第二一話 魔?不動モード

 《前回までのあらすじ》

 なんか最終回みたいだ。


 「朝ですよ!起きなさい!」

 そう紫陽花に言われて飛び起きたものの、しかしおかしい。

 今日は土曜日のはずだ。

 だから紫陽花と笹由さんは稽古で朝からいないはずなのだ。

 というかなによりこいつはそんな人間ではない。

 最大限自分も好き勝手やるから他の人間の好き勝手も許す、という人種だ。

 それが人に強制する?

 なんだかおかしい。

 「どうしたんだよいきなり」

 「いいから早く起きて!朝食も急いでとってください!」

 よく見ると、普段は真っ白な寝巻き用の着物で朝は大体いるはずなのに、もう既に、お見合いの時のような豪華な模様の着物を着込んでいる。

 時間を確認してみる。

 まだ六時だった。


 そんで急いで顔を沈めるような勢いで洗われ、流し込まれるように朝食を終えたが、しかし紫陽花は忙しく走り回り、笹由さんに至っては姿が見えない。

 仕方なくブラブラしてたら、休日のことを聞いた召使いの人を見つけた。

 優男だがガタイがいい。

 「……なんか今日あるんすか?」

 「……桔梗様が、お帰りになられるのです」

 「それだけ!」

 「……いえ……その……紫陽花様は、桔梗様に対して、そのですね……」

 「……なにが?」

 「その……おそr」

 

 その瞬間、紫陽花が召使いさんの首根っこを掴んだ。

 「何をしている。今すぐ準備に戻れ」

 「はい……」

 「俺は何すりゃいいんだよ!」

 「時間になるまで遊んどいてください」

 そういうと彼女は掴んだまま奥の部屋に戻っていった。

 結局わかんなかったな。


 仕方がないので外で暇をつぶすことになった。

 割とでかい、和式の正門を開ける。


 「やぁ」

 

 ……そこにいたのは、見覚えのあるニヤケ面の銀髪。

 ニット帽にパーカー、下にジーンズなんか着込んでいる。

 壁にもたれ掛かっているあたり……知っていたのか?それとも偶然か?

 多分前者。

 「牧田」

 「ついに追放かい」

 「んなわけあるか。暇をつぶさないといけないんだよ」

 「ふーん、じゃあ一緒につぶそうか」

 「お前めっちゃ暇人だな……」

 「失礼な。目的があって待ってたのさ、暇つぶしの目的が、ね」

 「本末転倒じゃね」


 「ほらほらこっちこっち」

 手をつながれて引っ張られる。

 男同士でいいのかと思うがしかし俺はあんな経験を背負った男だ、別にスキンシップにとやかく言うつもりはない。

 辺りを見てみるとだんだんたばこの吸い殻とか、ワンカップの瓶とかが散見された。

 確実に雰囲気が引き締まっている。

 大丈夫か?いや本当に。


 「着いたよ」

 でかい立体駐車場みたいな見た目をしているが、車が停められるようには見えない。

 看板を見てみる。

 ハッピースロット、と書いてある。

 それ以外にも、やたら駐車場が広かったり、牛丼屋がくっついたりしている。

 

 「……パチンコじゃねーか!」

 

 「にしてはポーズも取らず直立している」

 「こないだもっとひどいとこに行ったからな」

 「え?どんなとこ?」

 こいつに言うとろくなことにならないとわかっていたので、無視することにした。

 「……ケチ!」

 「……で?どうすんの?行くの?」

 「あっ……あぁ!勿論!」

 「なんで冷や汗かいてんだよ、行くなら行くぞ」

 「あっ……危ない!危ないぞ!」

 内股気味であった。足がやはり女子みたいにムチムチしている。気にするようになってしまった俺もアッチに足を踏み入れている気せんでもない。


 入り口近くに来ると、なにやら人が並んでいた。だが今は七時、そんなに多くない。

 「そ……そう!このようにここで整理券を受け取るんだ!うん!」

 「じゃあ早く来いよ。今少ないんだから」

 「まっ、待ってくれよ〜」

 腕を捕まれた。

 それも両腕で片腕を。

 「……なんでそうなる」

 「あっ……あー……これは……」

 顔を真っ赤にして目玉がきょろきょろ回転する。

 匂いがやたらいいことに気が付いた。

 なんだか本当に女の子みたいに見えてきた。

 俺がおかしいのでしょうか。

 

 やがて店員が現れ、整理券を配り始めた。

 「何番だった?僕15」

 「俺22」

 「はははははは!ははは……」

 腰に手をやりながら顔はうつむいていた。

 「勝ち誇るか残念そうにするか、どっちかにしろ!」

 

 店内に入ると、やはりうるさい。

 とりあえず台を選ぶ。

 しかしどれを選んだらいいのか、素人目には全くわからない。どんなのがいいのだろう。

 適当に目に付いた『CRガチ墜ちお嬢様学園Ⅲ〜華麗なる没落〜』を選んでみた。いくらなんでもひどいとしか言えない。

 とりあえず千円を入れてみる。

 なんかゲームが始まる。

 『ヒロインを選んでね!』

 そう言われるもみんな同じ顔だし、胸の大きさも似通っていたのでさっぱりわからなかった。

 仕方ないので声が好きだった子にした。

 『君は僕のものだよ……』

 服装が男っぽいところから、王子様系らしかった。確かに背が高く顔も中性的だ。当然胸はない。そこはしゃあない。

 なんか選んだヒロインとデートをする、という形らしい。それで当たりが出る度イベントという名の抽選が起こる、らしい。

 とりあえず右手のレバーで左に打ち続ける。なんかそういうものらしい。

 しばらく玉が出ては悲しく落ちていくのを眺めていたが、やがて当たりに入り演出が始まった。

 『ごめん、ちょっと来てくれるかい?』

 なんかそう難しい顔で声をかけられるところからアニメーションが始まった。作画がいいので見てて面白い。

 なんか男子トイレに行った。そんで個室に入った。

 『その……ズボンが破れてしまって……』

 確かにそう言って見せる尻は大分でかかった。

 『直して……くれるかい?』

 直すのか……脱がずにそのまま直せと言うのか……。

 スロットが回る。

 両端の『5』が揃う。そして中央で焦らされる、というわけだ。

 なんか光がビカビカ激しくなってくる。

 ちょっと画面から離れた。

 そして……3……4……5!

