第三話 マリア様の娘さんがみてる
《前回までのあらすじ》
ドル●バ。
私立白樺高校は桐野邸から徒歩圏内にあった。
端から見ると大学と見間違うほどでかくて歴史のありそうな校舎だ。
でも校門に着くと、やたら校舎までの道が長いことが発覚した。
「遠くね?」
「こういうものなのですよ」
「自転車で来た方がよかったんじゃねぇの」
「私自転車乗れないんです」
「別々でいいじゃん」
「………私が、いやなんです」
「そう………」
何故こんな風に攻めてくるのか。
される側の気持ちになってみたらいいんじゃない?のろけちゃって。
そんなんじゃいつ屈服させられても知らないぜ。
●
そんな二人を後方から見つめる謎の影。
それは少女だった。
金髪である通り、ハーフとみえた。
さらにわかりやすい縦ロールに、わかりやすい大きなリボンを付けている。
傍らには女子を数人連れている。
そして何より、少女にしては背が高かった。
「やはり来ましたのね………桐野紫陽花」
彼女の名は聖護院セイラ。
おそらく、この学校をいずれ支配する女。
聖護院家は南蛮貿易で富を築いた商人から始まった一族だ。
そしてその富を、古今東西様々な金儲けに何百年も費やし、現在では一種の財閥的なコミュニティを持つ形になった。
その大きさは並の名家とは比べものにならない………無論、桐野家とも。
しかし。
「セイラ様、無論………」
「えぇ。完膚無きまでに叩き潰して差し上げますわ」
これまで会ったほとんどの人間を屈服させてきた彼女。
しかし、従わない存在がただ一人だけいた。
それが、桐野紫陽花だったのだ。
★
かれこれ五年ほど前………聖護院家の大きなプロジェクトが見事成功し、そのため大きなお祝いのパーティーが開かれることになった。
建前としては数々のビジネスパートナーへの感謝会として行われた。
しかし実体は、聖護院家のご機嫌取りをする大きな接待のようなものだった。
なぜなら………聖護院セイラ11歳。
彼女の存在が全てを意味していた。
聖護院セイラの父、
そんな中、ようやく生まれたのがセイラである。
無論、ただでさえ可愛がられる存在であるのに、そこに日本でも最大級の財閥聖護院家である。
結果、彼女は生まれながらにして女王であった。
ひとつ例に挙げると、どんな従業員にクビを言い渡してもそれは実行された。聖護院家の権力故でもあるが、それでも彼女のためならどんなことでも一家は行った。
このパーティーも同じ。ビジネスパートナーたちは、何が何でも女王の機嫌を損ねることはあってはいけなかった。
彼らは元々技術が高く、評価も高い。
しかしこのプロジェクトにより、これまでよりも遙かによい業績を当時叩き出していた。
それには聖護院家のバックがあった。
聖護院と聞くだけで、大体の人間は一流企業を想起する。多くのビジネスマンは、そこに転職することを少しでも理想として掲げている。
宣伝としてのバックは十分だった。ほぼ全ての業種を網羅する聖護院家が、わざわざ別に発注するほどの技術。
それはとても大きかった。
しかし、彼らは怯えきっていた。
セイラの機嫌を損ねれば、聖護院との契約は即座に取り消され、さらにマスコミに依頼し評判を地に落とされるのだ。
ならば相手にしなかったらいい?
違った。
彼女は誰にでも挨拶を輝く笑顔でした。
それはその後笑い返さねばならない脅迫だった。
また、それ以外にもおもしろくもない話を笑顔で聞かせようとしたり、水をわざとぶっかけたり。
気まぐれな脅迫は彼らを襲い続けた。
子供になれていない若社長を連れてきてしまった精密機械製作は、その一年後倒産した。
それくらいの、地獄であった。
そんな中パーティーも大詰めとなり、巨大なケーキのタワーが運ばれてきた。
数メートルあるそれは、今日のため三日間かけて作られたものだった。
さらに、蝋燭が11本乗っていた。
無論、彼女の三度目の誕生日ケーキであった。
天井に刺された蝋燭にはしごで近づいていく。
彼女を抱えるのは光人である。だがしかし、様子がおかしかった。なぜだか顔が赤く、汗をかいていた。
そして彼女がさぁ息を吹きかけるとなったとき。
光人が彼女を離してしまった!
実は光人は愛するわが子のことで客人と話していたら、酒が進みに進みベロベロに酔っぱらってしまったのだ!
