第13話 もらった魔道具の袋に入っていたもの
事の次第を説明するとアリソンは仏頂面をした。
「なんで怒ってんの?」
「怒ってない」アリソンは口を尖らせた。マヌエラとベッドをともにしたことが気に食わないのだろうか。何もしていないぞ。子供は出来たけど。
あの後、ウィンターはマヌエラに引き取られた。引き剥がされるとき「きいきい」と鳴いてウィンターは俺にすがりつこうとした。可愛い奴め。どうやら一度、親のドラゴンに会わせに行くらしい。それがドラゴンからの依頼だとも言っていた。
マヌエラからの追加報酬は後日会ったときに渡すということで、とりあえずはもらった革の袋で遊ぶことにした。
なにか入っているという話だけどそもそも使い方がわからない。
不機嫌なアリソンと一緒に出た依頼先で魔物を倒すと、俺は革の袋を手にとった。
ええと、魔力を流すと良いんだっけ?
試しに持つ手に魔力を集めると、袋がぐんと大きくなった。開いて中を覗いてみる。
……真っ暗だな。マヌエラが使った魔法みたいに中が全く見えなかった。
何が入ってるんだ? と考えた瞬間、頭の中にイメージが浮かんできた。多分これは中に入ってるものの一覧だろう。随分便利な作りになっている。
本が……50冊以上ある。100年触れてないと言っていたから随分古い情報が載ってそうだ。それから……お金が大量に。と思って出してみたら見たことがない金貨だった。つかえないじゃん。
アリソンに尋ねたが見たことがないらしい。まあ、100年前の金貨だからね。
というか、アリソンはまだ少し機嫌が悪かった。
俺は本を一冊出してアリソンに見せてみた。なんか魔物についての本みたいだけど詳しい内容までわからない。食いつくかな。
「なにそれ」食いついた。
「ええと……、読みづらいな……」
俺がそう言うとアリソンは顔を近づけて本の内容を見た。
「『魔物との契約、テイミングについて』?」アリソンは半ば俺から本を奪うようにするとパラパラとめくり始めた。昔の言語なのか読みづらいのによくそんなパラパラ読めるね。
固まったように一つのページをしばらく眺めると、突然バフと本を閉じた。
「ねえ、これ借りていい!?」アリソンは今日イチの笑顔でそう尋ねた。
俺は驚いて頷いた。何かを見つけたらしい。
その日の帰り道、アリソンは上機嫌だったが何を見つけたのかは一切話してくれなかった。
明くる日、アリソンは「昨日の本をしっかりと読みたい」というので俺は一人だった。
じゃあ、魔法の練習をするしかない。
革の袋には他にも剣が入っていたりしたが、どうせまだ剣術は使えないのだ。放置した。
本の中には魔法に関するものもあるようだったが50冊近い本のうち半分くらいは読めない文字で、後の半分は古い言葉で書かれていて読めるけど意味がわからない。アリソンはよく読めたなと思う。
かろうじて一冊だけ『やさしい魔法』とか言う本が紛れ込んでいてそれは読むことが出来た。ただ、第一章一節が「二つの属性を混ぜよう」という題になっていて初っ端から人外仕様だった。ふざけんな。可愛いイラストが書いてあったがその全部の耳が尖っていた。
かろうじて「《闘気》をまとって怪我をしないようにしよう」という項目が付録でついていたが、「皆は出来ると思うけど」という煽りの言葉が入っていてぶん投げそうになった。
イライラしながら読み進める。《闘気》というのは結局、《身体強化》を体の外部で行うというだけらしい。
本を地面に置くと立ち上がって実践してみる。体の外側に魔力を持ってくることは出来るのでそこで《身体強化》を行う。
……うまくいかない。というのも、「強化される場所」を作ることは出来るのだけど、体を動かすとついてこずその場に留まってしまう。要するに、《闘気》を「体にまとう」ということが出来ない。
どうしようか悩んでいると門番の姿が目に入った。彼らは鎧を着込んでいる。
ああ、そうか。鎧だと思えばいいんだ。
さっきまではまるで水の球を作るときのように、外側に魔力を集めて使い、それを体にまとうという二段階のイメージだった。そうじゃない。
《闘気》という鎧を着込むイメージをしてみた。肌の少し外側に魔力をまとって強化する。
ブブブと体の周りになにかがまとわりついているように、ブレたように見える。水の中に手を入れているように形が歪んで見える。
おお、出来た。体を動かしてもちゃんとついてくる。これで本物の鎧のように、いや、鎧以上に衝撃を吸収してくれればいいのだけど。
こうなったらジャンプをしてみるしかあるまい。
俺は《闘気》をまとった状態で、更に《身体強化》を行った。二重に考えなければならずなかなか難しい。安定してきたところで踏ん張って、地面を蹴った。
ぐん、と体中に重力がかかったような感覚があって、俺の体ははるか高くに飛び上がった。どのくらいかと言うと、街を囲っている壁の上ぐらいまで。壁の上にいた騎士がぎょっとしてこちらを見ている。
これは絶対跳びすぎだ。
俺の体は降下し始める。内臓が浮く感覚があって背筋が凍る。
死ぬ死ぬ!!
俺は全力で《闘気》を体にまとった。地面が近づく。俺は目を閉じる。
衝撃……はほとんどなかった。ただ、少しだけ地面がえぐれた。
おお。ちゃんと使えてるっぽい。
これで剣も防ぐことが出来るはずだ。試さないけど。
残るは水の属性の第二段階だがどうもまだうまくいかない。剣の形を思い浮かべて形作っても、別に持てるわけでもない。ただそういう形をした水が浮かんでるだけ。飛ばしてみたが、攻撃力は全くなさそうだった。
ウンウン唸ってるとコルネリアがやってきた。アリソンはまだ本を読んでいて暇だからやってきたようだ。
「全然、盾とか剣とか、武具として使えないんだけど」
俺が言うと、コルネリアはああ、とうなずいた。
「そりゃそうだ。だってニコラはサーバントじゃないだろ? つまり、もともと道具じゃない」
俺が首をかしげると彼女は続けた。
「つまりな、私達は自分の元々の道具の形をイメージしてそれを使ってアビリティを使ってるんだ。いわば分身を作ってるイメージだな。私の場合は元々剣で、その素材を使って盾を作ってるから両方できるが」
「分身……」となると俺の場合は……、「俺の分身を作り出せば良いのか? 人型の」
「あ、そうなるのか……」コルネリアは腕を組んだ。「どうだろうな。でもそれは武器じゃないだろ」
それはそうだ。
ああ、マヌエラにやり方を教わっておけばよかった。あの人ナイフとか普通に作って攻撃してたからなあ。本になにかヒントはないかと思ったけれど読めないんだった。
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