第31話 空跳ぶ魔法

 ラルヴァの街で宿を取ると、俺は地図を取り出した。森を迂回して行ければ、一度ボルドリーまでいって様子をみてから帰ってくることも出来るんじゃないか?

 と思ったがこの森は広すぎる。もしかしたら大陸の端まで森が続いているんじゃなかろうか。どう考えても避けて通ることが出来ず、結局は森に入る必要がある。


 やっぱり立ち往生らしい。


 そういえば、と俺は騎士たちの集団を思い出した。ライリーがいたことからわかるようにあそこには一部の貴族たちが混じっていた。おおかた「駆けつけたぞ」というポーズをするためだと思うが、一部は金やら装備やら有用な物を持ってきていたらしい。


 というのも、集団の脇の方に馬のように乗ることが出来るルフと呼ばれる巨大な鳥の魔物が陣取っていたからだ。

 ルフはかなり高価だったはずだ。馬何頭分になるか検討もつかない。


 俺がラルヴァに向かって走りだそうとしたまさにその時、一人の騎士がルフにまたがり森の向こうに飛んでいった。


 で、ふと思いついた。


 空を、跳べ・・ばいいんじゃないか?

 俺はエントアの街を囲う壁の高さまでジャンプしたのを思い出した。


 垂直に飛んだ後に、その頂上で氷の足場を作って、それをまた蹴り、また足場を作って蹴り、を繰り返せば空なんか飛べなくても森を越せる気がする。


 おお、いいこと思いついた。

 

 そう思っていた時期が俺にもありました。


 あくる日の早朝、街の近くでそれをやろうとして、失敗した。

 高くジャンプすることは出来る。が、足場を作って蹴ったら、足場だけが思い切り地面の方に飛んでいって、突き刺さった。


 あっぶねえ。


 体の半分を守れる盾くらいの大きさの氷がグッサリと地面に埋まっていた。人がいたら死んでたよ絶対。

 というかラルヴァの街の方に蹴らなくて本当に良かった。

 壁に突き刺さるどころか建物に飛んでいったらただでは済まなかっただろう。弁償ものだ。


 ということはだ、まずは俺の蹴りを完全に反射してくれる、俺の体重を支えてくれる氷を作る必要がある。つまり、宙に作った氷の上に乗る練習が必要だ。


 俺はとりあえずいつものように宙に水の球を浮かせ、凍らせてみた。

 これはちゃんと浮かんでる。それは俺が体の外側に持ってきた魔力を変換し、維持しているからで、ものを浮かべるというのとは別の作用だ。


 その氷の球を今度は宙に打ち上げてみる。散々練習した運動の魔法を使えば、高く高く氷の球を空に飛ばすことができる。

 しばらくして、落ちてきた氷の球は地面にぶつかり、ドスッと埋まった。


 これがうまいこと使えれば良いんだけど。


 なにかヒントはないかと思って革の袋から『やさしい魔法』を取り出した。


「あ、これ初版の方だった」


 鬼畜仕様の方だ。久しぶりに読んでみようとパラパラと捲った。

 確か第一章一節が「二つの属性を混ぜよう」になっていたはずだ。

 見てみると「火ー水属性の混合例」があった。


「ええと、『水の属性は氷になって温度を下げるが、上げることが出来ないので火の属性と混ぜれば沸騰→水蒸気にできる』か。……水蒸気で空って飛べるのかな」


 そう思ったけどそもそも属性の混合が出来ないのだった。

 出来てからやるということで、第五版の方を引っ張り出す。


「ああ……あ? これ使えば良いのか?」


 そこにあったのは感圧魔法とか言う聞いたことのないものだった。

『魔力を一時的に空間に貯めて、圧力を検知した瞬間に発動する基本魔法』

 そこにはそう書いてあった。


「跳びたい方向に飛ばす魔法を空中に作っておいて、それを踏んで飛べば良いのか。わざわざ物理反射みたいなことをしなくてもこれ使えばいけそう、かな?」


 物理反射とかどうやってやればいいかわからない。

 感圧魔法もわかんないけど、こっちは本に載ってるし、使えるなら使おう。


 魔力を体の外側に持ってきた状態で、運動の練習のときのように宙で回転させる。その状態が停滞状態になる。後は自分との魔力を切って、浮かんだままになっていればいいらしい。


 うん。結構簡単に出来た。

 触ってみるとパチンとシャボン玉が弾けるように魔力が消えた。今はまだ何も魔法を使っていないから魔力が単純に霧散したんだろう。


 後は、宙で回転させた停滞状態のときにどんな魔法を発動するかをイメージする必要がある。


 俺は投石機とかバリスタみたいな大型の飛び道具をイメージした。あんな感じで俺の体を氷の板みたいなもので押せばいい。


 地面で魔力を回転させて、発動する魔法をイメージする。氷の板で押し上げるイメージ。


 魔力を切ってもまだ、回転している。

 俺は自分の体に《闘気》をまとわせて、気合を入れた。


 よし。


 ジャンプして、感圧魔法を踏む。

 靴の裏がパキパキと凍ると、ぐんと持ち上げられる感覚がある。

 俺の体は宙に投げ出された。


「成功した! けど!!」


 足かせみたいに両足に氷の板がひっついている。

 それに体がぐるぐる回転している。体勢が保てない!!

 だんだん具合悪くなってきた。


 ドスン、と地面にぶつかった瞬間俺は嘔吐した。

 うええ、ぐるぐるする。

 俺はその場にへたり込んで揺らぐ視界が落ち着くのをまった。


 これ、連続してつかうの無理だ。

 飛ばされた後に体勢を保つ方法がほしい。

 俺は脚にひっついた氷の板を火を使って溶かしながらそう思った。


 手から思い切り水を出してそれで体勢を整えるのも一つの案だけど、そんなことをしたら下にいる人も俺もびしょびしょになる。


 やっぱり蒸気なんだろうか。


 火と水の混合魔法。


 やってみるかあ。


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