ちなみに母マリアは全くそんなことなく、その戦慄の状況に驚愕していた。
離されてしまったセイラ、そこでついケーキに手を引っかける。
するとケーキが倒れ込んできた。
はしごも倒される。
親子二人は落下していく!
周りの一同も瞬間のことなので動けない!
そしてはしごが倒れ、ケーキも倒れあたりがクリームにまみれたとき。
彼らの姿はそこになかった。
一同があたりを見回すとーーー親子は無傷で抱えられていた。
しかし周りは驚きの声を上げた。二人を抱え込んでいたのは………セイラと同じようにいたいけな、下手したら彼女より小さい少女であった。
その着物姿の小さな少女こそ、桐野紫陽花11歳であった。
彼女は二人を離すと、そそくさと親の元に戻っていった。
一同の拍手と歓声はまもなく沸き起こった。
さらには、聖護院家の一族の人間まで泣いて喜び始めた。マリアも、光人も、抱き合って喜んだ。
そのすぐに一族一同、桐野家一行の元にすぐさま向かい、そして謝罪した。
しかしその中で、彼女は泣きも笑いもしなかった。
即座に、彼女への礼を言うことを命令されたからだ。
そして仕方なく一礼すると、彼女の母は言葉をかけてくれたものの、父と本人は全く意にも介していなかった。
ここで何かが決壊した。
あの女は。
自分が受けるべき歓声を浴び拍手を浴び。
身内にをさせた。
そして………自分に頭を下げさせた。
許さない。
絶対に。
その後彼女は気まぐれな脅迫をきっぱり辞め、勉学・スポーツ・芸術・礼儀作法などの自己鍛錬に打ち込んでいく。
理由は簡単………あの小さな女を屈服させるため。
それひとつで、ほぼ五年間の鍛錬を続けていた。
そして、今。
彼女の目的は果たされようとしていた。
★●
なんだか後ろにお嬢様の気配を感じる!
気のせいだろうか。
「ごきげんよう、桐野さん」
なんかお嬢様っぽい口調のが後ろから来る!
しかも何人もの足音が付いてきている!
怖いから振り返らんとこ。
でもさっさと前に回り込まれた!
目の前にお嬢様が現れた。タッパがでかい。いやほんとにでかい。俺と同じかそれより少しある。
それにでっかい縦ロールを二つ!でっかいリボンを間に一つ!
いや、こんなん現実にいるもんなんだなぁ。
すると、やたらとそのお嬢様、顔を青ざめ始めた。
●
この小説も三話目となったが、しかしまだ説明されてないことがある。
それは我らが主人公………桐野真一の容姿である。
じゃあどんなものなのか?と言われると。
回り込んだセイラが恐怖で怯え出すレヴェルである。
まず彼の容姿で目を引くのは目だろう。まるでトカゲのように冷たい瞳。全てのものをゴミと見てそうな目つきである。
そして口。彼は驚異的なサメ歯だった。口を開けただけで鋭い刃がびっしり並んでいるようにしか見えなかった。さらに口も大きかった。
最後に髪。ひどく縮れており、それがダウナーな雰囲気を醸し出す。
確実に、悪役としか言えない面。
ただ厳つい面ならいいものを、蛇のような不気味さも漂わせてしまっていた。
総評すると。
彼はCV岡本●彦顔だったのである!
●
やたら目の前のお嬢様が怯えているので可愛そうになってきた。
「………大丈夫?アンタ顔やばいよ?」
お嬢様はへたれこんだ。
「おっ………お、お、お、お黙りなさいまし!」
「引くなよそんなに!何?俺の顔になんか付いてんの?」
「………こ、来ないで、来ないで………」
俺はわけわかんないのでとりあえず迫る。
「あぁ?どうしたっつってんだよ!」
白目剥いちゃった。
そんで泡も吹いちゃった。
「………相変わらず、情けない………」
「知り合い?」
「そんなところでしょうか………」
「ふーん」
「あ、あなた方、なんてことを!」
後ろから女の子たちの嘆きが聞こえる。
「その方は、この日本を掌握しているも当然の、聖護院家の後継者、セイラ様ですわ!」
「へー」
「なんですの!その気の抜けた返事!」
「関係ねぇよ。俺はもう決めてんだよ、忠誠誓うおうちはな」
「………悪鬼………!」
悪鬼だなんだか知らないが………。
道長いから、さっさと行かせて?
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