第12話 ドラゴンの卵を孵そう2
俺は首をかしげた。
「なんで俺なの? もっと他に魔力が多い人とかいるでしょ?」
ギルドマスターは俺と同じ意見みたいだった。
「そうですよ。どうして人間のニコラに頼むんです?」
マヌエラは俺とギルドマスターを見比べた。
「おぬし等、知らんのか? ニコラの魔力は妾よりも数倍大きいぞ。はっきり言って異常値じゃ。今まで人間として生きてこれたのが不思議なくらいに」
「そんなに……」ギルドマスターは唖然とした。
「もともと7日間全力で卵に魔力を与えるつもりじゃったが、ニコラがいればもっと早く孵化するじゃろう」
俺は腕を組んだ。
「報酬は?」
「そうじゃのう」マヌエラはそういって、人差し指で空中に円を描いた。円の中が一瞬で真っ黒になる。マヌエラは腕を突っ込んでガサゴソとやった。
「これは違う。ええと、……ああ、あったこれじゃ」
マヌエラは円から腕を引っこ抜いた。
……革の袋だった。
「なにこれ」
「魔道具じゃ、魔道具。魔力を流せば使えるようになる、いくらでも物が入る袋じゃ。といって、バカでかい魔力量が必要なんじゃがな。普通の人間には無理じゃ。おぬしなら簡単に開けられるじゃろうが。魔力流せるじゃろ?」
「まあ、流せるけど」俺は革の袋を持ち上げた。ちっちゃいな。ほんとにいくらでも物が入るのか?
と、俺が怪訝な顔をしていると、ギルドマスターが震えていた。
「そ、……そんなものを渡して良いのですか!? いったいいくらするのか……」
「いい。妾には魔法があるしの」
「それを俺に教えてよ」
俺が言うとマヌエラは笑った。
「水の球しか作れないやつが何を言っとるんじゃ。それにこれを使うには他の属性も使えなければだめじゃ。おぬし、水の属性しか持っておらんじゃろ」
なんだよ。つまんない。
「中になにか入っていたように思うが、どうせもう100年以上使っておらんのじゃ。それもやる」
100年っつったか?
こいつ今何歳だ?
袋はまあ確かに便利そうだった。今までだって、大きなものなら一人で運べたけれど、小さなものをたくさんとなると運ぶのが面倒だったし。
俺が仕事について了承すると、マヌエラは微笑んだ。
「よし、じゃあ早速やるかの」そう言って彼女は立ち上がってドラゴンの卵を抱いた。
アリソンとそこで別れた俺は、マヌエラとギルドマスターに連れられて、この街で一番の宿泊施設にやってきた。部屋の広さは俺が借りているところの4倍くらいは普通にあったし、椅子やらテーブルやらの調度品も高価そうだった。少なくとも冒険者が借りる場所ではない。ただただ居心地が悪かった。
ギルドマスターが出ていくと、部屋には俺とマヌエラだけになった。彼女は卵をベッドに置くと、俺に手招きした。
「こっちにきて一緒に魔力を送るんじゃ」
なんでベッドなんだ。
卵は鱗のような表面でゴツゴツしていた。これに本当に回復の効果があるんだろうか。武器のようにしか見えなかった。
「それを外すんじゃ」マヌエラは俺のブレスレットを指差した。「無駄に魔力が消費されてしまう」
マヌエラはそう言うと卵に触り、ゴロンとベッドに横になった。
俺はブレスレットを外すと同じように卵に触れた。
ぐん、と引っ張られるような感覚がある。体の中からなにか熱いものが引き抜かれるような感覚だ。
「横になっていたほうがいいぞ。こいつは際限なく魔力を持っていくからの」
今まで感じたことがないくらいぐんぐん魔力が減っている気がする。俺が横たわるとマヌエラが腕を伸ばしてきた。
「何すんだ」
「寒いんじゃ。こいつ思った以上に魔力を吸い取りおる」
マヌエラは震えている。
俺が身を寄せると、彼女はぐいと俺の服を引っ張って抱きしめた。卵を腹で挟んで温めているようなそんな感じだ。
「ううう」とマヌエラが唸るので仕方なく俺は毛布を引っ張ってかけた。
「おぬし、寒くないのか?」
「少しだけ寒いけど」
「たのもしいの。もし妾が一人じゃったら大変なことになっておったわ」
マヌエラは更に身を寄せた。彼女の体は氷のように冷たくなっていて俺は焦った。
「おい、大丈夫か!?」
「いや、大丈夫じゃない」彼女はふっと意識を失った。
え、死んだ?
俺は慌てて卵を彼女から離した。その瞬間、更に勢いよく卵が魔力を吸い出した。
寒っむ。ただ、耐えられない程じゃない。
マヌエラは小さく呼吸を繰り返していた。
ああ、死んでなかった。
これじゃあほとんど俺が魔力を送ってるようなものじゃないか。絶対追加で報酬をもらうぞと思いながら、俺はそのまま卵を抱えて、いつの間にか眠ってしまっていた。
「おい! おい、ニコラ!」
体が揺さぶられて俺は目を覚ました。
「おお、良かった。もう目を覚まさないんじゃないかと思ったわ」マヌエラはほっと息を吐き出した。
朝になっていた。まだ少し寒かったが、眠る前ほどではない。
「結局おぬしに任せきりになってしまったな。礼を言う」
「報酬をはずんでくれ」俺が言うとマヌエラは苦笑した。
「わかったわかった。それより……」マヌエラは俺が抱えていた卵を指差した。コツコツと振動している。
徐々に振動が大きくなり、ついに卵にヒビが入った。
パカっと割れると中から真っ黒なドラゴンが現れて口を開けた。俺を見上げてあくびをする。俺の手に首をのばすと頬ずりを初めた。
何だこいつかわいいな。
「無事生まれたようじゃな。しかし、一日で生まれるとは」マヌエラは腕を組んでそういった。
ドラゴンが俺にくっついて離れないのでマヌエラが報告に行くと、ギルドマスターが食料をもって跳んできた。ドラゴンは腹が減っていたのか食料に飛びつくとガツガツと食べ始めた。
ギルドマスターは恍惚とした顔でドラゴンを見ていた。
「おお、なんと神々しい」彼は手を伸ばそうとしたがすぐに引っ込めた。ドラゴンが気づいて威嚇したからだ。
ドラゴンは満腹になるほど食べ終えると、パタパタと飛行して俺の膝まで戻ってきた。というかもう飛べるのか。ドラゴンすごいな。
ギルドマスターが羨望の眼差しを俺に送ってくる。
「妾も頑張ったんじゃぞ。懐いてくれてもよかろうに」マヌエラはそう言って手を伸ばした。ドラゴンは一瞬首を上げたが、まあいいかとでも言うようにマヌエラに撫でられた。
「おぬしが名前をつけるといい」
「俺?」
そもそもオスかメスかもわからない。聞いてみたがマヌエラも知らないみたいだ。
俺はちょっと考えてから言った。
「じゃあ、ウィンターで」寒かったから。
「……まあええじゃろ」マヌエラは苦笑した。
「ウィンターだぞ、お前」なでてやると、ウィンターは嬉しそうに目をつぶった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます