第八話  ダンサー・イン・ザ・プラトー

 《前回までのあらすじ》

 私は……貴方の奴隷です……!


 色々あって、俺はどっと疲れていた。

 なので相も変わらず、桐野家の便所でうなだれていた。

 「見事な敗北じゃったのう」

 「ああ」

 割と心配しているような声が影から聞こえる。

 「……あの女……ちとはしゃいどるのではないか?」

 確かにそうである。

 奴隷であるかのように振る舞っているが、恋人気分なのが今のセイラの実体である。

 「だがあいつを逃したら自由な人材なんて得られない。桐野家の人材もいるが、あいつに管理されてるみたいなもんだからな」

 「じゃが……別れ際に札束渡してくる奴はほんとにどうなんじゃ」

 「いや……うん……本当に……」

 多分付き合ったことがないのだろう。

 どうやって心をつなぎ止めたらいいかわからないのだ。

 離れもしないのに。

 「……で?次はどうするんじゃ」

 「いや……ひとまず休む」

 「ふぅん……まぁ忙しかったからの」

 実のところこの数日間、主に笹由さんのせいで全く寝れていなかった。

 日中も下校が昼のため寝る時間も三、四時間くらいしか取ることができず、しかも午後はだいたい紫陽花とセイラに振り回されていた。

 多分、俺はやつれきっている。

 屈服は健康な精神と肉体からなるものなので、致し方ないと、言ってもらわないと困る。


 しかし俺が結んでしまった縁は、俺から一方的に千切れるものではなかった。


 ということで本日金曜日から五日間をダイジェストで送っていこうと思う。


 金曜日。

 寝た。

 これまでにないくらい寝た。

 夜九時から土曜の正午まで。

 二度寝三度寝を繰り返し。

 計十六時間。

 

 土曜日。

 正午に起きたせいか、紫陽花も笹由さんもいなかった。

 その辺の召使いの人に聞いてみたところ、二人とも稽古の関係上夜まで戻らないらしい。

 なので土日の門限に関しては自由だと言ってくれた。割と優しいのかもしれない。

 まぁ俺は紫陽花がむりくり作った、それを中止できる権利があるらしいが、疲れているときに怪獣を呼び込むような真似はしない。

 なのでとりあえず召使いの人に適当にお茶漬けを作ってもらってそれで朝食兼昼食とした。

 その後共同の部屋である寝室に戻り、そこでしばらく何も考えずにスマホをいじくっていたりしたが、やたらと影が震えているのに気が付いた。

 「どうした?」

 「いやぁ、その……」

 「言いたいことがあるなら言えよ」

 「……遊びに行きたいなぁ、と思ってての……」

 「……なるほど」

 そういえばコイツに何もしてやれていない。

 いや最初命取られかけたけど。

 それでも世話になっている、というかコイツがいないと屈服に動き出す気も湧きはしなかった。

 「……わかった。じゃあ一番に何がしたいんだよ?」

 「美味いもの食べて、映画見て、温泉に……」

 「多いな。よし行くか」

 「いきなり?」

 思い立ったが即行動、というか時刻は一時であった。

 十分だらだらして外出が遅れてしまった時間帯である。

 しかし俺がそんな外出することに詳しいかと言われたらそんなことは全くない。

 なのでどうしてもショッピングモール止まりになる。

 「なんじゃ!なんじゃここは!」

 だが彼女はあの小さな体躯で、店内をはしゃぎ回るのだった。

 「まずは映画見るか」

 「自分で選べるのか」

 「そりゃそうだろ」

 「スクリーンはひとつしかないものじゃ」

 「今は違うんだよ」

 「何⁈」

 映画館に着く。

 発券機で見れる映画を確認したが、大した映画はなかった。

 軒並み好評を見たことはない作品たち。多分一人の時だったらレンタルビデオに直行していたと思う。

 しかし、相手は久しぶりの人里なのだ。好きにさしてやりたい。

 「この『恋★ファンタジスタ』を見たい」

 「じゃそうするか」

 ということで見てみた。

 滑舌が悪すぎる主演のイケメン。

 棒すぎる読モ出身のヒロイン。

 サッカーを二年以上すると死ぬという奇病を背負った主役の設定。

 やたら演技過剰な歌舞伎俳優演じる悪役。

 最終的に三年やってしまい死にかけたところをキスで直るご都合主義のラスト。

 正直言うと、大爆笑していた。

 暇つぶしに見る映画としてはよくできていた。

 それで問題の蛇神はというと。

 「ひっく……うぅ……ええ話じゃ……」

 号泣していた。

 そしてスタッフロールの後。

 「……映画は静かに見るもんじゃぞ……」

 とその爬虫類みたいな目でにらみつけてきた。

 怖かった。

 その後はタピオカ飲んでスーパー銭湯によって帰った。

 その帰りがけ。

 「……お前女湯いってたんだよな」

 「うむ。楽しかったが」

 「影から離れてたよな?」

 「あぁ、今でいうところのじゅっきろ?くらいはいけるぞ」

 「……割と広いな」

 割と衝撃だった。


 日曜日。

 九時に起きた。

 そしたらスマホに着信履歴があった。

 藤崎だった。


 カラオケボックスにやたら華奢な、少女みたいな少年は既に立っていた。

 「あっ、桐野くん!」

 「待った?」

 「いや?三十分くらい」

 「おいおいおい……」

 

 その後カラオケに行ったりゲーセン行ったりファミレス行ったりしたのだが。

 あまりにも平凡なエピソードぞろいなのでカットさせていただく。

 すまない我が友よ。


 割と長くなりそうなので続く。

 ダイジェストなのに。

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