H3








 人は絶対に何かしら欠点を持っていると私は思う。例えば金遣いが荒いとか人を殴る事に快感を覚える人とか、それは人によって千差万別だ。




 ただ、極稀にその欠点を見せない人がいる。


その人達はとんでもない大嘘つきか狂人だと思う




 そして私は両方に当てはまる。他人にバレない様嘘を吐き続け、心の奥底では気が狂っている様な考えしか出てこない。




 欠点が無い、もしくは見えないと言うのは私の婚約者も同じだ。外面は高身長高学歴高収入といった理想の体現だが、私レベルになると簡単に見抜けてしまう。彼は傲慢で全てを下に見ている。例え国王であっても神であっても、自分が一番上だと信じてやまない。




 今日はそのクソみたいな思考を持った人と食事をしなくてはならない。考えるだけで憂鬱だ。味のしない食事だけでも憂鬱なのに取り繕わないといけないなんて。ハッキリ言って拷問に等しいレベルだ。






 「今日は忙しい中私の招待に応じてくれてありがとうございます。有名なレストランを取ったんですよ。貴族でも中々予約の取れない店なんです。では行きましょうかーーー様」






 はぁ、退屈。そして憂鬱。控えめに言って気持ち悪いその下衆みたいな思考が簡単に読み解けます。どうせ『ここでかっこよく見せたら評価高いでしょ、そしてゆくゆくはこいつで楽しませて貰おう』とか思っている。これは断言できる。






 けどダメよーーー。ここで自制しなさい。ここで自制しないと色々な方に迷惑がかかってしまう。


 私には迷惑かけまくってるのに周りは私に気を遣わないといけないのは可笑しな話だが。












 やっと終わった。クソ婚約者の話は聞いていて苦痛に感じる。今の経済や国の事業とか、ハッキリ言って興味が無い。この国が滅んだとしても余り悲しまないと思う様な女にそんな話をするなと言いたい。






 「ーーー様では、お部屋まで送ります。御寛ぎください。」






 護衛の人も大変だろうな。こんなクソみたいな主人に使える事になって。表面上は立派でも、中身はゴミだから。


 いけないいけない。段々と言葉使いが悪くなってきていた。気を付けないと。






















 今日は久しぶりに街にでてみよう。この歪んだ心を正してくれる物があるかもしれないし。けど面倒なのが護衛が廊下にいる事。普通に部屋から出たらバレる。護衛と一緒なんて面倒臭い。


 ここは私のオリジナル魔法の出番だ。私の他者に成り切る、自分じゃない誰かを演じる事に神様が何か思ったのか、私は変身魔法「メタモルフォーゼ」(名前は自分で付けた)を使える様になった。


 昨今の研究では変身魔法は存在しないと結論付けられている。それなのに私はこの魔法を使える。まあ、誰にも存在を明かしていないから知るよしもないのですけど。




 それで脱出作戦は窓を開けて、鳩にでも変身して飛び立つだけだ。但し、服や装飾品までは変更出来ないから、隠れ家的な場所に一回行かないといけない。鳩の姿から戻ったら全裸だから。いくら侍女に裸を見られ慣れているとはいえ、知らない人や異性に見られるのは恥ずかしい。






 さて、洋服を脱いで部屋に隠したからさっさと行きますか。


 視点が低くなる感覚はどうも慣れない。それに手も羽になっているから違和感しか感じない。ただ、空を飛ぶのは好きだ。自分の考えていた事や境遇のがちっぽけに思えてくる。本当は全てを投げ出したい。逃げ出したい。けど許されない。私がしっかりしないと。私が見本にならないと。私が導かないと。私が…私の存在意義を見出せない。










 隠れ家に着いてしまえばこっちのものだ。この隠れ家は前に部屋から出た時に見つけた場所で家と家の隙間の十字路みたいになっている場所だ。ここには街で使う用のお金と平民っぽいの洋服がある。服は完全にバレない様にする為に男性用だ。別に簡単に体変えられるから問題はない。




 さっさと着替えましょう。流石に長い時間部屋から居なくなったらバレるから長くても2時間で帰らないと。




 やっぱり街は騒がしい、けど何故か喧騒は嫌じゃない。この喧騒が私の存在を紛らわせてくれるからか、はたまた私と同じ悩みを持つ人がいると勝手に思い、同族意識が湧くからか。不思議な感覚だ。




 この街に生きる人は何を思って生きているのだろう。何の為に生き、死んでいくのだろう。自分の産まれた意味を知ろうとするのだろうか。


 私は知りたい。何故私は欠陥を抱えて産まれたのか。何故神は全ての人が完璧になる様に作らなかったのか。神はこの現状を見てどう思うのか。






 「へい、にーちゃん。よかったら掘り出し物見ていかないか?」




 私は”それ“を目にした時、吸い込まれる様な錯覚に陥った。まるで、この世で行われた善行全てを具現化した様な白金の杯。そう表現するのが最も正しいだろう。






 「では、これください」






 ”それ”を見た時、心が少なからず動かされた。期待してみようかな。最近は期待する事自体辛かったけど、まだ諦めたくないから。まだ…まだこの腐りきった世の中に負けたくないから……








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る