第8話 魔法の練習をしよう
宿で目を覚ますと俺はベッドから体を起こした。
ああ、なんて快適な目覚め。頭痛もなければ倦怠感もない。
ベッドから出ると昨日買った革の鎧に着替えて、すぐに階下に降りていった。宿の受付にある時計を見るとまだ5時だった。こんな時間に目を覚ましたのは初めてで、テンション爆上がり状態で俺は外に出た。
太陽がまだ完全に昇っていないのか、空は明るかったが街の中は影になっていた。街はもう起きる準備をしていて、煙突から煙が出ていたり、店の準備をする人がちらほら見えたりしていた。
俺は準備体操をすると街の外に向かった。
昨日からやりたいことがあったのだ。
魔法の練習だ。
サーバントと契約できない俺が冒険者としてやっていくにはある程度力が必要だ。サーバントに匹敵するくらいの力が。
それに今までできなかったことは何でもやってみたかった。
門番のおっさんに挨拶をして街の外に出ると、周りになにもない場所で立ち止まった。
ここらへんなら何しても大丈夫だろう。
昨日レッドグリズリーをぶん投げてしまったように、加減を間違うとどうなるかわからなかったし、建物を壊して弁償とか絶対出来なかったので一応外に出てきた。
大きく息を吸い込んだ。今までカタリナとはろくにアビリティを使えなかったから、魔法をつかえるなんてワクワクしていた。
まずは《身体強化》からやってみよう。
昨日はレッドグリズリーを一時間くらい運び続けたけれど全然問題なかったから持久面はだいたいわかってる。知りたいのは最大出力だ。
昨日と同じように全身に温かいものが流れるような感覚をイメージする。
まずは軽く魔力を流して、ジャンプしてみた。
「うお!」
軽く跳んだのに俺の身長くらいなら軽く越えられるくらい跳んでしまった。
「……どうしよう」
これ以上高いジャンプをすると落ちたときが怖いんだけど。
俺は少し考えて思い出した。
そうだ。確か《身体強化》の発展で《闘気》というのがあって、切りつけられても傷がつかないようになるとなにかで読んだ記憶がある。衝撃にも強くなるとかで高いところから落ちても平気だったはずだ。
ただ、どうやるのかさっぱりわからない。
しばらく体に魔力を流してみたが、衝撃に強くなっている気がまるでしない。
なにかコツが必要みたいだ。知ってる人に聞いてみることにしよう。
次は水の魔法だ。
カタリナを使って水玉を作ったことはあったが、自分ではまだやったことがない。
俺は集中して、空中に水玉が浮かんでいるようなイメージをしてみた。
だが、
「全然でてこない!!」
手を伸ばしたり変なポーズをとってみたり、色々したけど全然ダメだ。
そもそも魔力を外に押し出す方法がわからない。《身体強化》のように体の中に魔力を巡らせて強化する、というのであれば温かいものを流してやれば良いのだけど、体の外と考えた瞬間分からなくなってしまう。
だって俺の体以外の場所が温かいとか感じ取れるわけがない!!
かろうじて手の先やら手のひらやらが暖かくなるところまではできるがそこから先、空間に魔力を飛び出させるということが出来ない。
もしかしたら《闘気》も同じように体の外側に魔力を持ってこないとダメなのかもしれない。
「コルネリア、《雷撃盾》を作るときってどうやってるの?」アリソンたちとギルドで合流すると俺はすぐに尋ねた。
「どうって言われてもな……」コルネリアは少し唸ってからいった。「出ろーって感じだな」
全然参考にならない。
俺は腕を組んで言った。
「《身体強化》は出来るんだ。なんとなくサーバントがアビリティをつかった感覚に似てたから。でも外側に魔力が出ない」
アリソンはしばらく考えると言った。
「私達がアビリティを訓練したときはね、《身体強化》のあとに《感覚強化》をやったの。《感覚強化》は《探知》の前段階で音とか空気の動きを強く感じるようになれるのね。私はあんまり剣術とかうまくなかったし宿罪――魔力も多くなかったから、《感覚強化》を重点的にやって、攻撃を避ける訓練をしてたの。それをやってたら《雷撃盾》が出せるようになったかな」
コルネリアも頷いていた。
「《感覚強化》って最初は体の表面に近いところに魔力を集めるんだが、それだけじゃ十分じゃなくてな。音とか空気の動きとかを探知するのにもっと外側に魔力を集める必要があったんだ。強化した感覚を頼りにして更に外側、更に外側ってやっていったな。そこのところは《身体強化》の温かい魔力を感覚で集めるのといっしょだな」
俺は少し驚いてコルネリアに尋ねた。
「サーバントって契約者の感覚わかるの? 熱いとか冷たいとか、こんな音がするとか」
「私はわかる。盾になってアリソンの魔力をつかうときにな。アリソンもそうだろ?」
アリソンは頷いた。
「うん。コルネリアが魔法を使ってる感覚がわかるし、私も少しは制御できる」
そうなんだ。カタリナは全くわかっていなかったからびっくりした。
絆の深さや練度が関係してるんだろうか?
ただ、サーバントの感覚がわかるというのは理解できた。カタリナとアビリティを使っていたとき、アリソンの言うように魔法を使っている感覚はわかっていたし、制御もほとんど俺がやっていたから。
「ありがとう。それをヒントにやってみるよ」
俺たちは掲示板の前に向かった。俺はEランクで、アリソンはDランクなので受けられる依頼は限られていた。
よくよくEランクの依頼を見てみると引っ越しの手伝いやら、迷い犬の捜索ばかりで、戦闘が含まれるのはDランク以上のようだった。と言って、Dランクも戦闘を含みはするが雑用であることに変わりはない。
「ニコラの魔力を使って、水のアビリティ使う練習がやりたい」コルネリアはそう言った。
俺も早く魔法がつかえるようになりたい。現状の俺は《身体強化》しか出来ない足手まといなので、戦闘が含まれる依頼の場合アリソンにひっついていくしかない。
「お、これなんかいいじゃん」コルネリアがそう言って指差したのはラバータートルの討伐依頼だった。
甲羅が耐火性のゴムで出来ていて剣なんか通さないし、電気も火も通さない。その性質から防具なんかの素材によく使われるようだ。
攻撃しようとするとすぐに甲羅に閉じこもってしまい、貝のように密閉するので簡単には倒せない。
水に沈めると呼吸するために首を伸ばすので、露出した柔らかい部分を切るのが基本的な討伐方法らしい。
「嫌!! 絶対嫌!!」アリソンは大きく首を横に振った。あまりにも拒絶するので俺はびっくりした。
「なんで? ただの亀でしょ?」他の魔物に比べたら簡単そうなんだけど。
「こいつすんごい力で噛むんだよ!? 電気も通さないから追い払えないし!! 私小さい頃、電気通さないの知らなくて、追い払おうとして指噛みちぎられそうになったことあるの!」
アリソンは右手の人差指を擦るようにしてそういった。
「子ガメだっただろ。そんな力ない」コルネリアは「大げさだな」とアリソンをみた。
「あのときコルネリアも慌ててたでしょ!?」
コルネリアは黙った。慌ててたらしい。
「でも水のアビリティがあれば倒せるんでしょ? 練習にいい機会じゃないの?」俺はそう言った。
アリソンは下唇を噛んで、それからため息をついた。
「わかった……」
俺たちはそのDランクの依頼を受けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます