閑話 神様のおつかい後編


 ウィル村から王都へとは真逆の南に夜道を走った。距離にして約15km。軽い身体強化しか使えないこの体でも時間にして1時間。時速15km、アスリートでもない人間だとしたらかなり早いレベルだ。


 現在時刻は20時過ぎ。この世界だともう就寝する人も多い時間帯、その時間で私は何をするでしょうか?正解は情報統制でした。わーパチパチ。情報統制の内容はそう、フルールのスキルについてです。断片的でも知っている人間がいたら殺る。その精神で行きましょうか。




 着いた。フルールがスキル確認をした教会だ。この時間もあってか明かりは付いていない。でも居住区っぽいとこは明るいぞ。てことはひょっとして起きている?まあ、やることは変わらん。さあ、It's show time




 コンコンと居住区のノックを鳴らす。気づけば儲けもの、さて気づいたら今後の行動が楽になるんですけどね~




 「はい、どうしまs…失礼ですがどちら様でしょうか?」




 お、かかった。言動から察するに他の泊まり込みで働いている人だと思ってたのかな?




 「その…神父様、夜分遅くに申し訳ありません…その、決断までにあまり時間がなく相談に乗ってもらいたいと思いここに来ました。お願いします、不躾なお願いですが私の相談に乗ってくれない意でしょうか?}




 今の私はつい手を差し伸べたくなってしまう、そんな弱々しい雰囲気を纏わせた幼女だ。イメージはそう庇護欲をそそる、何かに怯えている子羊だ。




 「え…ええ、構いませんよ。ささ、こちらへどうぞ。」




 神父は若干狼狽しながらも快く引き受けてくれた。これぞ大人な対応ってやつっすかね。




 「本当にありがとうございます。」心の底から喜びを感じるように振る舞わないと。変に感づかれたら大変だしね。




 神父は慣れた手つきでお茶の準備をし始めた。こういうのは遠慮する方が無礼になったりすることもあるからね。貰えるもんは貰っとけ精神で行きましょう。




 「それで相談の内容なんですが…私のお仕えするお嬢様のスキルが門外不出でして、そのスキルの内容を漏らした方がいたんですよ。それが別の所の教会の神父さんでして。周りの先輩方からは始末しろと言われてるんですが、私が昔お世話になった人なので正直やりたくないんですが。もしかしたら教会は確認したスキルの詳細を本部か何かに伝えるようであればやむなしとして何とこ回避できそうだと思ったんですよ。」




 「ほう、それでこの私とこに来たのは本人に聞いた場合、保身のために嘘を教えられるかもしれない。だから中立、もしくは部外者の私に聞きにきたというわけですか」




 「その通りです神父様。察しが速くて助かります。そこで本題ですが教会側からスキルの詳細は本部か何かに送るようになっていますか?」




 「質問の答えですがそもそも確認したスキルの事に関しては本人、または希望すれば両親などにしかお伝えしません。これは教会が神父を育成するときに教えられる教本にも書いております。スキルの情報を漏らすだけで神父の資格を剥奪されるレベルの重罪に相当します。なので私含めて多くの神父は剥奪されるのが怖いですがらそんな馬鹿なことはしないでしょう。なのでもしかするとその神父は重罪を犯してまで何かをしたかったのだと私は思います。」




 「そう…ですか。」ふーん、嘘をついているような感じではなさそうだな。なーんか拍子抜けだな。折角陰に潜む暗殺者みたいなことをやってみたかったのに。




 それにしてもこの分体は不便ですね。もうサクッと殺したいのに魔法的スキルがないから出来やしない。地道に刃物使うしかないんですわ。んじゃ、さいなら~!




 私は太腿につけていた刃渡り約15cmのナイフを取り出し、机越しに神父の胸に突き立てた。手はぎりぎり届いたよ。血が白い寝間着を白く染めている。その光景は写真にでも残しておきたい程美しかった。


神父は何がなんだか分からない表情をしたが、まるで他人事のように冷静に状況を理解し、諦めのような表情をし始めた。




 「…なる…ほど、相談内容は私の事でしたか。…どうやら私は知っては…・いけないことを…知ってしまったようですね。」




 「ええ、察しが速くて本当に助かりますよ。貴方は知ってはいけないことを知ってしまった。誰にも話してないようですし仕事が速く済んで助かりましたよ。今回は運が悪かったとして来世に期待ですね。」




 「はは…来世か。マルトレーゼ様…来世はあまり…苦労せずに生きたいですな。」




 「ええ、私もマルトレーゼ様にそうなるように祈っとくわ。だから安心して逝きなさい。」




 「つくづく…私も運が悪いですな…」




 午後8時24分、被疑者の死亡を確認っと。いやぁ、速く済んでよかったよかった。現場は…まあ私の足がつかないからこのまま放置でいっか。んじゃ、邪魔者は始末したしさっさとかーえろっと。お使い終了っと。




 「これで私も陰ながらフルールの役に立ってるよね。そうに違いないよね!ハハハハハ!」




 やっぱり夜は好きだ。何をやってもバレにくい。そんな時間帯。暗躍するにはもってこいでしょう?私の問いかけに応えるかのように空には真っ暗な新月が浮かんでいた。




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