第34話 説明したけど水掛け論だこれ
契約?
契約って言ったか?
こいつ自分がしたこと忘れたのか?
俺はまた腕を振り払った。
カタリナは不満そうな顔をした。
「何してるんです?」
「おまえ、俺にアニミウムを注射しただろ? 忘れたのか? 俺はもうサーバントと契約なんて出来ないんだよ」
カタリナは眉根を寄せた。
「嘘をつかないでください。あなたは昨日アビリティを使ってましたよね? サーバントと契約してる証拠じゃないですか」
「俺が使ってるのはアビリティじゃない。魔法だ。サーバントと契約していなくても使えるんだよ。なぜ出来るようになったか説明する気はない」
俺はため息をついた。
「とにかく、俺はサーバントと契約できない。お前らのせいでな」
カタリナは一瞬両手を握りしめたが、すぐに緩めると言った。
「そうですか。……でもきっと治す方法はありますよ! 一緒に探しましょう? 治れば私とまた契約できますよ? 素晴らしいアイディアだと思いませんか?」
こいつは本当に馬鹿なんだ。
そうなんだ。
「カタリナ」
「なんでしょう?」
「仮に俺がサーバントと契約できたとして、どうしてお前とまた契約すると思ってるんだ?」
「え?」
カタリナはキョトンとした。
「そんなの当たり前じゃないですか。ニコラは私を必要としてる。私がいないとダメじゃないですか。だから、あなたは私と契約するんですよ。そうでしょう?」
「あのなぁ……」
俺は深くため息をついた。
「俺のこと見捨てておいてどうしてそんなことが言えるのか理解に苦しむ。いいか、カタリナ。俺はお前なんていらないんだよ。というか近づくな、気味が悪い」
「私のことが……いらない? 気味が悪い?」
彼女はその言葉を
血が通っていないはずなのに、血管が浮いているようにさえ見えた。
「下手に出ていればいい気になって!! 良いですか!? あなたは私がいなければ何も出来ないんですよ!? やっと手に入れた力でしょう? その力は私のためにつかうべきです!! 体が弱くてろくに運動が出来ないあなたは、今まで私に散々迷惑をかけてきたんだから!!」
流石に声を荒げすぎている。ミックとシビルだけじゃない、冒険者や騎士がまた俺たちを見ている。俺の周りでは常に問題が起きる、と思われているかもしれない。
俺はカタリナを睨んだ。
「俺が健康を損ねていたのは、お前が原因だろ? お前がアビリティをしっかりと使えていれば、俺は週のほとんどをベッドで過ごすことはなかった。俺はアビリティを使おうとした。お前はやる気がなかった。だからあの状態だったんだ」
「私のせいですか? あなたの魔力のせいでしょう? 何を言ってるんですか? あなたが悪いんですよ」
ああ、水掛け論だ。
俺は首を横に振った。
「とにかく、お前とは契約できないのは事実だ。それに、この体を治す方法もない。善悪も気持ちも関係なくそれは事実なんだ。わかったらライリーのところに帰れ」
カタリナはぐっと口を閉じた。
こればっかりは彼女もよくわかっていることだった。
「あなたはきっとすぐに私の必要性に気づくはずです。……待ってます」
「いらねえよ。とっとと失せろ」
カタリナはぎょっとして更に顔を赤くした。もうほとんどどす黒かった。
「後悔しますよ!? 泣いてすがるようになってからでは遅いんですからね!?」
カタリナはそう言い捨ててスタスタと行ってしまった。
今更すがろうとしてるのはお前だろうよ。
どっと疲れた。どうして森を抜ける前にこんなに疲れなければならないのか。
ミックとシビルが近づいてきたが、彼らに話をする前に、ギルドマスターが指示を出し始めた。俺は彼らと別れて森の近くまで歩いていった。
さて、俺は俺で森を越えよう。
朝の感じを思い出す。
感圧魔法を展開して、《闘気》を身にまとう。腕をまくると鞘から蒸気を出して、その威力を調整する。
よし。
感圧魔法を踏む、俺の体は宙に投げ出される。
高く高く跳び、森が眼下に広がる。
次の感圧魔法を足元に、発動、前方に跳ぶ。
何度も何度も繰り返しているうちに、だんだん威力の調整が出来るようになっていって、俺はまるで空中を大股で走るように跳んでいった。鞘が杖みたいで山登りしているみたいな動きだと思った。
ボルドリーからアルコラーダに向かうときに通った道がちょうど真下に見える。
これをたどっていけば迷わず着くはずだ。
ぴょんぴょんと飛んでいると森の向こう端が見えてきた。
それと同時に、俺は左手に見えるものにぎょっとした。
……何だあれ。
それは岩で出来た柱だった。
柱と言っても人工的には見えない。何か無理やり地面を隆起させたような、ものすごく細長い岩の塊だ。森の中にボコボコといくつかみえる。
それほど高いわけではないから森の外から見ることは出来ないだろうが、木々よりは高く、空を跳んでいる俺から見れば十分目立っていた。
あれが原因なんだろうか。俺はそちらに向かって跳んでいった。
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