第二十話 虹は出ているか?
《前回までのあらすじ》
即オチ?
「行かねばならないとこがあるんじゃが」
そう日曜日の朝、朝食中に言われた。
でも俺は昨日の地獄で疲弊していたので、できれば動きたくはなかった。
「どんくらい行かないとまずいんだよ」
「レンタルビデオ一ヶ月延滞したくらい」
「死活問題だろ!」
ということで。
急いで向かうことになったのだ。
そして着いたのは。
崩れかけの階段。
色が剥げかけた鳥居。
そう……蛇神の神社である。
「あれからどんくらい経った?」
「三週間ほどじゃ」
経ったとも言えるしそうでもないと言える。
彼女は普通に隣にいる。そうしないと困る。
「そんくらいなんじゃん」
「本来は一週間も空けてられん」
「じゃあ今どういうことなんだよ」
「それは……その……」
途端に恥ずかしそうにし始めた。
「……力が弱すぎて感知されないとか?」
「アーーーーーーーーーーーッ!」
途端に地面にうずくまって転がり始めた。
「……で?なんで空けてられないんだよ」
「……神社の、ご神体の中にある」
そう転がり回っていた中急に止まって言う。
いきなり冷静になるな。
ということで階段を上り社のもとまで向かう。
「そこじゃない」
こけそうになった。
「じゃあどこにあるんだよ」
「そこ」
そう右にある林を指さした。
「前のアレはダミーだってのか」
「そうじゃな。加工写真みたいなもんじゃ」
「え」
ということは。
本物は。
「うわ」
「よかった無事じゃった」
本物はどうだったのかというと。
林をどんどん進んでいった奥深くに古びた倉がある。
倉と言っても形がそれっぽいだけだ。
そんなに大きくない。
問題はその中である。
中にあったのは、壺をひっくり返しその中から触手や肉片をだらんと垂らしたような見た目をした、確実に触れてはいけなさそうな何かだった。
「……で、これがどう大切なんだ」
「これは簡単に言うとわしの心臓じゃ」
「じゃあお前今心臓ないのか」
「そういうわけでもない」
「じゃどういうことだ」
「これはわしの魂を入れる器のようなもんでな、わしのこの肉体が死ぬと魂がここにくる。そしてしばらく経つと復活させてくれる」
「へー、でも忘れられたら死ぬんじゃねぇの」
「その際はこれも消滅する。ただ普通に生きている状態でわしがもし!死んでしまったとき、これは保険として重要なんじゃ」
「ふーん」
「あと……同族に反応してくれる」
「……神様ってことか」
「まぁ大体はな」
「やっぱり、危険なのか」
「この『壺』を飲み込んで自分のものにしてしまう、という輩が珍しくない」
「じゃなんでこんな期間空けてたんだよ」
「わしらは数が少ない。全体で二百いるかいないくらいじゃ。じゃから滅多にない。万が一、という感じじゃな」
「へー」
「それはそれとしてなんじゃが」
「梅干しないか」
「なんで?」
試しにバッグをあさくる。
なぜかあった。酸っぱすぎて途中しかまでしか食えなかったやつだ。
「あるけど」
「助かる」
彼女はそれを口に含み、途端に口を梅干しを食ったときのすぼんだ顔になった。
「……そろそろか」
そう言うと彼女は壺の口の舌に回り、すっぽりそれに埋まる形になった状態で、唾を吐いた。
「きたねぇぞ」
「こうせんと『壺』が所有者を忘れてしまうんじゃ。最大期間は一ヶ月」
「……なるほど」
延滞も表現として合っていたわけだ。
どうでもいいけど。
「それじゃ帰るか」
「そうだな」
その瞬間、壺が大きく揺れ始めた。
中にいる彼女が巻き込まれて転ぶ。
俺はとっとと転んだ彼女を引っ張り出した。
「何が起こってんだ!」
「……同族じゃ!それも強大な!」
「えぇ!」
「これは警戒した方がいいかもしれん……」
そういって倉を出て、鍵を閉める。
「今までしてなかったのか……」
