第十三話 時計仕掛けのシンイチ
《前回までのあらすじ》
ほっそいよわよわお指だよ❤︎
「まずい!おい!真一!」
蛇神は遂に影の中から出てきた。
真一を押さえつけようとするも、しかし彼の力は彼女が太刀打ちできるようなものではない。
屈伸しオリーブオイルに濡れる指を見せつける、牧田光の元に全速力で向かうだけであった。
「来たぁ❤︎」
彼女の指が吸い込まれるようにに彼の口に消える。
「あはっ❤︎ダメだって噛んじゃ❤︎」
「貴様!何が目的なんじゃ!」
「簡単なこと……彼をこのまま僕の虜にする」
「そんなことできるわけ……」
「でも彼を見てみなよ?この顔、僕にとろけきっている……」
どちらかというと無言でカニにむしゃぶりついてるときの顔だった。
「無理じゃ!お前ごときに今の真一は制御できん!」
「……うるさいなぁ、愛を否定して楽しい?」
「どこが愛じゃ!愛欲だけでつながる関係を一概に愛とは言えん!」
牧田光は、大分ショックを受けたような顔をした。
「何が……何が間違っているんだ!勉強したのに!」
「そんな簡単に学べるようなものでもない!お前のやっているのは美人局と同じじゃ!そんな獣のような関係性で、愛がすぐ生まれるわけないじゃろう!」
「……うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさい!お前ごときに否定されてたまるか!これが……これこそが愛なんだ!こうやって結ばれるんだ!」
でも割と盛大に真一は指を噛んだ。
「いっ……!」
「それでもそれを愛と呼ぶのか?真一はただの獲物としか思っておらんぞ。いずれ噛みちぎられる、今すぐそこをどけ」
「……クソッ……」
「貴方たち、何をしてらっしゃるの……?」
全員が後ろを向いた。
そこにいたのは金髪縦ロールの立派な体躯を持つ女……聖護院セイラであった。
いてもたってもいられずに、権力を使って抜け出させてもらっていたのだ。
それも取り巻きを危険にさらしたくもなく知られたくもなく……よって一人で。
「なんでそんなはしたない水着を着てらっしゃるの……?それになんでそんな子供なのにこんなところに……?」
「……チッ面倒な!」
光は無理矢理引き剥がして逃げようとした。
しかしスッポンのように今の真一は獲物を逃がしはしない。
「離れろッ!離れてくれッ!」
「やはり……本当でしたのね……」
「聖護院セイラ!」
蛇神は彼女に向かって叫んだ。
「な……何でわたくしの名前を?」
「こやつはこの女の所為で暴走し指をしゃぶることしか考えられんくなっとる!」
「それはわかってますわ!」
「この女のことはいいから、桐野紫陽花を呼んでこい!」
「桐野……紫陽花を?やはりご主人様は……」
実のところ。
一目惚れの衝撃が強すぎたのか、真一が何を喋っていたのか、紫陽花との関係性はどうなのかとか、そういったことは全て覚えていなかった。
しかし、紫陽花と妙に距離が近いこと、教室に入ってくるタイミングが同じであることは気づいていた。
最悪のシナリオだと思っていた。
でもそれはやはり現実だった。
「紫陽花の双子の兄弟ッ……!」
「「いやいやちがうちがう」」
光と蛇神がシンクロしてしまった瞬間だった。
「じゃあなんなんですの!」
「みーつけた」
空から声が降ってくる。
そして同時に。
着物姿の小さな影も。
「遂にストックまで用意するようになるとは」
「あッ……紫陽花!」
「ん?……聖護院。帰れ」
「ははははは!どうやら真一くんにとっては地獄の状況だ!」
気のせいかもしれないが。
真一の眉は下がっていた。
「ぬぅぅぅぅ……」
蛇神は考えた。
もう後戻りできるような状態ではない。
しかし真一を元に戻せるかも分からない。さらに広まってしまった悪名をどう取り消せるかも分からない。
どうすればいいのか?
