第二二話 母なる検地
《前回までのあらすじ》
気持ちいい〜
そんな風にパチンコ屋の裏で思ってたら、スマホが震えだした。
紫陽花からだった。
『もしもし、今どこにいらっしゃるのですか?』
声はいつも通りだったが、どこか焦りが感じられる声だった。
「パチンコ」
『……とにかく速く帰ってきなさい』
ドスがたくさん混じっていた。
そして雑に切られた。
「やばいな急いで帰らないといけない」
「じゃな」
「じゃ、また会いましょうね」
未だに動かない牧田を見る。
「はい。また……あ、牧田には家に帰ったと伝えといてください」
「おっけー」
時永さんは丸を指で作ってくれていた。
とりあえず桐野邸に到着して扉を開けてみるが、別に誰かが急いで現れるわけでもないので、損したかもしれない、と思えてしまった。
まぁ桔梗さんがもうすぐ帰ってくるのは事実なので、しばらくここでまた暇を持て余さないといけないのだろう。
「相変わらず古臭い家だ」
聞き覚えのある男にしては甲高い声が聞こえたので振り向くと、そこには見覚えのある顔がいた。
「バカ牧田、不法侵入だろ!」
しかし悪びれる様子もなく、彼はバレリーナみたいに身を回転させて言った。
「だって〜僕は〜置いてかれたんだもん〜しょうがない」
言い終わると同時に止まった。
片足を上げてそのまんま止まっている。その体幹に拍手はしたが済ませていいわけではない。
「なんだよ忘れもんでもしたか?俺」
「いいや」
「じゃあなんで」
「暇なのさ。金もないしね」
「女の子とでも遊びに行けよ。おごってくれるだろ」
「君といる時間の方が大切なのさ❤︎」
「ここ吐くところだよな」
「もっと喜べ」
「なんで?」
「暇なんだろう?すいません後どんくらいかかります?」
奴はちょうど久しぶりに現れた召使いの人に聞いた。
図々しい!
「二時間ほど」
「暇だねぇ」
「……認めますよ!お前がいてくれてよかった!」
「よろしい」
奴はすごく鼻息を出した。
「かといって何するんだ」
この家はまぁまぁ広い。ので何があるのか俺は全く知らない。
遊び道具の有無もだ。
人が来ているのに、この有様だよ!
なのでトランプくらいしかないと言ったら。
「ふぅん、僕にトランプ。昔王侯貴族の遊びだったトランプを。庶民がよく言うぜ!」
腹立ったのでケツをひっぱたいたら「あぁん❤︎」と嬌声を上げたのでもう着いていけなくなった。
なのでどんどんおかしくなっていった。
にらめっこしても顔を逸らされ勝負にならず。
腕相撲もさっさと負けられるので勝負にならなかった。
「どうすんだおい馬鹿野郎」
「そんなこと僕に言うな!」
「仕方ない、探すか」
「遊び道具を?」
「そうだ。いや何があるのか知らんけど」
「そりゃいい!この家の探検にもなる!」
「あーなるほど」
ということで桐野邸大探検、となったのだ。
「見てこれ!裸婦画だ!」
「そんなもんばっか目ざとく!」
とりあえず色んな倉庫みたいな部屋をあさくるものの。
見つかるのは貴重そうな骨董品、本だらけ。
暇つぶしに使うには少し恐れ多い。
「そうだ!この壷でRPGごっこやろうぜ!」
「叩き割るぞ!お前を!」
「そう怒んなって。ん?」
そう言うと牧田がそこら辺の壁の前で身を屈める。
「どうした?」
「いや、なんか戸がある」
「何?」
俺も屈んでみると、確かにそこには小さな戸があった。
というか屈めるだけでも、骨董品に気をつけるためひどく不安定な状態で調べないといけない。
「開けてみよう」
牧田が開けると、中はごちゃごちゃしていて、しかも薄暗く何があるのかわかりづらかった。
「なんだこれは……全く……」
そう言いつつ奴は手を突っ込んで調べ始めた。
一人分しか手が入らないくらい狭い穴だったので、とりあえず眺めておくことにした。
どうしても目が牧田のケツにいってしまう。
すごい美貌をお持ちであるのは確かなのだが、下半身はやたらムチムチしている。
現に動く度にケツが少しずつ揺れていく。
試しに触ってみた。
「ひゃっ?」
素っ頓狂な声を上げられる。別に膝枕を強制されたことがあるので、これくらいいいのかなと思っている所存だ。
指が沈み込むくらいには柔らかかった。おっぱいの感想みたいだ。
「女みたいなケツだ」
「〜!おい君ッ!」
身体を震わせながら立とうとしたので、奴の足を引いてみた。
「わっ」
これで奴は壁に手をあて、それで無理矢理下に倒れないように踏ん張っている形になる。
「おい!速く周りのものをどけろ!立てない!」
「やだ」
「何で!」
「いつもの仕返しさ」
「この野郎!」
「さっきひっぱたいたろ」
「ッ!それは……その……」
試しに再びケツをひっぱたく。
「あっ❤︎」
さっきからおかしいくらい気持ちよさそうな声である。喜んでいるのか?
