第九話 ダンサー・イン・ザ・プラトー2
《前回までのあらすじ》
……割と広いな。
前回に引き続き、ダイジェストで五日間を振り返っていこうと思う。今回は三日目からである。
月曜日。
藤崎はいつも通りしおらしく、セイラは前の方でいつも通り堂々とし取り巻きに囲まれていた。
しかし時々こちらを見てくるのも相変わらず。
そんな中紫陽花はなんか背中で語っていた。解読できないのでよしとする。
「よーしお前ら席に着け」
なんかやたら綺麗な先生が入ってきた。
ストレートの綺麗な黒髪に高い鼻、そして鋭い目つき。スタイルもモデル並だった。
「藤崎、誰?あれ」
「担任の佐々木だよ、忘れたの?」
「お前先生呼び捨てなのな」
「そっち?」
俺の生活に関係あるかといったらそんな関係ない気がした。
なのでそれ以降の一日通した授業は、ほぼほぼ記憶にない。一概の高校生としてひどすぎる気がしなくもない。
問題は放課後である。
スマホを確認してみるとやたら丁寧な、それなりの長さのメールが届いていた。
無論例の奴隷。
趣旨はこうだ。
『本日チョーカーのお礼をしたいので駅前のホテルの最上階に来てくれませんか』とのこと。
面倒だとは思った。
だが人の頼みを断れるような人間でもないので、笹由さんに門限を破ることについてメールを送ると。
『明日、外に連れ出してくれるならいい』
とのことだった。
相手はアラサーのおっさんである。しかし考えたら負けだ。
そして駅前のでっかいホテルに着く。
確か三十階建てじゃなかったか。
最上階まで上がってみると黒服のおっさんとドレスに身を包んだセイラがいた。
「お待ちしておりました、ご主人様」
「さっさと案内しろ」
「こちらに」
奥には一席、それも二人しか座れないであろうテーブルだけがあった。さらにその奥には一面ガラス張りの壁があり、そこから夜景が一望できた。
しかしここは一応仙台である。数百万の夜景になるんだろうか。
「座ればいいんだな」
「はい」
そうすると料理が運ばれてきた。皿の中心にちょっとだけ緑の葉物野菜が盛られ、鮮やかな色のソースがかかっている。
……フレンチ。
お高い料理だ!
こちょこちょ出てくる奴!
彼女はひたすらこちらを愛おしそうな表情で見つめてくる。
とりあえず食べる。
ほろ苦い。タンポポの葉はフレンチでよく使われるらしくそんな味らしい。これもそうなのか?春だし。ソースも複雑な味がして美味しい。
だが落ち着く味ではない。
彼女が首元をやたら触る。
あのときのチョーカーを、未だにつけていた。
「おい、首のそれ」
「えぇ……あの日以来いかなる時も外さず付けております」
「奴隷としての心づもりがわかってきたようだな」
「はい……本当に」
それからも料理が出続けていたが、味は覚えていない。
やはり身が入らないと、食事は味がしないものらしい。
しかし彼女の優雅に食べる様と、その自分に向けてくれた愛だけは帰っても忘れはしなかった。
愛にだけは、身の丈は存在しないで欲しい。
そして火曜日。
「あの、最近全く二人で行動を共にしていないと思うのですが」
遂に朝、紫陽花から登校中つっこまれた。
「朝こうしているからいいだろ」
「足りませんよ!私たちは夫婦なのですよ?もっと時間を共有せねばなりません!よって今日放課後共にしていただけないのなら、斬ります」
「斬るのか……」
「いいですね!」
……この日ばかりは骨が折れそうな気分で日中の通常授業をやり切っていた。
そして放課後。
校門まで行くと、既に紫陽花がいた。
「ふふ、約束、守っていただけましたね」
「そりゃあね」
よく見ると口角があからさまに上がっていた。
こいつもう無表情キャラやめた方がいいのでは。いや人格的に。
そして彼女の凄まじい力で引っ張られた先にあったのは、金物屋だった。
「……何で?」
「探し物がありまして」
店内にはいるとショーケースが辺りに並び、大小様々なナイフやハサミ、モーニングスターやボウガンまで置いてあった。すごい品ぞろえだ。
「大将」
「桐野家の嬢ちゃんか」
なんか厳ついおっさんが奥から出てきた。
「いいのあるか?」
「ああ。ちょっと待ってろ」
大将は奥にまた消えていった。
「欲しいものあったら言ってくださいね」
「えぇ……?」
そうすると影からそこのやたら刃の部分が長いハサミ、と小声で言われたので、モーニングスターと一緒に買ってもらった。
そして大将が刀を持って出てきた。
「業物だ。そこまで有名な奴が作ったもんじゃねぇが、出来は珠玉だぜ」
「ふぅ〜む」
受け取って鞘から抜いて観察する紫陽花。
「……買った!」
「よし!」
よくわからない、というのが一番の感想だ。
そして深夜。
「おっ❤︎……おほっ❤︎……」
俺は星空の下、公園のベンチで笹由さんを慰めていた。
本人がそれを望んだのだが、ほぼほぼ変態の所行な気がする。
だが身体を張ってもらったのだ。それくらいならお安いご用、というやつだ。
「本当に大丈夫なんですか?」
「私も鍛え上げている。あの程度で動けなくなるような人間ではない……おほ❤︎」
笹由さんは紫陽花の着物を無断で着ている。それを濡らし、はだかせている。実父なのに。
「……本当、変態ですねぇ……」
「お前が……あぁん❤︎……こうしたんだぞ……❤︎」
「責任はとりますよ」
「それでこそ❤︎……おほぉ❤︎……私が認めた男だ……❤︎」
この人も、十分に美少女である。
なので少女の姿のまま言われると惚れそうになる。
しかし、簡単に惚れてはならない。
よくよく考えると、女の子に囲まれた生活を送っていることにようやく気づいた。
これは紫陽花のせいなのか?
それとも俺が自分で引き寄せたのか?
どっちなんだ?
それはそれとして満月は二人を照らしていた。
さて、そんなこんなで五日間を終えたが。
その翌日、俺は運命は忘れた頃に音を立てて動き出すのだと、実感することになる。
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