第十二話 吸って吸われて 骨抜いて
《前回までのあらすじ》
チ●コに見えた。
桐野笹由は桐野真一の寝ている姿を見守っていた。
自分の義理の息子といえる者が道ばたでぶっ倒れており、それを娘が発見し、そのまま病院に運ばれていたのだ。
だが以上がないことが判明し、家に連れ帰ったのだった。
(紫陽花から話を聞くと、まさか学校を抜け出していたとは……)
しかし笹由は大分骨抜きにされている状態なので。
(何か事情があったのだろう。もっと話を聞いてやらねば……)
彼のことを信じ切っていた。
しかし彼は。
桐野真一は。
いきなり目を覚まし、飛び起きた。
「なっ!」
笹由もさすがに動揺した。
その起きる様は……まるで人間のようではなかったのだから。
下半身だけで跳び、そしてまるで威嚇する犬のような体制をとった。
目は彼のものでないように血走り。
口からは涎を垂らし続けていた。
「フーッ……フーッ……」
「す……鈴木真一……?」
その瞬間、彼はまるで桐野真一でないような身のこなしで笹由に接近した。
「なっ!」
笹由が反応できなかった。
まるでその瞬時に不規則に、獲物に向かって移動する動作。
獣のようであった。
そして彼は……。
笹由の指をしゃぶり始めた。
「!やめろすず……あっ……らめ」
よく見るとしゃぶっているだけでない。
舌も絡め……相手も気持ちよくなるようにしている。
「……ククク……」
「……気は……あん……確かか?」
「味変といこうか」
笹由は性転換させられた。
「ああっ無理だったあん」
「ヒヒヒ……ヒャーハハハハ……」
やがて彼は両手をしゃぶりつくし、笹由を放った。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
笹由は快感で動けなかった。
しかし舌なめずりをした彼は元の寝室へ向かう。
そこには、眠る紫陽花の姿があった。
「……ッ!やめろ貴様!紫陽花だけは……」
「聞こえねぇなぁ」
「やめろーーーーーーーーーッ!」
紫陽花の手を毛布の下から引っ張り出し、舐め始めた。
「ククク、さすがは腐ってもお嬢さん、いい味してるぜ」
「……ああ、なんてことを……」
「んっ……んっ……」
紫陽花も眠りながら感じているようだった。
やがて同じように両手をしゃぶりつくし。
倒れた笹由の元まで戻ってきた。
「ククク……じゃあな」
「……何処へ……行くつもりだ……」
「外さ」
「おい……おい待て!……行くな!」
「ヒャーハッハッハ……」
高笑いを上げながら、獣のように俊敏な動きで彼は窓から出て行った……。
「……ということが深夜ございました」
「そう……」
一方朝、牧田光は今住んでいるタワーマンションの一室で、部下である警備員から、深夜の一部始終を聞いていた。
「うんうん。これでいい。これでこそ、彼は僕の相手に相応しい……」
「……にしても大丈夫なのですか?自分を相手に襲わせ、それで責任を負わせるにしてもお身体が……」
「僕を誰だと思ってるのさ。安心しなよ。守り抜いて粘り勝つさ」
(今日は休みですのね……)
そう聖護院セイラは、朝取り巻きたちに囲まれながら不思議がっていた。
ご主人様……桐野真一が見あたらないのである。
それににっくき桐野紫陽花も見あたらず。
さらに取り巻きの一人である一橋麻耶も見あたらなかった。
「一橋さんは?」
「いや……何も聞いておりませんわ」
「……何かあったのかしら」
すると次の瞬間。
「んっ……ふぅ……おぉ……」
足を内股気味に、さらに震えさせながら、ポニーテールの取り巻き……一橋麻耶は現れた。
「ッ!一橋さん」
「はぁっ……はぁっ……」
倒れかけたので、駆け寄ってセイラが支える。
「何が……何がありましたの?」
麻耶の目には屈辱の涙がこぼれそうになっていた。
「……あの男……」
「あの男?」
「悪鬼に等しいあの……桐野真一です!奴に……奴に登校中指をしゃぶられ……不覚にも……うぅぅ……絶頂させられたのですわ!」
「な……なんですって……あの方が……?」
彼女も無意識に、膝から崩れ落ちてしまっていた。
(……ここにもいませんか……)
桐野紫陽花は『家庭の事情』と称し学校を欠席していた。
理由は、自らの許嫁が暴走し、失踪したからである。
朝起きたら少女が寝ころびながら目の前で痙攣していた。
それだけでもおかしいのに、自分の父親だと名乗り始めたのだ。
しかし母親のほくろの位置を問うと正しい答えを出したので、信用することにした。
理由を聞くと昨日いきなり許嫁が暴れ始め、父の指をしゃぶりつくしたのだという。
やけに冷や汗を流していたので理由を脅して聞き出すと自分もそうされたという。寝たままで。
内心嬉しかったが。
しかし暴走した彼をそのままにはしておけない。
十分強い笹由をこうまで追い込むのだ、一般人に被害をもたらそうものなら甚大なことになるだろう。
彼女は捕まえることにした。
桐野家の家名のために。
そして、次は起きたままでするよう言うために……。
しかし街中に出ても一向に彼は姿を現さなかった。
一体彼は何故こうも、自分のような強者にも感知できないのか?
