第45話 お早い登場


 「まずはここ紹介を、私はマルトレーゼ。この世界を含め3つの世界を管理している管理者です。

 今回お呼びしたのは私の可愛い可愛い眷属である、片山瑞希が死亡した事について、ひいては今後の対応をお話しさせていただきます。」


 そう言ってマルトレーゼは何もない場所から黒板とチョークを取り出し、説明を始めた。


 「前提として、彼女の死因はストレス性の心不全です。これは管理者として責任を持って断言できます。

 そのストレスの要因ぼ殆どは職場での関係が原因です。職場を調査したところ、部署全体でいじめとされる行為が確認出来ました。内容としては、無視、不当な量の仕事量の振り分け、ミスを全て押し付ける、所有物が無くなる、また破壊される等です。後は未遂ではありますが、会社の資金を横領したとして不当に解雇また損害賠償請求をしようとしてる計画も発見しました。勿論証拠は抑えております。他職場以外での悩みは自分の性に対する認識、また学生時代のトラウマからなる対人関係のストレスも該当できます。

 私の可愛い眷属に対してここまでの事をしたのでそれ相応の報いは受けてもらいます。

 報復の内容ですが、管理者が直接手を下すのは規定違反です。それの抜け道というか公然の秘密とも言えるのですが、代理人を立てて間接的に手を下す場合は問題ないのでその方法をとります。それでその代理人として、瑞希の妹である鈴華さんにお願いしてその旨をご報告した次第であります。」


 長い説明が終わった頃には母はまるで「ばななぁ」と言ってもおかしくないようなアホ面を晒し、父は深く思案しているようだった。


 「ハッ…つまりどういう事だってばよ!」


 母はキリッとキメ顔をしながらマルトレーゼに質問した。


 「やられたらやり返す、倍返しだってことよお母さん。」


 「そうですよ。あのゴミどもは粛清しないとあんなゴミ遺伝子残される方が困りますから」


 「ちょっといいかい、マルトレーゼさん。少なくともうちの娘が陥れられそうだってのは分かったが、何故貴女は娘にそこまで気にかけてくれるのか?また、眷属とは一般的にどのような扱いなのだ?」


 今まで沈黙を貫いてきた父が言葉を発した。ああ、お父さんトランスモード入ってる。多分『これまじ厨二展開じゃん!テンション上がってきたぁ』ってなってるよ。


 「大体は自分のお気に入りの人間を眷属にする事が多いですね。私はチラッと瑞希の事を見つけて、そこで気に入った感じです。んで眷属だから何かするって訳でもないです。どっちかって言うと他の管理者に対して「この子私のお気に入りだから手ぇ出すんじゃないよ」って宣言するようなもんです。」


 「…成る程…だが、鈴を巻き込理由が分からない。管理者とならば他にも眷属が居るのではないのだろうか?」


 「あっれー?もしかしてさっき鈴華さんに説明した事と全く同じ事聞かれてる?はぁ〜やっぱり親子って似るんですね。ちょっと感心です。ではそこも説明を」




 (作)ここで前話で説明した事を話してます。同じ事だから書くべきか悩んでいたけど、カサ増しみたいだからカットです。ほらあれだよ、英語で同じ2回目に出てきた言葉は省略するやつ。それと思ってくだせぇ。

 内容としては鈴華を死んだことにするとか言ったあとから再開です。ではよーいアクション!





