第48話 スイーツの侵略

 

 拝啓、前世の両親へ。


 昔は忍者の事を素っ破と呼んでいたみたいです。呼び方が変わったのは江戸時代からだそうです。当時はあまり身分の高くない存在だったそうですが、戦国時代後期から徐々に評価されるようになったそうです。ただ、平和な江戸時代になり、段々と素っ破の仕事が無くなってきて、また軽んじられるようになったそうです。

私達もいつ評価が変わり、首を切られるのか分からないような存在なので、今の内からお嬢の心内評価を変えていきたいですね。




              敬具

              フルール・ヤマト・ジャポニカ







 時刻は11:20。なんだかんだで待ち合わせの時間まであと40分ってとこまできた。あれから全く寝ておらず、徹夜テンションなので気分がハイッ!!になってます。南区の噴水広場前は有名な待ち合わせスポットである。前世でいうところの渋谷のハチ公前みたいな感覚だ。

当然ながらそこにはたくさんの待ち合わせをしてる人がいる。私は万が一のために目立たない格好をしてきた。前髪で目元を隠し、ちょっとダサい丸眼鏡。メイクでそばかすを作り、田舎でよくあるダボっとした服を着て、極めつけに周りをキョロキョロする。お上りさん丸出しのスタイルだ。

勿論、鈴ならば私が変装してようが、簡単に見分けられることができると踏んでの行動だ。……あれ?今世の姿を一回しか見せてないような…まあ、私たち姉妹は愛があれば、見分けられるから。多分大丈夫!…多分。



 そして、待ち合わせ時間になった。鈴の性格だから必ず5分前に来ていると踏んでいたのだけれども…来ない。やっぱり何かあったんじゃないか?鈴があんな目やこんな目にあわされて「お姉ちゃん、来たよ」いたら私は…やっぱり消しといた方がよかったかしら?鈴の「ちょっと、お姉ちゃーん?妹が来たよー?」安全のためにはあのクソ貴族は風穴開けといた方がいい気がしてきた。そうと決まれば話は早い。早速ウラアーリ邸に乗り込んで成敗じゃ!「おー-い!お姉ちゃん!」

そこでは私は初めて鈴がこの場に来ていることに気が付いた。鈴の恰好はウラアーリ邸の標準メイド服だった。仕事の途中で抜け出してきたのかな?


 「ん?ああ鈴。よく来たね。ピッタリ時間通りかな?」


 「もうお姉ちゃんてば、あんなに呼びかけたのに…何をそんなに真剣に考えていたの?」


 「それはもちろん、鈴の安全のことだよ。もし来なかったらこのままこの足でウラアーリ邸にカチコミに行ってたよ。」


 「もうお姉ちゃんそんな危険なことしちゃ駄目でしょう…それも今更か。」


 「そうだぞ、今更だぞ。今まで綱渡り状態でこの世界を生きてきたから。」


 「貴族相手に嘘騙ったんだっけ?字ずらだけ聞けばかなりやばいことやってるね。まあ、流石お姉ちゃんとしか言いようがないけど」


 「それもそっか。異世界に来ても片山瑞希は留まることを知らない(キリッ)って感じだね」


 こんな感じで雑談するのは私にとって約15年ぶりだ。この15年間に起こったことすべてを語りたい気分だったけど、そんなことしたら1日では済まされないから自重しないと。


 「では、早速本題に入りたいけどこんな場所じゃなんだしどっかのカフェでも入ろうか」


 「うん、どっかおすすめの店あるの?」


 「もちろん、ガブリエル伯爵領にもチェーン展開していたスイーツ店があるんだ。その本店が王都にあるからそこに行こうか。場所は北区のル・ファンタスクって店だよ。」


 「え?ル・ファンタスクってあの?フランスの駆逐艦?」


 「そうさ、びっくりするだろう。私が行ったのはル・テリブルだったけど、まさかこの名前がこの世界にあるとは思わなかったよね」


 もちろん鈴にはちゃんと軍艦について布教済みなので、一般人よりかは知識があるぞい。


 「ほんとにびっくりだね。その人ももしかして転生や転移者なのかな?」

 

