第12話 伝説の剣。
「きりがない……」
うんざりした声で呟いたのは、黒髪の端整な顔立ちの男だった。見事な剣捌きで次から次へと襲い掛かって来るボルドビアの兵士達を床に沈めていく。
この男はクロウだった。
彼は、今はリリアの側に居ても何の役にも立たないのだと悟り、断腸の思いでリリアの元を離れていた。
更なる力を得るために。
一度、傭兵だった時の仲間達が眠る地を訪れた後、ローラン国へ向かった。
この国では、武勲を立てれば、爵位が貰えると聞いたことがあったからだ。
そして、ローラン国の立ち寄った町で、突如ボルドビアの兵に襲撃されたのだ。彼は逃げ遅れた町の人々を助けながら、共に町から出ようとしていた。
そんな中、敵の兵が大勢いる建物の中へ駆け込もうとしている女の姿にクロウの目が留まった。クロウは寸でのところで彼女の腕を掴んで引き留めたのだった。
『手を放して! 子供達があの中にいるのよ!』
クロウは瞠目する。彼女は無謀にもたった一人で中にいる子供を助けに行こうとしていたのだ。
脳裏にリリアの姿が浮かんだ。
(リリアもきっと子供達を助けるため、突っ込んで行くのだろうな……)
クロウは女の腕を掴んだまま、無意識に優しい笑みを浮かべていた。
その表情を間近で見てしまった女は、惚けた顔でクロウの顔を凝視していた。
『俺が、助けに行く。おまえは他の者達と一緒に逃げろ』
呆然として、固まったままの女を近くにいた者に預けると、クロウは一人聖堂へ赴いたのだった。
聖堂の中は、不思議なほどボルドビアの兵士達で溢れていた。次々に向かってくる兵士達と戦いながらやっと中ほどまでやってきた時、子供達を引きずって来る兵士達の姿が見えた。
彼らもクロウの姿を目にした途端、慌てて子供達を突き飛ばし、クロウに向かって襲い掛かって来た。その隙に子供達は蜘蛛の子を散らすように壊れた机の裏や柱の影へと隠れて行く。
(何とか間に合ったようだな)
元気な子供達の姿に内心安堵しながらも、クロウは聖堂の中に残っているボルドビアの兵士達と一人で戦い続けなくてはならなくなった。
ガッキンッ!
金属の嫌な音が響いた。
クロウの剣が折れたのだ。それほどに多くのボルドビアの兵達を相手にしてきていた。クロウの剣が耐え切れなくなったのだ。
「くっ……」
クロウは折れた剣の柄で、振り下ろされた敵の剣を受け止めた。
彼を取り囲んでいるボルドビアの兵達に残虐な笑みが浮かんでいる。兵達は折れた剣で戦うクロウに対し、まるで猫が弱ったネズミを狩るような嗜虐的な喜びを見出しているようだった。奇声を上げながら襲い掛かってくる。敵兵が繰り出してくる剣先を避け、クロウはたまたま視界の端で捉えた剣へと思わず手を伸ばした。
そして、その剣の柄を掴んだ瞬間、眩い光が弾ける。
「? この光は……!」
光を放つのは、クロウが掴んでいる剣だった。
柄にはめ込まれた石から緑色の光が溢れ出し、いつのまにか刀身までもが同じ色の輝きに包まれている。
この光の色には、見覚えがあった。
(精霊の光!)
「うわぁぁぁっ!」
まるで生きているかのように眩い光を放つ剣を目の当たりにしたボルドビアの兵士達は、酷く驚愕し、悲鳴をあげながら聖堂の外へと一目散に逃げ始めた。
クロウは逃げて行くボルドビアの兵士達を追うことはせず、剣を凝視する。
それは、黒い刀身の不思議な剣だった。初めて触れたというのに、クロウの手にとてもしっくりと馴染んでいた。まるで使い慣れた剣のように。
いや、体の一部のようにさえ感じる。
「お兄さんは、伝説の王様なの?」
おどおどとした声に、クロウは視線を向けた。
いつのまにか隠れていた子供達がクロウの周りに集まって来ていた。どの子供の瞳も、驚きと好奇心、そして憧れに輝いている。顔を上げ辺りを見渡せば、聖堂の中はすでにボルドビアの兵達の姿はどこにもなかった。
「伝説の王……?」
クロウの問いに答えるように声が響いた。
「その剣を持つことが出来るのは、伝説の王だけなのだがな」
若い男の声だった。
クロウは瞬時に剣をかまえ、子供達を背に庇う。
聖堂の入り口に、白いマントを羽織った男が立っていた。彼の白い胴着の胸元に金糸で縫い取られているのは、ローラン国の王家の紋章だった。
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