 「鈴が了承しているなら私からは何も言わない。それでいいだろう母さん。」


 「分かったわ、さと君がそう言うなら…ただ、うちの娘達に酷い目に遭わせたら…覚悟してくださいね。例え地獄の底に堕ちようとも、貴女に倍返しするわ。

 片山家の掟その2、やられたらやり返す倍返しだ。だからね」


 「ええ、勿論ですとも。その時は甘んじて倍返しされましょう。さて、計画の方に移りますが、ターゲットは全部で8人を想定しています。

 まずは会社編から、1人目、斎藤綾香。瑞希の同僚。罪状はSNSを通じて瑞希の同性愛を探し当て、それらを会社に吹聴した事。

 2人目、安西健悟。斎藤綾香の彼氏。罪状は綾香と一緒に積極的に吹聴してこと。

 3人目、萩原環奈。瑞希の同期。いじめの中心的存在。この人がハブりやミスの押し付けなどをしなければいじめはここまで大きくならなかった。

 4人目、久保久光。瑞希の上司。不当な量の仕事の振り分けで瑞希のメンタルを削りまくった。部としていじめの存在を隠蔽したため有罪。

 5人目、三郷仁志。会社の資金を横領しその罪を被せようとした。未遂だがラインを超えたため有罪。

 6人目、根本光輝。三郷仁志とともに計画を立案し、実行しようとしていた為、共犯として有罪。

 トラウマ編は1人目、西道ちなつ。旧制川野。瑞希の学生時代のいじめグループの中心的存在。トラウマの7割がこの女が原因。

 2人目、小野寺愛子。いじめグループ中で川野ちなつの次にいじめていた女。トラウマの数ではちなつより少ないが、瑞希の一番深いトラウマを植え付けた人物なので有罪。

 以上、会社編6人、トラウマ編2人となります。」


 「長いわ、とてつもなく長い…んでその8人を鈴が殺るってわけ?でも、本当に鈴は人を殺せるの?しかも8人も常人だったまず無理よ」


 母の疑問は至極当然だった。常人は人1人殺すのですら難しいそれをいきなり8人だなんて無謀に近いだろう。


 「そこで私の作った道具が役に立つんですよ。テッテレー!神剣アストライヤ!これを使えば正義だと思って人斬ってもマインドコントールで大丈夫になるって事。

 まあそれは副次的な効果で、本命の効果は所有者が正義だと思っていた場合、全てを断ち切ることができる剣なんだよ!勿論概念だって物理法則だって全てを!断ち切ることができる!しかも、オートアシストモードも完備。剣を扱うのが初めてでも、名を馳せた剣豪よりも強くなれることができる優れものさ!」


 「おおー、でもお高いんでしょう?」


 母よ、ここはふざける場面じゃないぞ。


 「それが今回は特別価格で無料でご利用頂けます!」


 「まあ、お得!鈴、これは買いよ!」


 「まあ、そのつもりだけど。てかアストライヤって確かギリシャ神話だっけ?正義の女神の名前だよね」


 「勿論そこからとりましたよ。人間の考える神話は面白くて好きです。実際にはそんな神居ませんけど。」


 「はぁ、そうですか。管理者がそう言うんだったら。どっちかって言うと管理者より神って名乗った方が良いのでは?」


 「いえ、私達はそこまで驕ってないですよ。確かに人間から見たら管理者は神に見えますけど、私達や宇宙を創造した神は一柱だけ居ますから。私達は星は作れますけど、宇宙は作れませんから。まあ便宜上神を名乗る事はありますけどね」


 「…それで計画はいつ実行なのだ。」


 「まあ鈴華さんの都合がつく日で良いですよ。今からで良いなら今すぐGO!出来ますが…」


 「今すぐ行きます。ゴミどもをこの世界に残ってる事が私は許せない。」


 「本当にいいの?言ってなかったけど、殺した相手は不慮の事故、あるいは失踪って事に世界のログを書き換えるからね。よって疑われる可能性0%だよ。

 そして、貴女は瑞希が亡くなった事を知って後追い自殺したって事になるからね。もう友人とは会えないよ。両親は異世界に送る前に最後に会わせる事は出来るけど。本当に良いのね?」


 「はい……あっ、でもお姉ちゃんの遺品整理終わってなかった…」


 「……終わってからにしましょうか。仕事はもう行く必要が無いので夜通しやりますよ。では片山智さん、桜さん、そして鈴華さん本日はお時間を頂きありがとうございました。この空間は時間の流れは止まってるので、向こうは23時ですね。ではお疲れ様でした」



