第11話 ドラゴンの卵を孵そう

「ってことがあったんだ」と、アリソンに言うと彼女は驚いていた。


「エルフなんて会ったことない、けど確か、ものすごく偉いんじゃなかった? 王族とかそれに近い貴族とかに接するのと同じ扱いだったはずだよ?」


 そうなんだ。


「いきなり攻撃してきたからそれどころじゃなかったよ」


「じゃあ、いま領主のところにいるってこと?」


「そういうことになるね」


「何しに来たんだろ?」


 俺は首をすくめた。さあ、さっぱり。


 その日俺たちはまた、Dランクの依頼を受けて軽々と達成した。アリソンたちは徐々に水の魔力を使いこなしはじめていたし、それに水と雷の混合魔法についても色々と考えているようだった。


 俺はといえばまだ水の球しか出せないので彼女を尊敬しつつ一緒について回っていた。


 で、依頼を終えて戻ってくると、何やらギルド内が騒がしかった。


「なんだろうね」アリソンは受付に紙を渡しながらそういった。


 受付の女性は依頼達成の紙に書いてあった俺の名前を見るとはっと顔を上げた。


「貴方がニコラさんですか?」


「そうですけど」


「少々お待ちを」


 女性はすぐに一つの部屋にはいっていった。


「ニコラ、なにかやったのか?」コルネリアが怪訝な顔をしている。


「何もやってない」


 しばらく待っていると、突然ざわつきが大きくなった。チラと見ると、その理由がよくわかった。


 きちんとした身なりの男ががマヌエラを連れて出てきた。顔に巻いていた布は外していて、美しい顔がさらけ出されていた。羽織っている灰色の服には細かな刺繍がはいっていて、朝とは違ったすこし圧倒されるような印象を受けた。


「あれ、ギルドマスターだよ」アリソンがそういった。ここに来てもうすぐ一ヶ月だけど初めて見た。


 マヌエラは俺のそばまで近づいてきてにっこり笑った。


「ニコラ、今日会うのは二度目じゃの。仕事を頼みたいんじゃが」


 俺は眉をひそめた。


「朝の詫びがまだだぞ」殺そうとした上に、びしょ濡れのまま放置しやがって。


 俺がそう言うとギルドマスターや周りにいた冒険者の顔が青ざめた。


「おまっ、マヌエラ様になんてことを!!」ギルドマスターは慌てて俺に言った。


 マヌエラは彼を制した。


「よい。頼み事をしているのはこっちじゃ。少し話がしたいのじゃがよいかの?」


 俺が悩んでいるとギルドマスターが言った。


「アリソン。君にもすこし関係する話だ」


「私ですか?」アリソンはぎょっとして言った。


 なんだろう面倒事は嫌なんだけど。


「話聞くよ」もやもやするのもいやだ。


 俺たちはギルドの一室に通された。10人くらいが会議を出来る広さの部屋で長い机が置かれていた。俺とアリソン、コルネリアが隣同士に座り、向かいにマヌエラとギルドマスターが座った。


 部屋の隅には二人の騎士が立っていて、机の上には布で包まれた俺の頭くらいの大きさがある丸い石のような物が置いてあった。


「それで話って?」


 俺が尋ねるとギルドマスターが口を開いた。


「キーゼの村にグリフォンがいたのを君たちは知ってるか? アリソンはよく知っているだろう」


「……知ってます」アリソンは顔をしかめた。


 ジェイソンが追い払ったと言っていたあのグリフォンか。


「ジェイソンのパーティが実力を示すために、一年前勝手に襲ったあのグリフォンだ。それでジェイソンたちは降格になり、大量の雑用をやらされたが、懲りずにまたBランクに戻って迷惑をかけてるな。そろそろ手を打つ必要がある」ギルドマスターはため息をついた。


「それで、そのグリフォンがどうしたんです?」俺が尋ねるとマヌエラが答えた。


「グリフォンはそのとき怪我をしたのじゃ。棲家にじっとして動かずにいたようじゃな。そこにドラゴンが現れた」


 確かに村長がそんなことを言ってたな。


「ドラゴンは自分の卵をグリフォンに渡した。ドラゴン本人に会ったときにそう言っておった。いわゆる托卵じゃな。その卵があれじゃ」


 マヌエラは机に置かれていた石を指差した。あれ卵だったのか。


 というかドラゴンに知り合いがいるのか、このエルフ。


 ドラゴンが托卵するのは知っていた。確か、魔力の強い魔物に托卵することで、卵のうちに魔物から魔力を吸収させ、より強い種に成長させるため、だったはず。水属性の魔物に托卵すれば水の、火属性の魔物に托卵すれば火の属性を手に入れられる。


 マヌエラは続けた。


「托卵は普通、された側にはメリットがないんじゃが、ドラゴンは違う。卵は魔力を吸い取るが、代わりに傷を癒やす効果があるのじゃ。まあ、卵を捨てられないための工夫じゃな」


「だからグリフォンに卵を……。おもしろい」アリソンは頷いてそう言った。


「幸いグリフォンの傷は治ったようじゃ。だが、卵を抱え続けていると魔力が相当減ってしまう。一年もちびちびと魔力を吸われ続けておるからな。今は棲家の周辺くらいなら行動できるみたいじゃが、だいぶ衰弱しておる。そこで妾が、ドラゴンに『代わりに魔力を与えといてくんね?』と言われたのでわざわざここに来たんじゃ。見返りもたんまりもらったしの」


 ふっふっふとマヌエラは笑った。


 なんだかだんだん話が見えてきた気がする。


「そこで本題じゃ」マヌエラは言った。「妾とともに卵に魔力を与えてくれんかの、ニコラ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る