 5?

 するとなんかタイトルを模したフィギュアがどこかから降りてきて、しかも画面と一緒に虹色に輝く!

 眠気が吹っ飛ぶ!

 気持ちいい〜!

 『ガチ墜ちモード突入!』

 右にしろと言われ右打ちに変える。

 なんかとりあえずいっぱい打たなきゃいけない雰囲気になっているので、とりあえず打ちまくらないといけない。二枚目の千円札を投入する。

 やがてモードが終了した。

 続くか続かないかがあったが、しかしはずれてしまった。

 「やっぱ駄目なのかな、これはずれたら」

 「そうだよ兄ちゃん」

 「あっどうも」

 謎のジャージ姿の横のオッサンに言われる。

 「当たりってのは続けるもんなんだよ」

 「へ〜」

 「それだけで満足しちゃあ駄目!」

 「あざす」

 とりあえず打ち続ける。

 途中なぜだか店員さんが台を撫でてきたりしたが。

 まぁ順調、といった感じか。

 

 しばらく経ったか、後ろから尋常じゃないくらい暗いオーラが感じられたので振り返ってみると。

 牧田が死んだ顔でそこにいた。

 「……くなった……」

 「どうした?」

 「五万スった……」

 「え?逆にもうないの?」

 「本家がそういう意向で」

 「教育的だ」

 「で、今何打ってんの?」

 「え?なんか知らないやつ」

 『君だけだよ……本当の僕を見せられるのは……』

 画面の王子様系は言う。なんだろうか。男装しているのを知っているのは主人公だけとか、そんな感じか。

 「ひゃっ?」

 「どうしたよ」

 「いや……その……あの……」

 『……僕から……お願いしてもいい……?君と……ずっと一生にいたい!』

 告白された。

 あくまで俺は数時間だけどな、と思いながら打ち続ける。

 牧田は顔をまたしても真っ赤にしていた。

 「ねぇ……そのさ……台……変えない?」

 「なんでだよ」

 「いやー……えーっと……」

 『男みたいな僕だけど……いいかな?』

 「わぁぁぁぁぁぁ!黙れ!」

 「どうした本当に……」

 

 そのとき。


 気がついてはいなかったが。


 当たりが十回連続で出ていた。

 

 「おっ兄ちゃんついてるねぇ〜」

 「いやー……なんだこれ……逆に怖いぞ……」

 「変えようって!」

 すると、肩をトントンされたので振り返ってみた。

 女性だ。背丈は普通。

 紫色の髪をポニーテールにしている。かなりつり目だが、なんか笑っているように見える目だった。

 ……思い出した!さっきの撫でてきた店員だ!

 「……貴方ですか?」

 「……それはどうでしょう」

 「え?なに?どういうこと?」

 よく見ると目が……ウサギのように真っ赤だった。人間の瞳ではない。

 「すいません、ちょっと外いいですか」

 「ええ」

 「え?」

 「兄ちゃん良いのかい」


 外に出る。

 換金所からさらに離れたところで向かい合う。

 「蛇神!」

 呼んでも出てこない。

 試しに影に腕をつっこんでみる。しかし俺が手をいれても地面に手がぶつかるだけだった。

 そしたら自分で出てきた。

 「なんじゃなんじゃ……ハッ!」

 驚愕しているようだった。

 「お久しぶりね」

 「おぉ……時雨露命……」

 「今は、時永野貴腐って呼んで頂戴」

 「え?何その名前?てか知り合い?」

 牧田は割と困惑していた。

 「こいつはわしの姉妹みたいなもんじゃ」

 「へ〜」

 「時間と運命を操れるんじゃ」

 「じゃあお前は」

 「……できるんじゃ!本当は!色々!」

 「ふふふ」

 「なんかすごいことになってきたな」

 牧田はフレーメン現象を起こしていた。

 「……で、なんであんなことを?」

 「呼ぶついでに驚かそうと思って」

 「相変わらずじゃの」

 「あの……すいません」

 脳裏に浮かんだ、昨日の記憶。

 「あの……昨日か一昨日この街に来たとかは……」

 「昨日なら、私もすごい体が興奮状態になったよ。てか私半年からいるよ」

 「あらら」

 「違うのか!」

 「うん。……あれは『魔』だね」

 「魔?」

 「妖怪とか、悪魔とか、そんな類の者共じゃな。最近はもう地下とかにいるはずなんじゃが」

 「私たちは魔に対して強く反応するんだ。だから昨日もあんなことになったんだと思う」

 「そうなんだ」

 「それにあれだけ潜在能力を引き出してくるんだから、多分大分強大な……」

 「むぅ……」

 「魔……か……」

 割と恐ろしい。

 牧田が微動だにしないのも、また恐ろしい。  


 

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