第46話 神を喰い千切うる剣を持つ少女
人を刺した感覚は、気味が悪い。ぬるっと肉に刃が入り込んでいく感覚。あの感覚がどうも忘れられない。
だた、初めて殺した時にはそんなこと微塵にも思わなかった。あの時はアドレナリンが出ていいたのだろう。高揚感でいっぱいだった。
ただ、少し時間が経つと、血がベットにじんわりと広がっていく光景が頭からこびりついて離れない。やっと長年憎かった相手を殺せたのに。
ただそこで神剣アストライヤの効果のマインドコントロールが働いたのだろう。もう気味の悪い感覚はなくなった。
『おう、おつかれちゃん。で?どうだった?人を殺した感想は。』
『控えめに言って最悪。ここまで気味の悪いものだと思わなかった。』
『そっかそっか、で?続ける?ここまでだったら引き返せるけど。』
『ハッ、愚問よ。引き返すわけないでしょう。お姉ちゃんを苦しめたやつらは全員地獄に落とすと決めているの。こんなところで立ち止まっててはいられないわ』
『さよか。じゃけん次行きましょうか。次は小野寺愛子です。』
私の長い長い、復讐が始まった。
そこからは怒涛の毎日だった。寝ても覚めてもターゲットのことを考える日々、殺すのは夜の方がやりやすいから、必然的に夜になっていたけど。
そして1週間がたった日、ついに全員を殺すことに成功したのである。
『お疲れ、これで全員殺すことができたよ。…やっぱり、この世界には未練はないのかな?』
『まあね。私にとってはこの世界は家族が最優先。それ以外は割とどうだっていい。』
『…そう、世界を作った側からしたら、未練あって欲しいんだけどな。まあいいでしょう。ではご両親をあの場に呼びますね。』
視界が歪んだ。もう何回も経験してきた感覚だ。いい加減慣れた。
「お?この空間……そうか…終わったのか…」
「そうね、終わったみたいだわ。」
父と母の声が響いた。その声音は達観したような、また、侘しさを感じる声だった。その理由は二つほど考えられる。
一つ目は、娘が連続殺人を起こしたこと。二つ目はこの空間に再度招かれることは、私とのお別れになってしまうから。
私は両親を不安にさせないべく、いつもより声のハリをよくし、ハキハキと喋った。
「うん、終わったよ。あの人たちを地獄に送ってやったよ。」
よくよく考えてみれば、私の方こそ地獄に行くのではないのか?
「そんこと起こる筈がないでしょう。だって私が人を裁くのだから、私こそ法なのだからね。」
そう言いながら、今回の諸悪の権現?なマルトレーゼはこの空間にやってきた。
「やあやあ、こんばんは諸君。みんなのアイドルマルトレーゼ様だよ」
「こんばんはです。管理者がそんな感じでいいんですかね?」
「まあまあ、バレなければ犯罪じゃないんですよ」
屑だな。
「はいはい、屑ですよ~~それで今回この場所にお呼びしたのは、前回の計画が終わったのでご報告をさせて頂きます」
急にマルトレーゼの管理者の恰好から、スーツに着替え、眼鏡をかけた。
「無事怪しまれることも無いまま、終わりました。そして、今回は前回説明させて頂いた、鈴華さんを瑞希のいる世界に転送させて頂くことになってます。もちろん任意ですが」
「……そうか…鈴華はそれに納得したのか?」
両親の心境はきっと複雑なものだろう。長女を亡くし、さらに次女までいなくなるというのだから…
「うん。私は納得してる。お姉ちゃんを一人にさせちゃうから…お父さんとお母さんには悪いけど…」
「…そう…うう、泣いちゃダメよ桜。ここは笑顔で娘を見守らなきゃダメよ…じゃなきゃ安心して鈴は向こうに行けないわ」
「母さん、言葉にしないでくれ。最近年のせいか涙腺が脆くなってきているんだ。つられて泣いてしまうだろう…」
「…親子の語らいの場に邪魔者はいない方がいいですね。心の準備が終わり次第読んでください。」
そう言ってマルトレーゼはこの空間から出て行った。そして今この場にいるのは私たち片山家だけになった。