蛇神はさらに考えた。
……すると、頭の中にはある映画が浮かんだ。
犯罪者を人間形成から変え、真人間にしてしまうという映画である。
真一なら『指』に関するものを消すだけで元に戻るだろう。
しかしその策を取るならば、この場の全員の持つ力を使わなければならない。
一か八か。
全員が聞いてくれる方に、蛇神はかけた。
蛇神は影に潜った。
「「えっ」」
紫陽花とセイラは驚きを隠せない。と言うかこの状況に着いていけてない。
そして蛇神は鎖を持って上がってきた。
あの……
それを彼に向かって投げた。
無論大蛇鎖の機能は『人に向かって投げると自動的に捕縛する』ものである。
なので当然と言うべきか……真一は勿論、光も巻き添えに見事に捕らえられてしまった。
「なっ……なんですの……これ……」
「何してるんですか!潰しますよ!」
「おい!ふざけるな!解け!」
「……黙れ小娘共!こやつは今正気を失っとる!じゃから元に戻さないといけん!紫陽花!とっととこいつを押さえ込め!」
「ほーん」
「頼む!」
そういうと瞬時にその場から移動し、大蛇鎖の上からさらに固め技をかけた。
「……確実に何もかもおかしな話ですものね、そしたら、貴方を信じることしかできやしませんもの」
「よし!セイラ!お前は何でもを持ち込める個室を用意しろ!移動手段もじゃ!」
「……わかりましたわ……そうするしかありません。手配します」
「ねぇ、この下品な身の程知らずはどうするんです?」
「同時にその解決法にかける」
「やっ……やめろ!僕に何をする気だ!」
「すごく簡単なことじゃ。……それともここで殺してもいいんじゃがのう」
「なっ……」
「元はといえば全部お主の所為じゃ。責任をとってから罰にかけられるか、ここで死ぬか。選べ」
「殺すんなら私日本刀持ってますよ。一度も切ったことがないんです」
「……その通りなら、わたくしも首を絞めて殺すくらいはできますわ」
「……仕方ない。呑もうじゃないか。責任ってなんだい?」
「今すぐわしら以外の事件に関わった人間の記憶を消去しろ」
「チッ……わかった。電話を貸してもらおう」
「いや駄目じゃ。番号を教えろ。かけるときお前の口から言ってもらうが、少しでも反抗しようものならその瞬間首を切り落としてもらい携帯もわしの道具で溶かす。いいな」
「……」
彼女にとってこの上ない屈辱であった。
番号を発し、そして入力する。
「お嬢様!」
「作戦は失敗だ!今すぐ一般市民の記憶消去に当たれ!」
「お嬢様は!それに他の……」
「僕は一人で大丈夫だ!他もいい!」
「しかし……」
「ほっとけ!」
「はっ」
電話は乱暴に切られた。
「よし。殺すのはなしじゃ」
「よかったですね。私一人だったら今頃細切れでしたよ」
「わたくしだって、セメントに沈めるくらいは致しますわ」
「クソッ……」
車の急ブレーキ音が聞こえる。
「……着いたようです」
「よし。さっさと取りかかるぞ」
着いたのは、殺風景なコンクリの一室である。
防音性が高く、本来はバンドの練習などに使われる。
相変わらず二人は捕縛されたままだ。
真一も獣のように吠えているままだし、光も悔しさで顔を真っ赤にしている。
「連れてきましたが、どうするんです?おちびさん」
「こいつらに、指の映像を延々見せる」
「それでどうしておさまるんですの?」
「そのときに瞼を強制的に開け、さらに目薬を同時に延々と足し続ける。さらに同時に吐き気や倦怠感をもたらす丸薬も飲んでおいてもらう。その苦しみと『指』というものがシンクロし、目が覚めるという寸法じゃ」
「……なるほど」
「ほぼ拷問ですね。まぁ真一さんなら大丈夫でしょう」
「しかし……」
「よし、プロジェクターを用意しろ!紫陽花とわしはこいつらに器具の装着と投薬をする!」
「……わかりましたわ!」
「グルルルルルル……」
真一は相変わらず獣のように唸っている。少し弱っているまである。
「おお、お労しいわが夫……すぐに直して差し上げますからね」
そして光は、どこか怯えたような表情を見せていた。もはや怒りでどうこうできる状況でないことを嫌でも理解させられたのだろう。
「……ねぇ……待って!」
「反省……いや記憶は大体飛ぶか。お前もさっさとイチからやり直せ。わしがペンで書いといてやろう。ほれ『恋は日々の積み重ねから』とな」
「準備できましたわ!」
「よし出るぞ。後は三日くらい待てば元に戻る。桐野家に戻ってくるじゃろう」
「賢い旦那でよかったです」
「待て!待て!おい!ふざけるな!僕に!この僕にぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
扉は音を立てて、治療は開始させられた。
三人は外で向かい合う形になる。
「……で、私は帰っていいんですよね?」
「ああ。待っておけ」
「それでは」
紫陽花はセイラを見た。
その自分を見つめる、どこか疑わしいような、敵対心をむき出しにしたような目。
「……何が言いたいんです?」
「何も言いませんわ」
「そう」
紫陽花はそう言い残して去っていった。
「セイラ」
「なんですの……?そもそも貴方はなぜご主人様を……」
「全部お前に話そうと思う」
「え……何を……?」
「桐野真一の全てを……」
「な……何ですって⁈」
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