第十話 白く!可憐な!お友達!
《前回までのあらすじ》
大将!
「桐野くん!」
「どうしたいきなり」
教室に入った途端に藤崎が飛んできた。
「生徒会長が!変わった!」
「いや変わらなきゃおかしいだろ」
「そうなんだけど」
「そうなんだけど?」
「月曜日に先代を罷免して、そんで火曜日に組織を作り直して、そして今日」
「公表したと?別にどうでもいいわ」
「いや……でもそれを行ったのが……」
「行ったのが?」
「一年生のあの主席の!牧田光なんだ!」
「へー……」
「いや、やばいと思わない?」
牧田光については覚えている。
あの銀髪。そして美貌。
唯一関わってない中で名前を覚えている白樺の人間だろう。
しかし第一印象が強いだけだ。
「まぁ、すごいなー、とは」
「大ニュースだよ?」
「そんなこといったら俺がモーニングスター買って、今バッグに入れてるってのが大ニュースだよ」
「え、やりそう」
「何でだよ」
そして終礼となった。
「今日どっか寄らない?」
藤崎が誘ってきた。
「あー、いいけど」
すると放送のチャイムが鳴った。
『生徒会からのお知らせです、桐野真一、桐野真一、至急生徒会室まで来るように』
「えぇ?」
「……待っとく?」
「あぁ、すぐ戻る」
「爆竹でも投げ込んだの?」
「誰がんなこと!見た目で判断したろ!」
「アンタが言うか」
アンタって言われた。
まぁいい。
二階から四階の生徒会室へ階段を上る中で、スマホにメールが届く。
セイラだった。
『私が黙らせましょうか?』とあったが。
『すごくどうでもいい話だったら、俺が小物になる。それでいいのか?』と返しておいた。
『すみません、考えが至らず申し訳ございません私は……』
と長文のお詫びメールが届いたが無視しておいた。
四階に着くと、紫陽花が仁王立ちしていた。
「潰しますか」
「いやいやいや……」
「貴方に罪を背負わせ、貴方はおろか桐野家を愚弄する行為です!」
「とにかく会ってみないとなにもわからんだろ」
「しかし……」
「先帰ってろ」
「くぅ……」
表情を変えず、頬を膨らませながら降りていった。
さて。
何が目的なんだろうな。
生徒会室は他の教室と比較しても立派なドアと広さを誇っていた。
とりあえずノックしてみる。
「入りたまえ」
そう声が聞こえた。
自信満々な、気取った声だった。
開けると、中心のでかい机に偉そうに座る男がいた。
銀髪に美貌、よく見ると目も碧眼だった。白樺の白ランがよく似合う。
さらにそこに生徒会長の証?である学帽を被っていた。
牧田光。
さらにその隣には複数人の男女……生徒会役員共か。
「さて……何で呼ばれたかわかるかな?」
「爆竹でも投げたんすか」
「その通り。これを見てくれ」
モニターが天井から降りてきた。
電源がついて監視カメラの映像が流れる。
深夜。
俺っぽい後ろ姿の男子生徒が、爆竹らしきものに火をつけて。
『ヒャッハー!火祭りに上げてやるぜぇ!』
とかいって生徒会室のドアを開けて中に放った。
「……ひどいものだな。君自身もそう思わないか?」
「……ほんとにひどいよ⁈俺個人のイメージに対して」
するとガタイのいい役員が叫んだ。
「しらばっくれるな!」
「しらばっくれもへったくれもねぇよ⁈」
「まぁまぁ。彼は社会的な倫理観を持ち合わせていないんだ。僕が説得するよ」
「おい」
「しかし……」
「任せておきなって。みんな退出してー!」
みんなぞろぞろ出て行った。
「……今のはフェイクさ」
「知ってるよ!」
「先生から許可を得るために必要だったんだ。後でその辺の子悪党におっかぶらせるさ」
「……なんで俺を呼んだ?」
「……なんでだと思う?」
ニヤニヤしてくる。
「えぇ……知らねーよ」
「そこの影の中の君はどう思うー?」
……は?
影の中、だと?
「わかんないみたいだね。じゃあ」
「奴隷の権力にものを言わせてみる?」
……奴隷?
おい、おいおいおい……。
「まーそんなことしなくても……」
「許嫁と変態の親子だったら力ずくで解決しちゃうか!」
……親子!
……なんで、なんでコイツ……。
俺の秘密を知っている?