「そんくらい人いなかったんで……」
悲しい顔をしていたので撫でておいた。
満更でもなさそうだった。
そして林を進んでいくのだが。
滴が頭を濡らす。
それは徐々に感覚を狭めていく……雨である。
結構なレベルで、雨粒を痛いと感じた。
急いでダミーの社まで、彼女の手をつないで全力疾走した。
なんとか屋根にたどり着く頃には雨は止んでいた。
おそらく夕立の類だろう、良純を恨んではいけない。
そのとき手に違和感を感じたので横を見てみる。
綺麗な白髪の女性が、そこに立っていた。瞳は切れ長で、真っ赤な瞳孔はは虫類のようで、唇は人間ではないとわかるくらいに真っ青だ。
背丈は俺より少し低いが、しかしその際だったスタイルの良さ。セイラのような派手な肉体ではない、いわゆるボンキュッボンではないが、すべてが人間離れしているように見えた。
歳はギリギリおれと同じくらいだろうか。そう考えてしまうほど大人びている。
しかしここでパツパツで、しかも透けてうっすらいろいろ見えてしまっていることに気づいた。
「蛇神!お前!」
「ん?ん……わぁぁぁぁぁ!」
色気のある声だった。
そんで本人も驚いているようだった。
「まさか力が少し戻るとは……」
「それで少しなんだ……」
「七分の三といった具合かの」
「よかったじゃないか、うん」
「あの強大な力のせいかもしれんな」
「そうだな!危ないな!」
「おい、なんでさっきからそっぽを向いておる」
仕方がないことなのだ。
俺も散々美少女に囲まれていることは承知だ。
だがしかし、実際にこんな色々見えてしまったことはないのだ!
笹由さん?
ロリと変わりない。
「……ふ〜ん、へ〜え」
「なんだその挑発的な声!」
ちょっと興奮する。
そんくらい天然ASMRだった。
「ほーれほれ、こっち向いてみぃ」
一瞬だけ見た。
着物の胸元を下げていた。
胸の谷間が見えた。
形を嫌でも瞬間記憶する。そこまで大きくはないが、とても綺麗な形をしていた。
「もう見ないからな!」
「じゃあ下いこうかの」
「そこまでいくとアウトだろ!」
「めんどくさいのぉ……」
「絶対見ない!もう絶対見ない!」
ということで俺は座ってうつむくことした。
そして時間が経って着物が乾くのを待つのだ。
どれくらい経っただろうか。
顔を上げてみた。
小さな背中が押し寄せてきた。
また小さくなった彼女が俺の膝に座る形になる。
「どうしたいきなり戻って」
「そんなの簡単じゃよ。まぁ今の全開はあれじゃがな」
「……で、なんで乗る必要があるんだ」
「……よく考えたら、お前とこんな風にくっついたことがない気がしてな」
「あー」
「しとかないとまずいだろうと」
「少しもまずかねぇよ」
「…………お前の温もりを、感じたかったのかもしれん」
「なんだお前らしくもない」
「お前がいなければ死んでいたし、今みたいにお前のおこぼれで美味いもの食わせてもらうこともなかった。感謝している」
「いや……そんな、別に俺は……」
「わかっておる。わしも最初は食おうとしか思ってなかったからの。でもじゃからこそ、今しておきたい」
「なんでさ」
「奇跡というものの温もりを、感じたいんじゃ」
「……そっかぁ……」
奇跡。
偶然とも言える。
あの春休みの頃から、偶然の連続だ。
ある意味そういう運命なのではとも思えるが。
でもそのおかげで色んなこと、色んな人に出会えたのは良いことだ。
なんか最終回みたいだ。
「俺も、お前がいないと何もできなかったよ。……ありがとうな、いつも」
「そんな言う必要はない。わしらはもう生命的にも切っても切れないからの」
「そうだな!」
「でもの」
「下膨らませて言うことないじゃろう」
「すいません」
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