前で水が燃えている。
これは「燃えやすい水」だ。
別の言い方をすれば「火の属性を伝達しやすい水」。
つまり、もしかしたら、二つの属性を混ぜたことで、水の性質が変化したのではないか?
こんな使い方もあるのか、と思うのと同時に、これ勝手に発動すると困るなと思った。
油みたいな水を被った状態で火がついたら死ぬ。
ただの水で水蒸気を出す。それを意識する。
「熱っつ!!」
俺はすぐに中止した。ダメだこれ。
そもそも蒸気が
俺は両手を氷水に入れてぐったりした。
うまくいくと思ったのに。
俺は考えた。
鍋に蓋をすると蒸気がシュンシュンと出て蓋を押し上げる。
あれは小さな体積の中が空気で満杯になって、圧力がかかり、外に飛び出すから動くんだ。
ということはだ。小さい体積の中で水蒸気を作り上げて、それを外に放出することで力を得れば良いのでは?
これで行こう!
と、店が開くまで待ってから、俺は武器屋に向かった。
「すみません。鞘を二つください」
「は? 剣じゃなくて鞘だけ?」
「鞘だけ」
店主は怪訝な顔をしていたが、同じのを二つ用意してくれた。いい人だ。
礼を言って、また街の外に出ると両手で鞘を持った。
考えはこうだ
鞘の中で水蒸気を作り出す。と、鞘の入り口から蒸気が噴出して十分な推進力になってくれる。一緒に革の手袋も買っておいたので、熱さも対策済みだ。
まずは実験、と一本の鞘を持って水蒸気を作り出す。
しゅうしゅうと音を立てて、鞘の入り口から蒸気が噴出。熱い。
手を離すとシューンと空に飛んで落ちてきた。
よしよし。
やるぞ。
さっきと同じように地面に感圧魔法を使い、《闘気》を身にまとう。
感圧魔法を踏んで宙に投げ出される。ぐるぐると回る体。
その瞬間、鞘から蒸気を噴出して、体勢を整える!!
腕がぐんと引っ張られる。回転が徐々に収まる。
そして、体勢がととのう。
よし。
よし!!
俺の体が落下する。その前に足元に感圧魔法を発動。
鞘の蒸気が噴出するのと同時に踏む。
跳ぶ。
今度はまっすぐ跳べた!!
よし!!
行ける!!
これで森を抜けられる!!
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