 「私が前に聞いたときは私以外送ってないとか言ってたけど、鈴がいるからその発言は嘘になったし…ほんとアイツは嘘なのかどうかよく分からない奴だな」


 「ね。私もあのクソ女神に一発食わされたから…思い出したら腹が立ってきた。」


 「まあ、後でシバくとして…早く行こっか?」


 

 南区から歩いて30分ぐらいで目的のル・ファンタスクについた。もちろん店の外見はすごくオシャレで、ドレスコードがあってもおかしくないような雰囲気だった。


 「…今気づいたけどこの服装で大丈夫かな?私だってバレない様にお上りさんスタイルで来たんだけど……まあ止められたらそん時はそん時よ」


 「この行き当たりバッタリ感…間違いなくお姉ちゃんだよ」


 中の内装はル・テリブルと同じような高級感溢れる貴族の屋敷のようだ。なんだか最近こういう貴族内装?に慣れた気がする。まあ、職場が正にそれだからね。仕方ない。


 「へえ、やっぱり貴族の屋敷を意識してるだけあってちゃんとそれっぽいんだね。」


 「そうだね、この店はここが売りだからね。さてと、本題に入ろう。私たちはガブリエル伯爵家の素っ破だね。人がいるから言い方は濁してるけど。それで鈴はうちに移ってもらうことになってるけど、基本の仕事は普通のメイドと一緒だよ。ただたまに素っ破として働くね。」


 「うん大丈夫。なんたっていつの間にか勇者?になってるからね。戦闘面は任せてよ。メイドとしての仕事は今の本職だからね。」


 「うちに来るのはいつごろになりそう?」


 「大体1週間後ぐらいだね。色々引継ぎがあるしね。ただ、一つ問題があって色々ヤバいことを見ちゃってるから自発的にやめれるかどうか分からない。大体首になった人は処分されてるしね。」


 「…やっぱり黒か…そこはあれよ、最悪夜逃げした後に髪色変えてうちの妹ですーってのうのうと表舞台に出てくればモウマンタイよ。容姿から察するに遺伝子はそのままなんでしょ。だったら元の黒髪に戻しちゃえば大丈夫そうじゃない?」


 「そうだね。やっぱりそうするか。この世界には金髪が多いから色をあのクソ女神に変えてもらったんだけどね。けど黒髪ってここの王族しかいないんじゃない?色々問題になりそうだけど。」


 そっかそれもあったか。どうしよう、けどそのままうちのいも(略)で何とかなりそうだけどね。


 「まあ、ジャポニカ帝国は別の大陸にある設定だからね。髪の色ぐらいどうとでもなるでしょう。」


 「別の大陸にあるって…どうやってこの大陸に来たの?って話にならない?」


 あー、その問題があったか。やばっどうしよう。


 「宝物庫に『思い浮かべた人物の場所に転移できる宝玉(使い切り)』があったって嘘だったらいける気がする。」


 「じゃあその嘘で行きましょうか。それはそうとなんであの屋敷で働いていたの?全くいいうわさを聞かないようなとこだから気にしなかったの?」


 「…お金をためて探偵か情報屋にお姉ちゃんの事聞こうとしてのよ。そのために働こうとしてんだけど、いい職場には学歴必要→王都にある学校は貴族学園しかない→入るにはお金が必要→そのためにはちゃんとした職場で働く必要があるの負のスパイラルに陥ってね。もうなりふり構ってられなかったの。最悪冒険者って選択肢もあったけど、なんだかんだでそん時は怖かったからこの道に進んだよ」


 うう、鈴苦労してたんだね。お姉ちゃん泣いちゃう。どうしようお小遣い上げたくなってきた。前は鈴の方がお給料高かったから上げられなかったけど…


 「…苦労してたんだね。よし、今回は私のおごりだよ。たーんとお食べ」


 「女性にスイーツを沢山食べさせるなんて、太れって言ってるのとほぼ同義だよ。まっ、ここはお言葉に甘えて沢山食べるけどね。」



 そして、私たちは一心不乱にスイーツを食べ始めた。体型の事なんて気にせず、明日からダイエットすればすればいいやの精神で。ちなみにお会計を見た時の私は二重の意味で「ヒエッ」っと声を上げましたとさ。給料一か月分…あとどんだけ運動せなあかんのや






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