そして、マルトレーゼがいなくなった瞬間に、母が抱き着いてきた。その顔は涙と鼻水でぐちょぐちょだった。そして、父もつられて抱きしめてくれた。久々に感じる家族の暖かさは饒舌しがたい感情だった。私はこの暖かさに心をやられ泣き出してしまった。それもそのはずだ。なんせ今生の別れなのだから。
「…もう二人ともやめてよ…さすがにこの年では恥ずかしいわ…それに二人に親孝行も出来てないままなんて…」
涙ぐみすぎてちゃんとした発音が出来ていただろうか。それほどまで私は感極まっていた。
「何を言っている鈴。父さんと母さんにとっての親孝行はな、この世界に生まれてきたことと、娘たち二人が幸せに暮らせること。それ以外ないのだよ。」
「もうお父さんのくせにカッコいいこと言っちゃって。けど、それが本音だから、鈴は私たちへの親孝行なんて気にせずに、生きてほしいわ。もちろん向こうで瑞希と会ったらこのことは伝えといて欲しいわ。」
「うん。ごめんなさい。不出来な娘でごめんね。本当にごめんなさい。」
「ハハッ、いいか鈴よ。鈴が不出来なら、世界中のすべての人…いや、母さんと瑞希以外の人が不出来になってしまうぞ。そんな筈はないだろう。世の中には不出来じゃない人は沢山いるだろう。だから、鈴は不出来じゃないよ」
父さんはニヒルな笑みを浮かべながら持論を展開してきた。
「お父さん理論成立してないよ。まったくお父さんはそれっぴこと言おうとしたら必ず理論が成立しないんだから。」
「ちょ、母さん。折角カッコよく決めていたのに。台無しじゃないか、ほら、鈴も呆れているだろう。」
父よそうじゃない。呆れている対象はあなただ。
「ふふ、何だかこういうのも久々な気がする。お姉ちゃんがいた時はこういう事よくあったのにね。」
これこそが家族愛だろう。この胸の奥深くから温まる感覚。何にも代え難い。
「そうね。これからはこの家族団欒が無くなってしまうけど、私たち片山家は通じ合っているからね。片山家の掟その1!」
「「「片山家の家族愛は不滅!たとえどれだけ距離が離れようとも、誰かが欠けたとしても!」」」
私たち片山家の掟。今では簡単に復唱出来るまでになってしまった。
「フフフ、やっぱり私たちは仲がいいのね。…鈴、向こうに行ったら瑞希によろしくね。」
「そうだぞ、次に会う時は天国だからな。決して俺たちより早く来るんじゃないぞ。」
「ええ、しっかりと伝えるわ。それじゃあマルトレーゼさんお願いいます。」
「お?もういいの?前にも言ったけど、ここは時間の流れが止まっているからどんなに長く居てもいいのに。」
急に現れるスタイルだから、気を付けてないとビックリするタイプの登場の仕方だ。
「はい、これ以上長く居ると分かれずらくなりますから。…ではお願いします」
「では、最終確認を、鈴さんは瑞希さんのいるマルメア王国の王都のすぐそばにおろします。そこからは自力で探してください。眷属の家族とは言えあまり介入しすぎるのはよくないですから。あと容姿も髪色だけ変更させて頂きます。マルメア王国では黒髪は王族しかいないので…瑞稀が現在金髪なので、鈴華さんも金髪にしますね。所持品は神剣アストライヤ、金貨9枚と銀貨100枚こちらの価値だと大体1000万円、そして身分証ですね。
神剣アストライヤには現金収納、まあ利子のつかない持ち運び銀行みたいな機能を付けたのでそこにお金を入れてください。では、準備はいいですね?」
「はい、大丈夫です。」
「では、あなたに神のご加護があらんことを」
またいつもの空間の歪む感覚、もう両親には会えないけど、今度こそ私はお姉ちゃんを守るのではなく、お姉ちゃんと同じ道を歩む。それこそが私の使命だ。
「あっそうです。伝え忘れてましたけど、瑞希が王都に来るのは約2年後です。それまで頑張って生活の基盤整えてくださいね。」
意識が途切れる瞬間、マルトレーゼのしてやったり感を出した宣告を耳にした。
「神剣か…アンタの考えに乗っかるのは癪だけど、私の目的の為にはしょうがないか。待っててお姉ちゃん」
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