ストレスがたまった彼女は路地裏のゴミ箱を蹴り、凹ませていた。
一体そんな桐野真一はどうしているのか?というと。
事実、紫陽花のすぐ近くの建物の屋根にいた。
しかし彼女の臭いをその覚醒した嗅覚で感じ取り、彼女に見つかる一歩前で方向転換していたのだ。
現在の彼は、限りなく野生に近い。
普段の冷静な、ある種何もかもを諦めていくような思考をかなぐり捨て。
目の前の自分の性欲を刺激するものに向かって五感と身体能力を用いて飛びかかる。
今の彼こそが、本来の姿なのかもしれない。
しかし彼の影は冷静である。
無論、蛇神のことである。
彼女は焦っていた。
あの男。
牧田光。
まさかここまで彼を錯乱させられる存在がいるとは思いもしなかった。
やはり昨日の時点で持っているアイテムでどうにかしておくべきだった、と後悔するしかない。
しかし起こってしまったものはしょうがない。
止めることを一番に考えなければならない……が。
彼女は弱体化している。
影の中だと全力の半分とはあるが、しかし彼女は本来の力を完全に取り戻しているわけではない。
未だ完全ではない。後数ヶ月はかかる。
なのでアイテムでどうにかできるか?となると身体能力がそもそもついて行かない。そもそもアイテムを当てることさえ不可能だ。
そのため彼女は協力者を得る必要があった……生憎周りには自分以上の人外が何人がいるものの、しかしここでネックになるものも存在していた。
移動距離。
十キロの間。
それを離れるとどうなるか?というと、言うならば影から引き剥がされ、一定期間中に入ることができなくなる。
それは自分自身にとっても大問題である。
今のままだと外で存在できるのは二週間ほど。
一定期間はランダムだ。三日くらいの時もあれば数ヶ月の時もある。
彼から離れた場合、彼が十キロより外に出ないか?と言われるとそれは不明瞭、危険が伴う。
彼女も緊迫の状態にあった。
再び桐野真一は下に降りる。既に何人か歯牙にかけた。追いかけてきた警官もかけた。
しかし彼の欲は留まるところを知らない。
裏路地を獣のように四足歩行していたところ、前からコートを羽織った銀髪の女が現れた。
ロングヘアーにサングラスをかけていて、詳しい目元はわからない。
だが蛇神は彼女の正体を見破っていた。
そして女はいきなりコートを開いて見せた。
白のマイクロビキニ。
乳房はほとんどない。だが均整の取れた美しい肉体をしているのは確かである。
割と尻が大きいのか、パンツ部分は食い込みが激しかった。
そしてその下部から……はっきりとわかることがあった。
「……牧田光ッ!貴様……女だったのか!道理で!」
「蛇神ちゃん!おはよう!いい朝だね!そんなことが簡単にわかっちゃうくらいにはさ!」
「貴様のせいでこやつは……」
「フーッ……フーッ……」
「ね……真一くん……これを見ててね……」
そう言うと彼女は瓶を取り出した。中に金色の液体が入っている。
そして封を開け、口に咥える。それを、両手にかけ始めた。
強烈な香りが辺りに立ちこめる。
「……これは……オリーブオイル!」
「ほうら来て❤︎君だけのほっそい、よわよわお指だよ❤︎」
……両手を広げた彼女は、誘うような表情でそう言った。
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