だが俺も柔らかい物を弾ませる感覚は心地よかったので、何回か連続でたたいてみた。
「あっ、あっ、だめっ、そこっ、ああっ!」
「俺は何をしているのだろう」
「こっちの台詞だ!ばかぁ!」
妙にヒロインみたいな言い方の『ばかぁ』だった。
気が済んだので足を押してやる。
これで安定した姿勢になった。
「……」
逆に微動だにしなくなったので、ガチで殺されるかと思った。
臨戦態勢をとる。
「……もういいのかい?」
「……何が?」
悔しそうな顔をしながら振り返ってきた。
「触れよ!もっと!」
「えぇ?」
そしてなぜか、隣の和室でうつぶせで寝ころんだ奴のケツを馬乗りになって揉みしだく、というおかしなことになった。
だが提案されて従うくらい奴のケツが気持ちいい感触なのは確かだ。
さすがに俺も数少ない友人がみんなゲイだったからか、ちょっとは耐性ができたらしい。
幸せを感じる。幸せとは多分こういう感触だろう。
「これ」
そう言って奴が写真の束を見せてくる。
「なんだよそれ」
「さっき掴んだ。見てみろよ」
揉みながら片手で写真を落としながら確認していく。
古い写真だった。黄色く変色している。
もしかしたら桐野家の先祖の写真かもしれない。
だが見覚えのある一つ結びの少女……のような少年を見て何かがわかった。
「笹由さんの写真だ!」
身体全体を動かしてしまった。
「んっ!」
なんかすごい叫んだので手を見てみると、結構穴の瀬戸際まで指が行ってしまっていた。
「ごめん」
「……いいんだ。気にせず揉め」
やたら優しい気がする。気のせいかな。
どんどん見ていく。
すると、微笑ましい写真が出てきた。
少年は、あどけなさを残しながらも袴姿でできる限り堂々としようとそこに立っている。
一方女性は、もう既に成熟した身体を、逆に着物で完全に隠しきっていた。少年よりも背が高く、しかし柔和に威圧感を与えずたたずんでいた。
笹由さんと桔梗さんの、若い頃である。
桔梗さんは、全く姿が代わっていなかった。
写真の日付を見ると、二十年前だった。
「変わらないなぁ」
牧田にも見せる。
「なんだこのいかがわしい写真」
「それはそう」
そして写真を再び繰る。
またしても変わらない写真が出てきた。
今度は桔梗さん一人だ。だが周りの背景が古びすぎている。
横文字の読み方が逆だ。スピルカと看板に書いてある。
そうだ大正だ。まぁそういう景色が偶然残っていたのだろう。
先ほどよりもシンプルな着物だが、それが逆に色気を引き出しているような気がしてきた。
一応日付を確認。
百年前だった。
ん?
百年?
自然と口が開く。
牧田に見せた。
奴も口を大きく開けてみせた。
そのとき突風が飛んできた。
牧田から引っ剥がされる。
しかも前から襖が飛んできた。
牧田が叫び声を上げる。
とっさに真横にけっ飛ばして助かった。
すると、前に風で髪を揺らし続ける人影が見えた。
「見ちゃったわね、貴方たち」
そこにいたのは、妖艶な目つきに妖艶な肉体、そして妖艶な声で確かに怒る妖艶な女性……。
桐野桔梗だった。
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