第47話 温もり。

パシッ


 焚火の中で熱せられた木の枝が、大きな音をたてて爆ぜた。

 その音で、リリアは目を覚ます。

 だが、瞼が酷く重くすぐに目を開けることが出来ない。体中も痛く、僅かに動かそうとしただけで、思わず唇の間から呻き声が零れた。


「うっ……」

「リリア?」


 耳元で声がする。耳に心地よい低めの若い男の声。その声にリリアははっとする。


(この声は……!)


 ずっと待ち望んでいた者の声だった。忘れたことなどない。何度も夢にまで見た。そう、何度も……。

 リリアは急いで目を開けようとした。霞んだ視界の中に、ぼんやりと人影が現れる。徐々にはっきとしていく輪郭に、リリアは震えた。


「──クロウ……なの?」


 零れ出た声には不安と期待が混じる。

 もし、また夢ならもう耐えられる自信がなかった。それほどに、身も心もボロボロになっていたのだ。


「ああ」


 返答は、とても短いものだった。

 だが、リリアの心を歓喜で震えさせるには充分だった。


「クロウ!」


 全身の痛みを凌駕するほどの喜びがリリアを突き動かす。震える手をクロウへ伸ばし、そのまま彼の首に縋り付く。すると、リリアの体に回されていた逞しい腕がリリアの気持ちに応えてくれたかのように、さらに力強く抱きしめた。体を包み込むクロウの温もりが夢ではないのだと教えてくれる。


「……会いたかった。とても会いたかったの……」

「俺もだ」


 この時、二人にこれ以上の言葉は必要なかった。

 見つめ合い、そっと唇を重ねる。お互いの存在を確かめるように。お互いの吐息で溶けてしまいそうだった。

 温かく逞しい腕の中で、リリアは今までバラバラになっていた心と体が、やっと一つになったように感じられたのだった。

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