「まぁそんな驚かないでよ。すごく簡単なんだ」
「…………」
沈黙。
だがしかし、その行為に意味はない。
「そんな目で見るなよ!君の『屈服』の障害になるかもしれないんだぜ?」
「……証拠は?」
「いけずぅ」
そう言って奴は写真とスマホを見せてきた。
ショッピングモールではしゃぐ着物姿の幼女と俺。
ホテルの最上階で向かい合っている金髪縦ロールと俺。
金物屋で刀を振り回す女と俺。
そして夜間のベンチで確実に淫行している着物姿の少女と俺の動画。
あの五日間の日々のもの。
……裏目に出た、というのか。
……いやそれはそれとして。
「なんでそれだけ動画なんだよ!ハメ撮りみたいなもんだろうが!」
「どう?不十分かい?」
「いや……納得するしかない」
「じゃ、答え合わせと行こうか」
「……聞いてやろうじゃねぇの」
「まず、君は大金持ちといえば聖護院家を思い浮かべるはずだ」
「まぁ」
「だがあれはいわゆる真の『財閥』ではない」
「なんでだよ」
「真の財閥とは、解体されたものでもなく、あのように権力を見せびらかすものでもない!真の財閥とは!『見えない』ものなんだ!」
「見えないの?」
「そう!真に世界を知る人間は『裏財閥』というが……まず、裏財閥の大きな特徴は名前を隠しているということだ。実際にはグループ企業よりも深くつながっているのに名前は無関係のようになっている」
「大丈夫?それ」
「危ないねぇ危ないねぇ。だが悲しいことに、裏財閥は政治家は勿論警察や官公庁にも深い深い関係を持つ!財力が巨大すぎて逆らえもしないのさ!」
「ヒエッ……」
「そして!それに準じてこの社会の至る所にその息のかかった人間が存在している!君のその秘密も、全部筒抜けってことさ!」
「ヤダァ!」
「そして最後に!僕もあくまでここだと航空会社の息子にすぎない。よって何か調べようとしても聖護院からすると虫けら感覚で終わるだろうよ。桐野は……あの女は興味ないもんね」
「八方塞がりってことかい」
「その通り」
思った以上にでかい。
でもでもでも。
「……結局何が目的なんだよ」
「ここからが本題だ。君は僕に秘密をほじくり出されて弄ばれた」
「陥没乳首みたいに言うな」
「……で、ここで僕も君に秘密を言おうと思う」
「……ん?おかしくない?」
「僕の乳首、同年代の男子に比べて桜色なんだ。見る?」
「ねぇ誰が見るの?」
「これで君は僕の秘密を知ってしまった!」
「お隣さんの不倫くらい興味ねぇわ」
「これで僕たちは秘密を共有してしまった」
「……はい、そうなるね」
「なので僕たちは友人だ!」
「は?」
「友人だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「友達になるからって『!』を百個並べるんじゃねぇ!」
「駄目なのかい?駄目なら君の口座をブラックリストに載せるけど」
「さらっとひどいこと言うな!……てか友達くらいなら普通になるよ」
「……そういうと思ってた」
一瞬、すごく普通の声になった。
安堵したような。納得したような。
「……そう言いますね」
「僕らは今日から友人だ」
手を差し出してきた。
「わかったよ」
手を掴む。
随分と細い指だった。美男子は何から何まで細いのだろうか。ナニも?
「また明日会おう!」
そういって優雅に手を振られて教室を後にした。
「……おい」
影からすごく低い声が響いてきた。
「今すぐ、あいつを、ぶんなぐれ」
「できてもしねぇし、こっちから何かしちまったらどうにもなんねぇんだぞ?相手としては紫陽花よりも強い」
「なーーーーんであんな奴から目をつけられたんじゃ」
「知らね。あそこまで上にいくと気まぐれで何もかもやるんじゃないの?『ソドムの市』みたいなもんだ」
「……今日下ネタ多くないか」
「……ソドムの市は自己責任だから大丈夫」
「それトラップじゃからよりタチ悪いじゃろ」
「ほんとだ」
☆
校門前で華奢な男子生徒と合流する友人を、牧田光は生徒会室から眺めていた。
「ふぅーっ……」
彼は壁に手をつき、うなだれる形になる。
危なかった。
あらかじめ道中に部下を置いておいたが。
例の二人はちゃんと現れた。
なんとか抑えられたものの、危なかった。
がしかしなんやかんやで、あの二人を巻ける生徒会長になった甲斐があったというものだった。
彼を呼びつけられる権力、だがあの二人にマークされるほど大きくもない。
彼と関係を持つにはベストだろう。
生徒会長になるのも大変であった。牧田とつながっていない堅物教師……佐々木先生が障害だった。
だが踏ん張って踏ん張って、ようやく一日で罷免を完遂したのだ。
彼はその態度とは裏腹に、十分な努力を行った。
あの態度も、おそらくそれの裏返しなのだろう。
桐野真一も、それに見合う人間であったのだから。
あそこまで権力を説明しても、冷静であったことに、彼は安堵していた。
「……やっぱり、おもしろい……」
そう浮かべた笑みは、どこか彼に対する愛おしさに満ちていた。
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