014 軽く相談。脱出。王都へ
なので、レィオが気遣わなくていいようにソファにそっと体を休めたのだが、同じソファに座らなかったのは気恥ずかしさからだったのだろうか? それとも嫌われ――?
考えかけてレィオはやめておいた。気にしても心が疲弊するというか明確にダメージ喰って終わるのは知れたこと。あと王女殿下が隣に座るなんて恐れ多いと思っておく。
「俺の話は単純だ。あの移動商隊を仕切るお頭さんにとある情報を預けられたのさ」
「では、バックアップ、というのは万が一自分たちになにかあればということで?」
「そういうこと。だけど、こいつはシファーに言うより俺がファヴァーヤの第一王子のなんとか様? だかに直接届けた方がいいと思うんだが、一般人が謁見できる例は?」
「そうした特殊な事情でしたらわたくしが宮殿にあなたを恩人としてご招待すれば」
「……悪ぃな、シファー。結局話せないで」
「いいえ。それだけ重要な情報ならばわたくしの耳に入れずお兄様にお伝えするべきだというのとわたくしが知る必要があればお兄様がお話してくださることでしょうから」
「ああ。多分自衛の為にも、な」
自衛の為に、そして他を無意味に巻き込まない為にも必要ならばその兄王子が言ってくれるだろう。そこら辺の判断はその兄王子が決める筈。だったら、早めに王都に入った方がいいかもしれない。あの連中も王宮で仕掛けては来ないだろうし。アホではない。
向こうは明らかに殺しのプロ。そして、目的の為とあらば見境なくなる。いや、見境を消す、の方が正しいだろうか? プロでありながら猟奇的に獲物を追い詰めてゆく。
現在わかっていることは連中の狙いがシファー、王女殿下だってことと商隊のお頭が言っていた情報が「聖堂王国が王女殿下を狙っている」という点だ。双方共に王女シファーが関連しているのは偶然じゃない。きっとなにか意味がある。……いや~な予感だ。
あんまり考えたくはないがあの連中が聖堂王国の放った刺客であり、シファーの誘拐を任せられているとなればやはりまごまごしている場合じゃない。つっても、計画もなく逃亡するのはちょい無理がある。こっちには非戦闘員で標的にされたシファーもいる。
「ここから王宮までどうやって」
「今アクレバが足を手配してくれています。あの
「おお。爆破処分されるかと思っていた」
「まさか。レィオにとっては大事な相棒でございましょう? その、応援の方同様」
「人型相棒の方はただのド級災害、天災とでも呼ぶべき暴虐嵐。正直要らねえよ?」
レィオの物言いにシファーははてな。じゃあ、そこまで嫌っているのならばなぜ相棒を解消しないのだろう? よくわからない。というかまったくわからない事象らしい。
が、レィオとて不明だ。なぜあんなのと組んでいるのか。出会った当初から嫌いあっているというのに。事務所を開業するのに所員がいなければいけないから、だったか?
だが! アレはもはや所員にしておいたらいけねえくらい戦闘の規模がド派手で一般人もそのうち巻き込むんじゃねえか!? とハラハラドキドキの連発だ。そして、その尻ぬぐいは全部建前所長のレィオにやってくる。相棒は好き放題できる。……理不尽だ。
――トゥルルルルルルっ。突然、固定電話の音が聞こえてきてレィオついびびる。
多分、この光景を相棒のあいつが見ていたら意地クソ悪いひねくれ笑みで唇を歪ませて笑ったことだろう。脅かしやがって、と思いレィオが電話の子機を取ろうとしたがシファーが止める。彼女の顔を窺ってみるにどうやらこの音にもなにか意味があるようだ。
着信音は三回鳴って切れ、もう一度かかって、一回で切れてさらにかかってきたのをようやくシファーが取った。王女の瞳には厳戒の銀色。彼女はなにも言わないでいる。
「裏二の出口から」
「ありがとうございます。アクレバ」
それだけ。それだけ言葉を交わしてシファーは電話を切り、レィオに合図と共に簡易ローブを差しだしてきたのでレィオはガンベルトを腰に巻き、上にローブを羽織った。
シファーの案内で部屋をでてすぐ左手の扉を開けてそこからは駆け足になったのでレィオは見失わないようについていく。彼女は風のように駆けていき、毒蛇の印が描いてある扉を開ける。レィオが下を見る。ティスクレッガ二頭が手綱をつけて、放ってある。
シファーを見ると彼女は微笑んで飛び降りる。そう、ここは、扉の外は宙空だったのである。つまり、飛び降りねば足に乗れない。ならば、迷う必要は一切合切ないだろ。
シファーに続いて飛び降りたレィオはティスクレッガのそばに着地。生憎シファーのように身軽ではないので多少の音はでてしまうが、勘弁思ってすぐティスクレッガにのぼって乗った。シファーは自分が跨るコの首を優しく撫でて、出発を命じて手綱を振る。
シファーに続いてティスクレッガを駆らせるレィオだが、どうにもレィオの乗るやつは反抗的な目をしていやがる。それこそ「けっ、しょうがねえから乗せてやらぁ」みたいなというかそのまんまな目をしていらっしゃるのでいやな気分だったが、お互い様だ。
いやなのはお互い様なのでレィオは置いていかれないようにティスクレッガにいけよと合図した。するとこちら様、すんげえ不貞腐れ面でぶっすーと走りだした。シファーのに並走してみるがシファーの乗っているのは優雅に上品な顔立ちを装っている謎です。
が、やはり背に乗せる者の持ちあわせるオーラだなんだを敏感に察しているということなのだろう。シファーと比べるべくもなくレィオは平民そのもので低俗にうつる筈。
そこら辺は馬と一緒だ。馬も背に乗った者の感情や気配を鋭敏に察する。んで時として乗り手を振り落とすそうなので、このティスクレッガがそうでないことを願うレィオがうぅむむむと難しい顔をしている横でシファーは複雑そうな表情でいる。悲哀と憤怒。
自分の住まう国の民や町をめちゃくちゃにした輩のところに今すぐにでも戻って首をあげたいだとかそういう物騒は考えちゃいないと思うが彼女の表情には鬼気迫るもの。
その表情だけでひとを怯えさせて
レィオが見る先でシファーは苦しんでいる。なにかが彼女の心を抉っているようだったのだが、明確になにかがわからない。だけど、苦しんでいるのだけはたしかだった。
「こちらの道をゆきます。近道です」
「わかった」
口数少なくティスクレッガを走らせるふたり訊けないでいる。互いに互いのことを訊けない。気が迷い、心が惑い、言えない。言いだせない。答えられないとわかるが故。
だから口は重くなる。貝のように固く閉ざされてしまうからどうしようもないのだと言い聞かせても知りたい心と踏み込めない遠慮がギクシャクした空気を生んでしまう。
悪循環、とわかっていてもどうしようもない。わかっているからなにもできない。
ティスクレッガを急がせて一路王都へと向かっていった。王都に入ってしまいさえすばいい。王宮に入ればなんとかなる。それが甘かったと悔いたのは夜の只中、だった。
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