 そしてこの空間に入った時のように視界が歪んだ。流石に2回目だから1回目より嘔吐感は少なかった。






 お姉ちゃんの部屋に戻ってきた。時計を確認してみても23:13。行く前と同じ時間だった。



 「さて、どうします?瑞希の遺品整理手伝いますか?」


 そこには最初の笹村美海の姿をしたマルトレーゼがいた。


 「と言うか居たんですか。普通に帰ったかと思いましたよ。それで質問の答えですがいいです。これは私のケジメじゃ無いですけど、決意ですから。」



 「そうですか、では私は持ってきた酒飲んでますね」


 この管理者自由すぎない?






結局遺品整理が終わったのは午前3時を回ったあたりだ。その頃には私は疲労困憊でヘロヘロだった。体力には自信のあるほうだったけど、やっぱ年齢には逆らえないね。



 「遺品整理終わりましたよ。では早速断罪に行きましょうか」


 「結構ウッキウキなんですね。」


 言われて初めて気が付いたが私はどうも気が高揚していたらしい。


 「合図をしたらターゲットのいるとこにワープさせます。それでは行きますね。では3、2、1、いってらっしゃい」


 またあの視界が歪む感覚だ。けどなぜか今回の感覚には嫌悪感がなかった。


 目を覚ました先に映った景色は普通の住宅街だった。目の前の家の表札には西道と書かれていた。

 

 「ここが最初のターゲットの家か。案外普通の家庭なんだね。」


 『そりゃ、そうですよ。瑞希は今年で28。同級生は普通に結婚したり子供を産んだりして幸せな家庭を築いていてもなんも不思議じゃありませんよ。』


 ん?なんか念話みたいなの飛んできた。まあ正直ありがたい。どこにターゲットがいるのか分からない状態だったから。


 『そうですよ。お助け念話モードです。んで、ターゲットは二階の寝室にいます。旦那と一緒に寝てますが、熟睡してるので問題ありません。』


 でもどうやって二階に侵入するんだ?別に私は潜入の心得なんてないただの一般人だけど…


 『そこは透明化&消音の魔法をかけてるから問題ナッシングだよ。』

 

 なるほど神様も便利なもんだ。鍵も開けてくれるの?


 『そうです。自動ロック解除です。便利な魔法でしょう。』


 ではさっそくお邪魔します。…中は時間も時間だしまったく電気がついてなった。玄関のまっすぐ先に二階への階段はあった


 『二階に上がって廊下の突き当りが夫婦の寝室です。間違えないでくださいよ』


  ええ、分かってるわ。私はそこまでドジじゃないわ。

 

 寝室に入った。中には男性と女性が寝ていた。今回もターゲットは女性のほうだ。


 『さあ、早速神剣アストライヤを抜くのじゃ。え?どこにあるんじゃって?それは所有者が出したいと思ったときに出る仕様だからの。スペースとらず、両手がふさがらない便利な機能じゃ。』


 私は心の中で剣よ出てこいと念じた。すると、目の前に刃と鍔以外は澄んだ水色。刃紋は真っ直ぐではなく、3回波を打っている。鍔が羽の形をしており、グリップ方面に伸びてい両手剣が出てきた。鍔の真ん中には15個の真紅の宝石が組み込まれている。形は乙女座。柄頭にはレリーフが刻まれており、その意匠は女性が微笑みながら剣を逆手に持ち下に向けていた。

 この剣を見た最初の印象はなんと綺麗な細工なのだ。名前の通りアストライヤにふさわしい意匠だ。


 この剣ですべてを終わらせ、すべてを始める。私のお姉ちゃんとの生活を。

 

 そう決意し、私はベットで寝ている西道ちなつの胸へと剣を立てた。







 



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