第2話

 彼女の血液が、流れ込み、彼女の悲しみも流れ込みました。

 彼女が、ナースになった理由。

 彼を看病するためでした。

 彼の病気は深刻で、彼女の力は届きません。

 今もこの病院に、眠り続ける彼。

 原因不明の病に侵されている彼。

 彼女の中に、涙と孤独が、積み重なっていきます。

 彼女の心は、緩やかなスピードで、壊れていきました。

 彼女は、感情を失っていきます。

 冷静な理由。

 見つかりました。

 彼女自身は、気づいていません。


 彼氏の病室訪ねてみました。

 病室には、僕の仲良し、死神さん。

 助かる見込み、無いとの事です。

 若いのにと、ため息をつく、死神さん。

 いつも優しい死神さん。

 

 吸血鬼に、献血は止めましょう。

 悲しみが、直接入って来ます。

 壊れた心が、僕の胸を締め付けます。

 孤独が、僕の心にナイフを突き立てます。

 献血美人へのお礼。

 壊れた心を修理しましょう。

 吸血鬼は、義理堅いのです。


 さっそく、お友達のルシフェル君に、電話してみました。

 ルシフェル君。

 僕の幼なじみ。

 子供の頃の昆虫採集。

 真夏の暑い一日。

 僕は、虫カゴ、昆虫図鑑。

 ルシフェル君は、捕虫網。

 ふたりで、毎日、森に遊びに行きました。

 懐かしいあの頃。


「その人の壊れた心を元に戻すには、もう一度、恋愛パーツを組み込みしかない」


「では、僕が彼氏の代わりに…」


「君は、人間ではないので、無理」


 僕は、吸血鬼でした。

 彼女は、人間。

 献血には、御用心。

 それは、吸血鬼を恋に落とす魔法。

 僕は、彼女に恋をしたようです。

 人間ではない僕。


「どうしよう?」


 ルシフェル君は、言いました。


「そこから、山を越えた所に、銀の矢がある。それを彼女が、君の胸に突き立てれば、君は、人間になれる」


「なるほど、ありがとう。では、さっそく」


「待ちたまえ。彼女が君を愛していなければ、世界から君は消える」


「大丈夫。僕は、元々、地獄の住人。君の友達。家に帰るだけ」


「残念ながら、僕たちは、人間ではない。永遠の存在、魂なんて持っていない。君の存在は、消える。僕の記憶からも、君の父さん、母さんの記憶からも。文字通り消える」


 僕の存在は、消えるそうです。

 ウブな恋する吸血鬼。

 失恋には、耐えられそうに、ありません。

 消えた方が、良いですね。

 そうしましょう。


 その夜は、満月。

 探しものには、ちょうど良く、僕は、フワフワ山越えします。


 山を越えると、ルシフェル君。

 僕を待ってて、くれました。


「お久しぶりだね。ルシフェル君」


 僕の親友、ルシフェル君。

 いつになく、心配そうな顔。


「銀の矢は、止めたまえ。あれは、危険過ぎる。心が壊れるほどの恋した彼女。きっと彼を忘れられない。それだけで、君は消える」

 

「僕が、消えるのなら、彼女の首に噛み付いて、彼の思い出を全て持って消えようと思う。そこから、彼女の新しい人生を始めれば良いのだから」


 吸血鬼は、義理堅い。

 悪魔のプリンス、ルシフェル君。

 もちろん、ご承知しています。

 

「止める事は、出来そうもない。まったく吸血鬼は、損な役回りだな」


 

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