238 R-そろそろ休みも終わる頃
「――こんなもんかなぁー」
作成した文書の最終確認。
一通り見た限り不備もさなさそうだと、蜜実が頷く。同じく華花も、自身のデバイスでの確認を終えて、『VR実習夏季休暇課題』と題されたファイルへと保存。
「ん、終わり」
先日の第三回特別講習を経て最終稿を調整した課題が、ようやく終わった頃。日付的にも予定的にも、夏休みももう残りわずかといった塩梅であった。
「やっぱりこの仮説、結構良い線行ってそうだよねぇ」
「うん。このあいだも良い感じだったし」
会話の折、三回目の鬼ごっこが思い出される。相変わらずスペック差から捕まりまくってはいたものの……二回目とは違い、ある程度は意図的に思考同調を引き出せていたように思える。無論、恐怖に打ち勝たんとする極限状態が引き起こした現象であるのは言うまでもないが、仮説を補強する成果としては、悪くないだろう。
「後は、試行回数を重ねたりー」
「色んなシチュエーションを試してみたり」
夏休み後、或いはその先々までの展望をざっくりと語りながら、揃って伸びを一つ。
とりあえず今は課題完了、お疲れさまと言うことで。残りの数日、これまで通りだらだらと過ごす気満々であった。
という訳で、ぐでっとソファにもたれ掛かる華花。
「……あー、でも、シチュエーションといえばー」
対して蜜実の方はといえば、華花の言葉に反応して、まだ何かしたいことがあるようで。
「よい……っしょっと」
よじ登るようにして、華花の膝上に対面で座り込んだ。
「
「確かに」
座られた方も満更でもないようで、額をくっ付け至近距離で視線を交錯させながら、小さく笑みを浮かべ合う。
首の後ろに回した腕を交差させ、身体を支える蜜実。脚に肩にと重みを感じながら、華花も両手で腰を抱く。
鼻先が触れるほどに顔を近づけて、そうすれば当然、両者の胸もぎゅうっと押し合う。同じく密着している太ももとのあいだ、お腹の辺りだけが、僅かな隙間に空気を抱き込んでいた。結局それも、上下からの熱でどんどん火照っていってしまうのだが。
「ん-……」
やがて、角度を変えた蜜実の方から、口付けが落とされる。
「ん、ん、っ」
ちゅっ、ちゅっと、啄むような軽いキス。唇の跳ね返りを楽しむようにして、一度、二度。
きっと三度目で、という華花の予想の通りに、次の接触はより強く深く、激しいものに。
「んぅ……」
更に少し顔を傾けて、唇どうしが隙間なく触れ合うように。そのまま、自分の唇で華花のそれをこじ開ける。舌を伸ばして差し入れれば、まずはその先端同士が軽く触れ合った。
「れぅ……んぇ……」
真ん中を通る縦筋を橋渡しに、唾液が上から下へ、蜜実から華花へと降りて行く。
ゆっくりゆっくり、少しずつ少しずつ。その分、透明な蜜の流動が良く分かるように。
どちらも目は閉じていて。その分さらに、口の中が敏感に。
「むぁ……んぶっ……」
一定量流し込んだ後は、繋いでいた橋を外して、攪拌のためミキサーに変える。
「んっ、んぐ……ぐじゅ……」
口の中を舌でかき回され、華花の口の端からは、泡立ったような濁音が漏れた。
舌の上、付け根、歯茎や頬の裏にまで、蜜実の唾液がくちゅくちゅと、口内の至る所に擦り込まれて行って。
気配を感じて、蜜実が瞼を上げれば、思った通り、華花の眉間にはしわが寄せられていた。
そろそろ、華花ちゃんが怒って――
「ひゃぅっ」
――なんて思考を遮るように、或いは実現するように、ここで華花が反撃に出る。
勝手横暴を働くその舌を、前歯で噛んで抑え込む。勿論、怪我なんてしないように優しく、けれども逃げられないようにしっかりと。
「はひゃ、はひゃひゃひゃん……?」
唇どうしは離れ、蜜実だけが拘束されたべろを突き出す形で、もう一度見つめ合う。
下っ足らずな問いかけは、答えの分かり切った、いわば華花を煽る為だけのポーズ。
煽られていると分かっていながら、華花もそれに逆らえない。
はむはむ、かみかみ。
甘噛みを幾度か繰り返すたびに、蜜実の瞳が潤んで揺れる。
隙間を通って滴り落ちた唾液が、二人の胸元に影を作った。目線を下にやり、もうお馴染みになっているその染みを確認してから、華花はようやく歯を離した。
(……解放――)
されない。思った通り。
「ふみゅぅっ」
口を開くと同時、左手の親指と人差し指で、蜜実の舌を再度捕まえる。
「おしおき」
たった四文字の平坦な言葉が、される方の背を震わせた。
めいっぱい突き出した状態で摘ままれているものだから、少しだけ、少しだけ苦しい。
でもそれが、すごく気持ちいい。
「はっ……はひゃっ……!」
捉え抑える左手に続いて、右手までもが蜜実の腰を離れ、口元へと近づいていく。
華花側からの支えを失い、首に回した両腕と摘ままれた舌で体重を支えるアブノーマルな対面姿勢に、どんどん、蜜実の息が上がっていく。
それとなく膝の角度を上げて、蜜実が本当にキツくはならないようにしながら。華花の右手の指先が、突き出されたピンク色の軟体に、触れる。
なぞる。ひっかく。
「ひぅっ……!へっ、ひぃっ……!」
くすぐる。なぶる。
(ここ、そこもっ……そこもぉ……きもちぃ……♡)
なんて考えるたびに、的確に、精密に、良いところを攻め立てる華花の指先。身を捩り快感を逃がそうとするその舌を、摘まんだままの左手が許さない。
「はっ、へっ、へぁーっ……♡」
犬のようにはしたなく、どうしたってそんな声が出てしまう。
蜜実の吐息に乗った震えが、指を伝って華花まで伝播する。
さっきは見下ろす立場だったはずなのに、今はもう、見上げる方に。
締め付けるように、押し付けるように、蜜実の太ももが、華花の腰にしがみつく。
(華花ちゃっ♡ぎゅぅってっ♡ぎゅぅーってして――)
声も聞こえないおねだりは、届く前に伝わって。
「~~~~っ!!……♡♡っ」
ひと際強く舌を摘まみ上げられ、蜜実の身体が大きく跳ねた。
「……っ、っ……、……♡」
痙攣し、反り返る背中のせいで、豊かな胸がより一層、華花のそれに押し付けられて。
「おしまい」
どっくん、どっくんと、大きく脈打つ心臓の音を、華花は満足そうに聞いていた。
◆ ◆ ◆
「――落ち着いた?」
「うんっ」
未だ密着したままの蜜実の心も、とくんとくんと心地良く落ち着いている。
心音に合わせて背中を優しく叩きながら、華花も加虐の余韻に浸っていた。
「で、結局さー」
「うん」
「
「ね」
短く指すのは言わずもがな、つい今の情事にも見られた思考の同調のこと。
経験に基づいて、条件は類推できた。そこから成り立つ仮説を検証する段階まではこれた。が、しかし。つまるところ『なぜ』という点は、さっぱり分からないまま。
「しょーじき、システム的な話になってくると、どうしたって運営さんにしか分からない部分があるだろうしー」
「ね」
考えてはみるが、分からないものは分からない。
「ん~♪」
「んー?」
くっ付け合った額を、すりすり擦り付ける蜜実。
流石におでこはお互い硬く、少しの痛みを伴いながら、目線は至近で合わせたまま。
(聞こえていますか華花ちゃん……今、華花ちゃんの脳内に直接語りかけています……)
(……とか思ってるんでしょ?どうせ)
(せいかーい)
怪電波の送受信でもしているのかと笑う声は、二人の間だけを、幾度も幾度も循環していた。
「っていうか、べろ、ちょっとひりひりするんですけど~」
「えー?……じゃあほら、見せてみて」
「べー」
「……れろっ」
「んゃぁっ♪」
こんなことをしているから、すぐに二回戦が始まってしまうのだと。
分かっていながらも、やっぱり自重ができない華花と蜜実。
夏の終わりも結局は、甘ったるいほどイチャついて過ごす婦婦であった。
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